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プロ野球球団「ラテラルズ」に所属する野球選手のカメオ。
チームの看板選手である。
リーグ優勝を幾度となく争ってきた因縁の相手「バーチカルズ」との一戦で
9回までに4打数3安打2打点の活躍を見せていた。
しかしバーチカルズもしぶとく、試合は延長戦までもつれ込む。
迎えた延長11回ウラの攻撃。
ノーアウトでランナー無しの中、バッターボックスに立ったカメオ。
状況的にはどんな形であれとにかく塁に出てチャンスメイクをして後続に託すという選択肢もある中、
イニングからしてもうこの打席が最後の打席だろと思ったカメオは
長打狙いで初球からフルスイングで行くとすでに心に決めていた。
結果は初球を見事に捉えスタンドイン。
勝利を決めるサヨナラのホームランだったが
カメオは「判断を間違えたかなぁ」と思った。
どういうことだろうか。
ポストシーズンらしいので投稿。今日18:00くらいに〆予定
解説を見る
ー解答ー
衰えにより現役引退を決めていたカメオだったが引退試合で活躍したことにより、
まだ現役を続けられるだけの能力がのこっているのではないかと少し後悔したから。
ー解説ー
「お願いします。」
男は深く頭を下げた。
男の名は野呂亀夫。
プロ野球選手である。
身長190センチ体重120オーバーを誇る「ラテの大魔神」としてファンからも親しまれてきた亀夫。
鈍足ながらもその巨体を生かしたパワーと天性のバッティングセンスで長年核を担うバッターとしてラテラルズ牽引してきたチームの顔ともいえる存在の彼だが、
齢も三十路の半ばに差し掛かったあたりからさすがに衰えはじめ、
膝のケガの影響もあって、ここ数年は代打専門の選手として一軍や二軍を行ったり来たりする日々だった。
昨シーズンの成績は
打率.244 本塁打2 打点7。
代打専門としてはやや物足りない成績だった。
選手人生で初めて2割5分を下回ったこともあり、
チームのために後進に道を譲ることも考えていた亀夫がシーズン開幕前に今シーズン限りの現役引退を決断したのは
ある意味賢明な判断だったのだろう。
ただ、引退するにあたって亀夫には一つ叶えたい望みがあった。
「最後にもう一度、万全な状態でバーチカルズとの試合でフル出場したい。」
バーチカルズはラテラルズと幾度となくリーグ優勝を争ってきた因縁のライバル球団である。
亀夫にとっても宿敵とも言える相手であった。
通常、引退試合はセレモニーの都合や選手の衰えを考慮して
代打や守備での途中出場や先発してからの途中交代することが一般的だが
亀夫は無茶を承知の上で平伏し球団オーナーや幹部、監督に頼み込んだ。
チームの功労者である亀夫の希望とあって球団側はこれを快諾。
監督も「お前がやりたいようにやれ。」
と一言。
「ありがとうございます!」
亀夫は何度も頭を下げた。
さて、シーズン始まる前に引退宣言の会見を開きそこから数ヶ月経った引退試合当日。
スター選手の引退とあって本拠地ラテラテスタジアムは満員のファンで埋め尽くされていた。
この日のために入念に準備していた亀夫はその甲斐あってか9回終わって4打数3安打2打点と奮起。
しかし、バーチカルズも粘り強く戦い
試合は延長戦までもつれた。
そして迎えた延長11回ウラの攻撃。
ノーアウトランナー無しで亀夫の打席である。
チャンスメイクに専念する選択もあった。
長打を狙うよりかは
四球でも良いから塁に出て後続に期待する方が確率の高い選択と言えるだろう。
だが、亀夫の心は打席に入る前からすでに決まっていた。
(初球から思いきり振り抜いてやる!)
勝っても負けても。
あるいは引き分けたとしても。
イニングからして亀夫にとってはおそらくこれが現役最後の打席である。
ならば悔いのないように全力で向かっていきたいと思ったのだ。
それは直球だった。
初球ストライクを取りにいったためか甘いコースに入ったそれは
乾いた音を響かせた後、割れんばかりの大歓声のスタンドに吸い込まれていった。
ファンに応えるように右手を高々と掲げガッツポーズをしながら
巨体を揺らしてゆっくりとダイヤモンドを回る。
唸るような地鳴りと歓声を受けながら亀夫はふと思った。
(これだけ出来るならまだ現役を続けられたのではないか)
ホームではチームメイトやコーチ、監督らが総出で待っている。
(引退を決めたのは失敗したなぁ……)
引退してしまえば
こんなにも眩しい光景も
轟轟と響く声援も
何より野球をプレーできる楽しさも
味わうことができないだなんて。
亀夫はホームベース上で仲間たちに揉みくちゃにされ涙を流しながら思いを馳せていた。
引退セレモニーは試合が長引いたこともあって巻き気味に行われた。
続くヒーローインタビューはボロボロに泣きながらだったので
殆ど何を言っているかもわからない状況だったが
そんな中でも殆どのファンがスタジアムに残って亀夫の声を聞き届けていた。
「野呂選手、最後にファンに向けて一言お願いします!」
亀夫は黙った。
色々な思いが込み上げてくる。
しばらくして泥まみれのユニフォームの袖で涙を拭った。
そして帽子を取り、ファンが聞き取れるようなはっきりとした大声で一言。
「今までお世話になりましたっ!!!」
男は深く頭を下げた。
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