およそ残酷な形で恋人に捨てられ、借金で困窮し、また頼れる友達をも失ってしまった理沙子は、絶望の淵で怪しげな路頭商人から口紅をもらった。
曰く、『人と入れ替わることができる口紅』である。使用者が自身の唇に付着させた上で任意の相手とキスをすると、その相手と身体を入れ替えられるというもの。
理沙子は、自分の絶望に満ちた人生を捨てようと思い、それを用いることにした。
ターゲットは、大学の後輩である美里。その容姿と天衣無縫で活発な性格から皆に愛される存在だった。自分のような、陰気で卑屈な日陰者とは大違いだった。
理沙子は計画的に口紅を用いることにした。美里と入れ替わったあとに、美里の友達などに怪しまれてしまっては立つ瀬がない。非現実的とはいえ、仮にもこの口紅の存在や正体が露見することはあってはならない。自分が実は美里ではないと、疑われてはいけない。
入れ替わった後にも周りから怪しまれることがないように、理沙子は美里のことを徹底的に研究した。
彼女の身長、体重、誕生日、血液型、好きなアイドル、親の名前…。誰かに尋ねられそうな事象はひとまず頭に叩き込んだ。
彼女が大学に遅刻しそうな時の表情、友達の欠席を心配する悲しげな表情、仲間を責め立てる表情。彼女の振る舞いも研究した。陰気な自分を押し殺し、いわば美里をトレースするのだ。
理沙子は美里の狼狽する姿を想像した。普段から笑みを絶やさない美里が、自分のような逸れ者の立場を手に入れてしまったことを自覚し、焦りに飽和する姿。想像するだけで、理沙子は似合わない優越感が生まれるようで面白い。
——————
さて、実際に理沙子が口紅を使用した後、理沙子は記憶障害のふりをした。無事成功して入れ替わったというのに、そこで美里のふりをすることは一切しなかったのだ。
では、どうせ記憶障害ということにするのに、理沙子はなぜ美里のことを先のように徹底的に研究したのだろうか?
曰く、『人と入れ替わることができる口紅』である。使用者が自身の唇に付着させた上で任意の相手とキスをすると、その相手と身体を入れ替えられるというもの。
理沙子は、自分の絶望に満ちた人生を捨てようと思い、それを用いることにした。
ターゲットは、大学の後輩である美里。その容姿と天衣無縫で活発な性格から皆に愛される存在だった。自分のような、陰気で卑屈な日陰者とは大違いだった。
理沙子は計画的に口紅を用いることにした。美里と入れ替わったあとに、美里の友達などに怪しまれてしまっては立つ瀬がない。非現実的とはいえ、仮にもこの口紅の存在や正体が露見することはあってはならない。自分が実は美里ではないと、疑われてはいけない。
入れ替わった後にも周りから怪しまれることがないように、理沙子は美里のことを徹底的に研究した。
彼女の身長、体重、誕生日、血液型、好きなアイドル、親の名前…。誰かに尋ねられそうな事象はひとまず頭に叩き込んだ。
彼女が大学に遅刻しそうな時の表情、友達の欠席を心配する悲しげな表情、仲間を責め立てる表情。彼女の振る舞いも研究した。陰気な自分を押し殺し、いわば美里をトレースするのだ。
理沙子は美里の狼狽する姿を想像した。普段から笑みを絶やさない美里が、自分のような逸れ者の立場を手に入れてしまったことを自覚し、焦りに飽和する姿。想像するだけで、理沙子は似合わない優越感が生まれるようで面白い。
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さて、実際に理沙子が口紅を使用した後、理沙子は記憶障害のふりをした。無事成功して入れ替わったというのに、そこで美里のふりをすることは一切しなかったのだ。
では、どうせ記憶障害ということにするのに、理沙子はなぜ美里のことを先のように徹底的に研究したのだろうか?
23年06月21日 23:10
[みさこ]
【ウミガメ】
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良質部門
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