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自宅のマンションのベランダから飛び降りて昏睡状態となったアス。その恋人ヒロは、一ヶ月前の記念日、何も憂慮せず早まって結婚指輪をプレゼントしたことを後悔した。
ヒロが結婚指輪と共にアスに贈ったのは何か?
ヒロが結婚指輪と共にアスに贈ったのは何か?
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FA
指輪を通してネックレスにできるチェーン
簡易解説
アスが昏睡状態になった原因は高所からの打撲ではなく、つけていた結婚指輪ネックレスで首が絞まったこと。錯乱状態でベランダにいたアスを受け止めるエアマットが通報により用意されていたので、もしネックレスをつけていなければ、途中で欄干のようなところに首が引っかかることなく、マットに多少は安全に着地できたはずだった。
解説
吸い寄せられるように検索し、吸い寄せられるようにやってきたショップの中で、ヒロは立ち尽くしていた。
目の前の見るからに頑丈そうなショーケースには、小さな宝玉輝くサンプルの結婚指輪・婚約指輪が入っていた。値は想像通りだが、ヒロはいつまでも躊躇していた。
恋人のアス。大学で知り合ってから猛烈なアタックを受け、流れで付き合い始めてからはや6年が経過した。毎年の誕生日やイベントごとには一緒にデートに行ったし、同棲している今でも仲の良いカップルそのものといった生活を続けられている。何なら、お互いの両親ともすっかり仲良くなった。
来る三ヶ月後は、二人が付き合った日。アスは記念日が好きだから、お祝い事は欠かさない。それに、お互いもうお互いなしというのは考えられないくらいになった。
しかし、形容のできない不安はいつまでもヒロを襲う。結婚という一つの区切りをつけることが、ヒロには全くできていなかった。
ヒロはもう重い腰を上げるときが来てしまったのだと気づいていた。
記念日や誕生日のたびにふっとアスが見せる、寂しげな表情。6年という年月が築いたもの。二人の年齢。ヒロ自身の不安など、もう些末としか言えないものだった。
ヒロが店員さんを呼ぶ声には、店員さんが思わず笑みをこぼしてしまうくらいに決意がこもっていた。ヒロは一生をかけて、アスを幸せにすることを決めた。
そして来る記念日、ヒロは予定調和にプロポーズをした。アスの満足そうな表情と、ヒロの安堵した表情。そうしたプロポーズの祝うべき一幕は、今は殊更に描写する必要もないだろう。
特筆すべきというと、アスが腕時計のような手につける装飾を嫌っていたことを知っていたヒロが、結婚指輪に通してネックレスにできるチェーンをも用意していたことだろうか。結婚指輪を普段から身につけることに憧れのあったアスは、これにも喜んでくれた。
それから一ヶ月後に、狂いが起きた。
木曜の夜はヒロの残業日。それが二人の常識になっていたが、その暗黒の木曜日は、珍しくヒロが早く帰ることになった。
というのも、アスの体調が心配だったから。最近元気がない、とは言わないものの、ヒロには何となくわかった。今日くらいはご飯を作ってあげて、アスに休んでもらおう。そう思って自宅の前まで来たと思ったとき、ヒロはそれを目撃した。
自分が戻ろうとしている部屋のベランダの欄干に、意志薄弱のアスが立っていた。
それからのことを、ヒロはあまり覚えていないといった。多分だけど、アスへ向かって危険を叫び、アスの錯乱を見て急いで部屋の前まで戻ったが、玄関がタンスか何かで塞がっている。それで警察を呼び、アスを刺激しないように声を出しながら、受け皿のマットの準備を待った。こんな感じだろう。
ヒロはアスの動向を、心を空にして見ていた。まるで映画のような、ただの映画のような光景として、アスを見ていた。
やがて憔悴したアスが、バランスを崩した。隊員がマットを構える。アスが警官や隊員、そしてヒロのことをどれだけ気づいていたか、なんてヒロには知れない。
とにかく、アスはマットに落ち、成功すれば何の怪我もなく、多少失敗しても大した怪我はなく、ことが収まる。はずだったが。
アスは自分がいた部屋の真下の階のベランダの位置で静止した。その階の欄干か、物干し台か、そういったものに、あの頑丈なネックレスが引っかかったのだった。
きっと仕事帰りだったアスは、仕事中にもつけていたそのネックレスを帰宅後も外していなかったのだろう。
宙吊りになったアスに当惑して騒ぐ隊員を見て、ヒロはついに気を失った。
—————————
それから一週間。
隊員の迅速な行動により、アスたちの真下の部屋からアスは救出・搬送されたが、アスは昏睡状態となった。
アスがあのベランダの欄干に立っていた真意は、未だにわかっていない。仕事上のストレスか、人間関係のトラブルか、それになんの関係もない精神疾患か。
しかし、ヒロの直観は告げていた。アスが錯乱していた原因は、自分に違いない。
将来の話を、アスの不安を何もかも聞くことを怠って、アスの憧れていたプロポーズを早く体現させることに必死になっていたからだ。ハッピーエンドを求める自分は、アスに潜む影を見ないようにしていたのだった。物語のように予定調和をなぞる展開に、ヒロは安心しまってしまった。
アスが昏睡状態になってから始めて、これは予定調和の映画なんかではなく、二人のストーリーだと、誰を演じるでもなく、二人が作る生活なのだと、ヒロは痛感した。
今日もアスの見舞いに来ていたヒロは、アスに呼びかける。繰り返された懺悔の念を聞いて、昏睡状態のアスの顔が悲しそうに歪んだ、というのは、きっとヒロや我々の錯覚だろう。アスは昏睡状態で、反応は我々の心の中にあるに過ぎないものだ。
外で激しく降る雨の中で、窓辺に置かれた二つの指輪に光が反射していた。
要約
結婚指輪をネックレスに
昏睡の原因は首が絞まったこと
指輪を通してネックレスにできるチェーン
簡易解説
アスが昏睡状態になった原因は高所からの打撲ではなく、つけていた結婚指輪ネックレスで首が絞まったこと。錯乱状態でベランダにいたアスを受け止めるエアマットが通報により用意されていたので、もしネックレスをつけていなければ、途中で欄干のようなところに首が引っかかることなく、マットに多少は安全に着地できたはずだった。
解説
吸い寄せられるように検索し、吸い寄せられるようにやってきたショップの中で、ヒロは立ち尽くしていた。
目の前の見るからに頑丈そうなショーケースには、小さな宝玉輝くサンプルの結婚指輪・婚約指輪が入っていた。値は想像通りだが、ヒロはいつまでも躊躇していた。
恋人のアス。大学で知り合ってから猛烈なアタックを受け、流れで付き合い始めてからはや6年が経過した。毎年の誕生日やイベントごとには一緒にデートに行ったし、同棲している今でも仲の良いカップルそのものといった生活を続けられている。何なら、お互いの両親ともすっかり仲良くなった。
来る三ヶ月後は、二人が付き合った日。アスは記念日が好きだから、お祝い事は欠かさない。それに、お互いもうお互いなしというのは考えられないくらいになった。
しかし、形容のできない不安はいつまでもヒロを襲う。結婚という一つの区切りをつけることが、ヒロには全くできていなかった。
ヒロはもう重い腰を上げるときが来てしまったのだと気づいていた。
記念日や誕生日のたびにふっとアスが見せる、寂しげな表情。6年という年月が築いたもの。二人の年齢。ヒロ自身の不安など、もう些末としか言えないものだった。
ヒロが店員さんを呼ぶ声には、店員さんが思わず笑みをこぼしてしまうくらいに決意がこもっていた。ヒロは一生をかけて、アスを幸せにすることを決めた。
そして来る記念日、ヒロは予定調和にプロポーズをした。アスの満足そうな表情と、ヒロの安堵した表情。そうしたプロポーズの祝うべき一幕は、今は殊更に描写する必要もないだろう。
特筆すべきというと、アスが腕時計のような手につける装飾を嫌っていたことを知っていたヒロが、結婚指輪に通してネックレスにできるチェーンをも用意していたことだろうか。結婚指輪を普段から身につけることに憧れのあったアスは、これにも喜んでくれた。
それから一ヶ月後に、狂いが起きた。
木曜の夜はヒロの残業日。それが二人の常識になっていたが、その暗黒の木曜日は、珍しくヒロが早く帰ることになった。
というのも、アスの体調が心配だったから。最近元気がない、とは言わないものの、ヒロには何となくわかった。今日くらいはご飯を作ってあげて、アスに休んでもらおう。そう思って自宅の前まで来たと思ったとき、ヒロはそれを目撃した。
自分が戻ろうとしている部屋のベランダの欄干に、意志薄弱のアスが立っていた。
それからのことを、ヒロはあまり覚えていないといった。多分だけど、アスへ向かって危険を叫び、アスの錯乱を見て急いで部屋の前まで戻ったが、玄関がタンスか何かで塞がっている。それで警察を呼び、アスを刺激しないように声を出しながら、受け皿のマットの準備を待った。こんな感じだろう。
ヒロはアスの動向を、心を空にして見ていた。まるで映画のような、ただの映画のような光景として、アスを見ていた。
やがて憔悴したアスが、バランスを崩した。隊員がマットを構える。アスが警官や隊員、そしてヒロのことをどれだけ気づいていたか、なんてヒロには知れない。
とにかく、アスはマットに落ち、成功すれば何の怪我もなく、多少失敗しても大した怪我はなく、ことが収まる。はずだったが。
アスは自分がいた部屋の真下の階のベランダの位置で静止した。その階の欄干か、物干し台か、そういったものに、あの頑丈なネックレスが引っかかったのだった。
きっと仕事帰りだったアスは、仕事中にもつけていたそのネックレスを帰宅後も外していなかったのだろう。
宙吊りになったアスに当惑して騒ぐ隊員を見て、ヒロはついに気を失った。
—————————
それから一週間。
隊員の迅速な行動により、アスたちの真下の部屋からアスは救出・搬送されたが、アスは昏睡状態となった。
アスがあのベランダの欄干に立っていた真意は、未だにわかっていない。仕事上のストレスか、人間関係のトラブルか、それになんの関係もない精神疾患か。
しかし、ヒロの直観は告げていた。アスが錯乱していた原因は、自分に違いない。
将来の話を、アスの不安を何もかも聞くことを怠って、アスの憧れていたプロポーズを早く体現させることに必死になっていたからだ。ハッピーエンドを求める自分は、アスに潜む影を見ないようにしていたのだった。物語のように予定調和をなぞる展開に、ヒロは安心しまってしまった。
アスが昏睡状態になってから始めて、これは予定調和の映画なんかではなく、二人のストーリーだと、誰を演じるでもなく、二人が作る生活なのだと、ヒロは痛感した。
今日もアスの見舞いに来ていたヒロは、アスに呼びかける。繰り返された懺悔の念を聞いて、昏睡状態のアスの顔が悲しそうに歪んだ、というのは、きっとヒロや我々の錯覚だろう。アスは昏睡状態で、反応は我々の心の中にあるに過ぎないものだ。
外で激しく降る雨の中で、窓辺に置かれた二つの指輪に光が反射していた。
要約
結婚指輪をネックレスに
昏睡の原因は首が絞まったこと
全体評価で良質部門
トリック部門
納得部門




















