毎日うがいをするのが田中のルーティン。
そんな田中の家が火事に見舞われた。
その火事以降、田中はコップの中身を半分だけ口に含み、残り半分はコップに残したままうがいを終えるようになった。
一体なぜ?
ちなみに昔彼女がいた時もたまにこのやり方をしていたらしいよ。
※SP:霜ばしらさん、るょさん。この場を借りてあらためて言わせてください。サンキュー。
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簡易解説
火事で同棲していた彼女を失った田中。
田中のアパートの洗面所に自分用と彼女用の歯ブラシが一本ずつ入ったコップが置いてあるのだが、彼女が亡くなっても彼女の歯ブラシをどうしても処分できなかった。
田中はコップの中の自分用の歯ブラシ(コップの中身の半分)を取り出して歯磨き。
コップには彼女が使用していた歯ブラシが入ったままなので、水道から手酌で水を掬ってうがい。
彼女が存命の時も歯磨きのタイミングが合わない日は同じシチュエーションとなる。
そして以下は長い解説
「あひはあははやひはらはひひいえへふへ(明日朝はやいから先に家でるね)」
「ほーはい、ほひはひはほへはひへほふ(りょーかい、ゴミ出しは俺がしておく)」
「あいあほー(ありがとー)」
「はいほっふ(はいコップ)」
「ガラガラガラガラ… ふースッキリ。はいコップ」
「ガラガラガラガラ…ペッ。 ふーさっぱり」
歯磨きを終えた2人はうがいをし終えたコップに歯ブラシを片付けた。
お揃いの歯ブラシ。ブルーとピンクの色違い。
それ以外に同棲している彼女とお揃いで使っているものはない。
だから田中は洗面所でこの歯ブラシが2本入ったコップを見るたび、いつも照れくさいような誇らしいような複雑な感情が湧いてくる。
彼女と付き合っている象徴。大袈裟にいうとそんな感じかもしれない。
生活リズムがほぼ一緒なので歯磨きのタイミングもいつも一緒だが、今朝は彼女がいない。
朝一に営業ミーティングがあるらしい彼女は早々に出て行ってしまったのだ。
彼女より1時間遅くのそのそと起きだした田中は1人洗面所に向かう。
コップから歯ブラシを取り出して口に含んだ。
彼女がいないとテキトーに歯を磨く。テキトーに磨いても怒られないからだ。
うがいするにもコップには彼女の歯ブラシが入ったままなので、水道から水を直接手酌ですくってうがいをする。
これも彼女が見ていたら怒りそうだな、と思って田中はニヤリとした。
その夜。
田中と彼女の住むアパートが火事になった。
発火元はアパート一階部分を店舗としている田中行きつけの中華料理店。
客が残していったタバコが完全に消えていないうちにゴミの中に捨ててしまい、それが夜中になって燃えだしたのだった。
偶然にもその時間田中は友人宅にいた。
友人に別れを告げ帰宅している最中、何度も消防車が田中の横を通り過ぎていく。
不安を覚えた田中は走ってアパートに向かった。
アパートは消防車と野次馬と煙に囲まれていた。
重度の一酸化酸素中毒。
それが彼女の死因。
火は田中たちの部屋にまで燃え広がる前に消し止められたが、大量の煙が部屋に押し込んできたらしい。
火傷も外傷もなかったことから、彼女は就寝中で苦しまずに亡くなったと考えられた。
そのことが絶望の淵に落とされた田中の唯一の救いだった。
それから一年後。
洗面所に置かれた歯ブラシが2本入ったコップ。
その中の半分を取り出して口に含む。
いつものようにテキトーに歯を磨く。
コップに残ったもう一本はそのままで。
一年経っても田中は彼女の歯ブラシを捨てられずにいた。
「あへははいひへんはあ…(あれから一年かあ…)」
「そう、もう一年も経つの。いい加減捨てたら? 私の歯ブラシ」
「うん、ひひはひはひほはふへほへはふほひ(うん、君がいないのは受け止めたつもり)」
「これじゃうがいの時にコップが使えないじゃない。って、こら!手で水を掬わない!」
「ガラガラ…ペッ。…でも今までここにあって当たり前だったものが消えてしまうっていうのが、なんだかとても怖いんだ」
「…ただの歯ブラシよ?」
「うん、だけど僕にとってはやっぱり特別なんだよ」
歯磨きを終えた田中はコップに歯ブラシを戻す。
やっぱりコップ使わずにうがいをしたら怒られたな、そう考えて田中はニヤリとした。
洗面所の窓を開ける。月のわずかな光が田中を照らす。
そして独りつぶやいた。
「明日、捨てようかな。歯ブラシ」
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「コップの半分だけ口に含み」 これで騙されてしまいます。