ドォォォォーーーーーン
胸に直接響くような大きな破裂音。
町の外れの病院から、さらに2キロほど離れた河原で行われる定例の花火大会。
夜空に大輪を咲かせる花火をたくさんの人々が見つめている中、田中はひとり小さな花火を見つめている。
その小さな花火が見えなくなった時に田中が大声で叫んだのは一体なぜ?
※ラテシンで出題済み問題。知っている方はお口禰豆子。竹。
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君がわがままを言ったのはたった一度きりだった。
僕はもっとわがままを言ってもらいたかったが、それが最初で最後のわがまま。
「一緒に花火大会が見たいの」
・・・
僕の幼馴染兼彼女の寿命が決められてしまったのは、大学二年の春だった。
当時はヤブ医者だと思っていたが、彼女の寿命を言い当てた彼は名医で間違いないのだろう。
「もってあと半年の命」
名医はそう断言したのだ。
見苦しく事実を受け容れられない僕を諭したのは、宣告を受けた当の本人。
「あと半年だけど、今まで通り仲良くしてね」
本人は自分の体のことを理解していたのだろう。
僕はいうことの聞かない自分の感情を無理やり抑えつけて、
彼女の望むとおり、普段の自分で彼女に接した。
・・・
蝉やカエルの鳴き声が響く頃、彼女はそれを病室でしか聞けなくなっていた。
四肢を動かすのもままならない、しかし柔和な微笑みだけはいつも絶やさなかった。
特別な半年間… でも僕と彼女はいつもと変わらない暮らしを送っていた。
彼女がそれを求めるから。僕は自然に笑えていたか自信がない。
そんなある日、病院のベッドの上で彼女が初めてわがままを言った。
一人では体を動かせない彼女が2キロ先の河原で行われる花火大会を見に行きたいと言ったのだ。
外出の許可など間違いなく出ない。しかし僕は彼女の初めてのわがままを叶えるため、
彼女を病院から奪いだし、車椅子に乗っけて花火大会の会場まで運んだ。
彼女を乗せた車椅子が想像以上に軽かったのが印象的だった。
会場につくまで、彼女はずっと「子供の頃の花火の話」をしゃべり続けた。
花火大会なんて行ったことはなかったけど、僕と二人で駄菓子屋で買い漁った花火に興じている時はとても幸せだったと。
既に会場には大勢の人だかり。それでも打ち上がる花火はどこにいる人にでも平等に見えるかのように大輪の花を咲かせていた。
「きれい…」
彼女が夜空に咲く花火を見上げポツリとつぶやく。
僕はそんな彼女の顔から目が離せなかった。
花火が打ち上がるごとに照らし出される彼女の顔がとても美しかったから。
僕は彼女の瞳に映る小さな花火だけを見つめていた。
クライマックス。
立て続けに花火が打ち上がる。ドンッドンッと大きな音が響く中、
彼女の口が小さく動いた。
音がうるさくて聞き取れなかったので、彼女の方に顔を寄せていくと、
彼女の瞳に映っていた花火が見えなくなった。
空を見上げてもまだ花火は続いている。
彼女が、目を、閉じたのだ。
僕の叫び声もまた花火と人々の喧騒にかき消されていった。
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