親不孝者の息子の言葉を呟きながら遺書を書く男。
可哀想な妻に宛てた言葉を書き終え、田中に宛てた言葉を書いている途中に涙が止まらなくなり、これ以上書くことができなくなってしまった。
男は田中と会ったこともないのに一体なぜ?
※ラテシンで出題済み問題。知っている方はネロとパトラッシュと一緒に寝てください
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父さん、俺もうダメみたいだ…
ベッドの上。か細い声でつぶやく息子。
病院から急に容体が悪化したとの連絡を受けた父親は会社を早退し
息子の病室へ駆けつけた。
「長い間、この病気と闘ってきたからかな。もう持たないってのがなんとなく自分で分かるんだ」
「そ、そんな情けないこというなよぉ… お前が死ぬなんて、父さん考えられないよ…」
「父さん、そんな情けない声出さないでよ。最期に父さんにして欲しいことがあるんだ」
「グスッ、なんだ? 父さんにできることか?」
「簡単。遺書をね、書いて欲しいんだ。ほら、もう俺、手、動かないから」
「わ、わかった。あんまり綺麗な字じゃないけど書いてやる。
書いてやるから、お前もこの遺書が無駄になるように頑張れ!」
「うん、じゃあまずは母さんに向けて」
妻は出張先の香港からこっちに向かっている。多分今日中に着くのは無理だろう。
もしかしたら、もしかしたら息子の死に目に会えないかもしれない。そう思うと可哀想で仕方ない。
父親は息子の話す言葉を口の中で呟きながら書面に写していく。
自分が死ぬのは怖くない。しかしこれから息子を失うのだと思うと怖くて怖くて手が震える。
父親は息子の妻への言葉を書き終えて、次を促した。なんだか言いにくそうにもじもじしている。
「次は、沙織へって書いて」
「さ、沙織? 誰だ、その人?」
「田中沙織。父さんは知らないかな。小学生の時からの同級生で中高一緒だったんだ。
今でも手紙で連絡を取り合ってる。その子に渡して欲しいんだ」
「彼女か?」
「・・・。…沙織へ。しばらく会えていないけどお元気でしょうか?…」
息子は父親の問いを無視して、田中沙織への言葉を紡ぎ出した。
父親は苦笑しながら、息子の声を追い、文字に変換していく。
しかししばらくすると息子は黙り込んでしまった。
「ん?どうした?照れてるのか? 父さんにそんな気を使わなくても… タカ?」
息子の返事はない。
「タカ? どうした、おい!まだ途中だろ⁉︎ こんな中途半端なモン渡したら沙織ちゃん困っちゃうぞ!
おい、起きろ! タカ! 頼む、起きてくれ! タカ!!!」
息子は目を覚ます様子はない。窓から差す夕陽が息子の安寧な表情を照らしている。
「お前は本当に親不孝な息子だな…」
そう独りごちた父親はこれ以上書けなくなった息子の遺書に涙を落とした。
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