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厳格な父のイメチェン」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
娘の笑顔が見たいと願う父親が、突然「髪を染めたい」と言い出したのは
いったいなぜか?
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【ウミガメ】20年10月01日 23:03
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簡易解説
ゆりこは美容師の彼と結婚を前提に付き合っていたが、父親から「見た目が派手だ」という理由で頭ごなしに結婚を否定されてしまう。
傷ついたゆりこは、反抗心から父親と口をきかなくなった。
娘との関係に亀裂が入ったまま日々を過ごしていた父親だったが、やがて娘の彼氏と向き合うために歩み寄ることを決意。「彼に髪を染めてもらいたい」とゆりこに話したのだ。


本解説

「ゆりこさんと結婚を前提にお付き合いさせていただいてます、山内匠と申します」

そう言って私に頭を下げた彼は、なんとも派手な容姿をしていた。
明るい髪、無造作に生やした髭、耳や腕にはたくさんの装飾品。
付き合っている人がいるという話は小耳に挟んでいたが、まさかこんな軟派な男だったとは。偶然鉢合わせてしまったため、彼は大いに狼狽えていた。もちろん、私も同じだ。



「ゆりこ、昼間のあの男と結婚を考えているのか?」

夜、娘を呼び出して問い詰めた。

「そうよ。彼は美容師なの。見た目は少し派手だけど、とても誠実な人なのよ」
「少しなんてもんじゃないだろう。私は反対だ」
「どうして!彼のこと何も知らないじゃない」
「知るも何も、一目見ればわかる」

ゆりこの表情がみるみる険しくなっていく。
それでも私は構わず突き放した。

「あんなちゃらちゃらした男と結婚するなど、お父さんは認めんからな」

その日からゆりこは一切、私と口をきかなくなった。
それどころか目を合わせようともしない。
その後も相変わらずあの男との交際を続けているようだった。
私は腹立たしかった。
大事な大事な一人娘をあんな男に嫁にやりたくなどない。


そんなある日、妻のチカが自慢の長い髪を切った。

「おい、どうしたんだ?ずいぶんと雰囲気が変わったじゃないか」
「ふふ、ショートカットにしてみたの。どう?」
「あぁ、似合ってる」
「嬉しいわ。そんな風に褒めてくれるなんて」

チカは心底嬉しそうに微笑んだ。

「これねぇ、ゆりこの彼氏に切ってもらったのよ」

私は一瞬にして固まってしまった。
なんだと?あの男に?

「どんな髪型が似合うか一緒に考えてくれて、すごく気の利くいい子だったわよー。なにより、」

妻のまっすぐな瞳が私をとらえる。

「ゆりこのことを一生懸命に考えてくれてるわ。今のこと、これからのこと、私たち家族のことも」
「……なんだって?」
「あなた、彼のことでゆりこと喧嘩したでしょう。すごく気に病んでたわよ、彼。ゆりこも元気がないから心配だって」
「……ゆりこが、あんな男と結婚するとか言い出すからだろう」
「あんな男って、誰のことを言ってるの」
「その美容師の男だ」
「あなたは彼の何を知ってるの?」

チカまで、ゆりこと同じことを言う。
私は腹が立った。

「あんなちゃらちゃらした男に大事な娘はやれんと言ってるんだ!」
「あら。どの辺がちゃらちゃらしてるの?」
「あんな……金髪みたいな頭で、ピアスだのなんだの、不良みたいじゃないか。わけがわからん」
「そんなに言うんだったら、あなたも金髪にしてみたらどう?」
「バカにしてるのか!」
「してないわよ、ぜんぜん。ねぇ、私だってゆりこのことがすごくすごーく大事よ。あの子に幸せになってほしいの。だから、目を背けないであの子の大事なものとちゃんと向き合ってちょうだい」

綺麗に切り揃えられた髪がふわりと揺れる。

「向き合ってみて、それでダメなら胸を張ってダメだと言えばいいわ。でも、向き合おうともせずに頭から否定してゆりこを悲しませるなら、私が許さないわよ」

いつも穏和な妻のはっきりとした口調に、私は何も言い返せなくなった。



あぁ、男というのは、大事なときに不器用でいけない。
有無を言わせず引っ張っていくのは簡単なことなのに。
向き合うったって、どうやって向き合えというのか。
こちらから呼び出して話し合えとでもいうのか?
あんなちゃらちゃらした男が、ゆりこを守れるのか?
ゆりこが傷ついたり悲しんだりする顔は見たくない。
私は間違っているのか?
私は、
私は…………




「ゆりこ」

娘の華奢な肩がビクリと跳ねる。

「……なに」

こちらを振り返りもせず、低い声でそう尋ねる。
妻ならこういう時、どんな言葉をかけるのだろうか。


「……父さんな、髪を染めてみようかと思うんだ」

「……えっ?」

驚いたように振り返るゆりこ。
実に一ヶ月ぶりに、目が合った。

「あぁー……あの、あんまり派手なのはいかんから、焦げ茶くらいにな。それで、あの、なんだ、彼……山内君だったか?そう、彼に頼んでみてもらえないか」

大きく見開いた目をさらに大きく見開いて、まばたきも忘れて私を見つめる娘の瞳から、やがて大粒の涙が零れた。

「……わかった。お父さんを世界一かっこよくしてって、頼んでおくわ」

ゆりこはしばらく顔を伏せて泣きじゃくっていたが、少ししてゆっくりと顔を上げた。
そこにあったのは、私がずっと見たいと願ってやまなかった娘の笑顔だった。


物語:5票
全体評価で良質部門
トリック部門
物語部門
ぺてー>>娘の幸せを願っていることを身をもって証明する、そんな父親の姿がそこにはありました
休み鶴>>この簡潔な問題文から骨太な物語が展開します。登場人物の心情に納得感を持たせるのは難しいと考えているのですが、本問はその点を見事にクリアしています。
靴下[バッジメイカー]>>コメントなし
異邦人>>コメントなし
ほずみ[ますか?]>>コメントなし
納得部門