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「卵を割ったときに入った殻が、かきまぜた後もずっと気になって仕方ない」
そんなミナミの言葉に、ユカは
「わかるよ」
と返した。
このあと一人になったユカが『3年越しでいいから返事がほしいな』と呟いのは
どんな思いからだろうか?
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● 解説 ●
かつてユカが幼馴染みのワタルに告げた遠回しな告白の文言。当時ワタルはその意味に気付かなかった。
3年の時を経て、友人のミナミに対しワタルが全く同じ言葉を告げたことを知ったユカ。
ワタルがもしユカと同じ意味を込めてその言葉を使ったのだとすると、ワタルは今ミナミが好きで、同時にあの日のユカの告白に気づいたことになる。
3年経った今もワタルを想い続けていたユカは、失恋を覚悟した上で、自分の気持ちに終止符を打つため『あの日の返事が欲しい』と思ったのだった。
● すごいながい解説 ●
私とワタルは、いつもくだらないことを全力でやって笑い合っていたと思う。
ある時、私たちの間で『言いたいことを遠回しに伝える』ことがブームになった。
待ち合わせに毎回3分遅れで到着する私に、ワタルは「家出る前にカップヌードルにお湯入れて律儀に待った挙句食べずに出てくる」なんて言ってたっけ。
マックでなかなかメニューを決められないワタルに、私は「頭の中にいる小さいおじさん達がみんな自己主張激しくてなかなか譲らない」と言って笑った。
なんでもない、当たり前の日常だった。
ある文化祭の日。
準備に疲れて放課後の教室で眠ってしまった私に、誰かが学ランをかけてくれていた。
名前を見なくとも、その持ち主がわかった。
その日から、私の胸の奥で知らない感情が芽生え始めた。
ワタルに会うと、不自然に目をそらしてしまう。
私は自分の気持ちに気づかないふりをしようとした。
卵を割ったときに入った殻がうまく取り出せなくて、かき混ぜてごまかそうとするように。
けれど、かき混ぜてもかき混ぜても気になって仕方ない。
ある日の帰り道、私はワタルに言った。
「なんか最近さ、……卵を割ったときに入った殻が、かきまぜた後もずっと気になって仕方ないんだよね」
いつもの遠回しに言うやつだ、と察したワタルはその意味を考え込んでいるようだった。しかしひとつ息を吐くと「……わっかんね。どういうこと?」と首を傾げた。
「ははっ。なんでもなーい」
私は笑い飛ばすのが精一杯だった。
あれから3年の時が経った。
高校で仲良くなった友人のミナミと一緒に勉強している時、ふと彼女が口を開いた。
「そういえば昨日、急にワタルくんから『卵を割ったときに入った殻が、かきまぜた後もずっと気になって仕方ない』みたいなこと言われたんだよね……。どういう意味かわかる?ユカ、たしかワタルくんと仲良かったよね」
一瞬、周りの音がすべて消えてしまったように感じた。
わかるに決まっている。だって、その言葉を最初に告げたのは、私なんだから。
「わかるよ」
「えっ、ほんと?どういうこと?」
「うーんとね、また今度教えてあげる」
「えー!今教えてよ!」
ワタルがその言葉をもしも私が込めた意味そのままで使ったとするならば、ワタルは今、ミナミが好きだということだ。
そして同時に、あの時の私の告白に気づいたということだ。
あれから3年経った今も、情けないことに私は『卵を割ったときに入った殻が、かきまぜた後もずっと気になって仕方ない』ままだ。
こんな自分を知ったら、君は笑うだろうか。
ミナミと別れたあと、一人になった部屋で目を閉じる。
様々な思いがかけめぐる。
「3年越しでいいから、返事が欲しいな」
わかりきったその返事を。
自分の気持ちに終止符を打って、次へ踏み出すための言葉を。
遠回しでなく真っ直ぐな言葉で伝えてほしい。
そしたらもう、かきまぜる必要もなくなるだろうから。
物語:2票