「おかえり、おにいちゃん」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
滅多に会えないが、兄が大好きな少女、しおり。
しおりの兄は大の本好きで、暇さえあればいつまでもベッドの上で本を読んでいた。
そんな兄の影響を受け、しおりもベッドの上で絵本を読むことが大好きだった。
そんなある日、最近は忙しくて会えなかった、兄が家に帰ってくることになった。
それを知ったしおりは大喜び。兄が帰ってくる日を心待ちにしていた。
だが、それを知った日から、しおりはベッドの上で二度と絵本を読まなくなったという。
それから何年経とうとも、しおりは決してベッドの上で絵本を開かなかった。
しおりは相変わらず、絵本も兄も大好きなのだが、一体なぜ?
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簡易解説
病気で幼い頃から入院していたしおりの兄。
ある日ついに病気が治り、退院が決まったため、兄は家に帰ってくることになった。
結果、兄としおりは2人部屋になり、二段ベッドが設置されたため、二段ベッドの上の段が影になって手元がよく見えなくなってしまった。そのため、しおりはベッドの上で絵本を読まなくなった。
解説
「ままー!はやくはやくっ!」
私は苦笑しながら、走っていく娘、しおりを追いかける。兄に会えるのが嬉しくて堪らないのだろう。胸に絵本を抱き抱えながら、病院への道を走っていく。
しおりの兄は幼い頃からここに入院している。数えきれないほど会いにきているしおりにとって、病院はもう第二の家のようなものだろう。
最近は私の仕事が忙しく、ここに来るのは久しぶりだ。けれど、もうここにくるのは最後と思うと感慨深い。
病院に入った瞬間、大人しくなるしおり。でも、その足取りは軽い。
「おにーちゃん!ごほんよんで!」
病室の扉を開けた瞬間、しおりが叫んだ。窓のそばのベッドの上で本を開いていた息子が音を立てて本を閉じる。
「しおり、今日は何を持ってきたの?」
「みてー!さきさんとゆいさんのごほん!それでね、きいて!!まえね、さきさんとゆいさんにあったの!!すっごくやさしそうなひとでねっ……」
顔を真っ赤にして叫ぶしおりを微笑ましく見守りながら、話が終わるのを待つ。息を切らせて口を閉じたしおりのそばに屈み、視線を合わせる。
「ちょっとまってね、しおり。大事なお話があるの。お兄ちゃん、おうちに帰って来れることになったんだよ」
「え?おうちにいるの?おにーちゃんに、まいにちごほんよんでもらえるの?」
やったー!、と歓声をあげながら病室を跳ね回るしおりを、今回ばかりは注意する気にならなかった。
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その日から、家の大改造が始まった。兄と一緒に寝たいと駄々をこねるしおり。
せっかくだからと、二人を同じ部屋にすることにした。運び込むのは、2段ベッド。幼いしおりが下の段だ。
そしてその晚。
いつものように絵本を握りしめ、しおりがベッドに向かう。毛布にごそごそと潜り込み、絵本を開いたところで、しおりは気がついたらしい。
2段ベッドの下の段は暗く、絵本が読めないことに。
少し困った、泣き出しそうな顔を浮かべたあと、ぱっとその顔が輝いた。
兄が家に帰ってきた日。
いつものように絵本を握りしめたしおりは、上の段に向かって叫ぶ。
「おにーちゃーん!!ごほんよんでーー!」
物語:3票