電源コードの君

　私はもう限界だった。

　
　寝ている「彼」に馬乗りになり、「彼」の首に電源コードを巻き付ける。半年前に心療内科でもらった睡眠薬はよく効いているようで、簡単には起きそうにない。
　
　そのまま渾身の力を込めて電源コードを引っ張った。「彼」の喉がきゅっと音を立てて締まる。「彼」の顔が次第に赤黒く染まっていく。私は体重をかけて、そのまま締め続ける。

　「彼」の首を絞めてどれくらいたっただろうか？　睡眠薬の効果が切れたのか、はたまた今際の際の苦しさからか、「彼」が目を開けた。「彼」がじっと私の方を見る。その濃い茶色の眼を見て、私は今までの「彼」との生活がフラッシュバックのように脳裏に浮かんできた。心を引き裂くような暴言を。理不尽な暴力を。それでも、かつては愛し合っていたことを……。

　怖くなった私は今まで以上に力を込めた。もうあの生活には戻らないと決めたのだ。渾身の力を込めてコードを引っ張ると、「彼」の目が赤く充血していき、そしてその目から生気が失われたのが分かった。

　私がコードを引っ張る力を緩めても、「彼」は目を見開いたままピクリとも動かなかった。

　今日から「彼」に縛られることのない、新しい生活が始まるのだ。

　動かなくなった「彼」を見て、自然と笑みがこぼれた。


答え
彼女は「僕」を絞め殺していた。