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【正解を創りだすウミガメ】21世紀少女【第21回】

◆◆ 問題文 ◆◆

物騒な空気がただよう時代。
平穏を取り戻したかった少女は、マスクを外すことにした。
どういうこと?


--------------------------------------

皆様お待ちかね!正解を創りだすウミガメのお時間です!

およそ1年半ぶりにMCを務めます、もっぷさんです。
(皆様ご丁寧に敬称つけてくださいますが、違和感ありまくりなのでどうぞ呼び捨ててくださいね)

怖いウイルスがまだ猛威を振るっています。
罹患された方、身近で感染が広がっている方々には心よりお見舞い申し上げます。
幸い私の周りには感染者はいませんが、連日の報道には胸を痛めています…

いくら健康に気を使っても、心を弱らせてしまっては乗り切れません!
せめて、ここらてらてでは閉塞感も吹き飛ばしちゃうようなステキな正解を創りだしましょう!!


■■ 今回の主なルール■■
★要素→15個(すべて使用)
※10〜15個の間で変動あり。詳しくは後述。
★文字数制限→なし
★投稿数制限→なし
★簡易解説→原則つけてください!
※解説自体が短い場合は省略化。

そして、さらに特殊ルールを追加します!
★要素募集→質問は1人1回まで!
闇スープで募集し、原則全ての要素が「YES」もしくは「NO」として採用されます!


「必ず採用される」とき、果たして人はどんな要素を繰り出すのか…!?


詳しいルールは以下をご覧ください。
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★ 1・要素募集フェーズ ★
[3/19(木)21:00頃〜質問が15個集まるまで(or日付が変わるまで)]
出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人1回までです。
皆様から寄せられた質問の数が15個に達したら締め切りです。「YES!」「NO!」の返答とともに良質がつきます。
※質問が15個集まらない場合
3/20(金)0:00時点で10個以上の質問が集まっていれば締め切りとし、投稿フェーズへ移行します。
3/20(金)0:00時点で質問数が10個未満の場合は、1人2個目の質問を追加で募集する予定です。

!!注意!!
あまりに条件が狭まる質問は出題者裁量で採用しません(「yesno 関係ありません」と返答します)。
[例]
・ノンフィクションですか?(不採用)
・登場キャラは1人ですか?(不採用)
・ストーリーはミステリーですよね?(不採用)
・今回の解説は最低一万字でないと成立しませんか?(おもしろいけど不採用)
※不採用の質問があった場合
採用された要素が10個以上であればそのまま投稿フェーズへ移行します。万一、不採用多数で要素数が10個に満たない場合は、追加で質問を募集します。

今回の要素募集は闇スープで行いますので、他の参加者からどんな要素が出されているのかは出揃ってからのお楽しみ!
現在の質問数は相談チャットの上にある「参加者一覧」の人数でご確認ください。


★ 2・投稿フェーズ ★
[要素選定後~3/28(土)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、『投稿フェーズ』に移行します。全部の要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しなければどんな作品でもOK!
思うがままに自由な発想で創りだしましょう。

☆作品投稿の手順
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。しばらく時間をおいてから再び確認してください。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。


★ 3・投票フェーズ ★
[投票会場設置後~4/4(土)23:59]
投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
その他の詳細については投票会場にてご案内します。


★ 4・結果発表★
[4/5(日)21:00頃予定]
皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
 →その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
 →その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
 →全ての作品に[正解]を進呈

見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!

※票が同数になった場合
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
→同率で受賞です。
[シェチュ王]
→同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。

もっとイメージを掴みたい方は、過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参照ください。
 ** ラテシン版 **
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
 ** らてらて鯖 **
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1

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■■ タイムテーブル ■■

☆要素募集フェーズ
 3/19(木)21:00頃~質問数が15個に達するまで
 ※または3/20(金)0:00時点で質問数が10個以上集まっていれば締切り。
☆投稿フェーズ
 要素選定後~3/28(土)23:59まで
☆投票フェーズ
 投票会場設置後~4/4(土)23:59まで ※予定
☆結果発表
 4/5(日)21:00 ※予定


■■ バッジコインについて ■■
現時点では保留とさせてください。改めてご案内いたします。

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春休み中の学生さん、ちょっとお勉強お休みして寄って行きませんか?
受験生の皆様、本当にお疲れさまでした。ささ。どうぞこちらへ!
お仕事帰りのそこのあなたも!
初参加のあなたもお気軽に!!
みんなで楽しんで創り出しましょう♫

それでは『要素募集フェーズ』の始まりです。
質問は1人1回まで!

よ〜〜〜い……どんっ!!
20年03月19日 21:00 [もっぷさん]
【新・形式】

『投稿フェーズ』開始しました!(3/28(土)23:59まで)

正解を創りだすウミガメ
新・形式
No.1[OUTIS]03月19日 21:0303月19日 22:51

仮面は関係あるかナ?

YES!仮面が関係します! [良い質問]

No.2[ごがつあめ涼花]03月19日 21:0303月19日 22:51

綺麗でしたか?

YES!綺麗でした! [良い質問]

No.3[さなめ。]03月19日 21:0503月19日 22:51

私なりのささやかなプレゼントですか?

YES!私なりのささやかなプレゼントです! [良い質問]

No.4[シチテンバットー]03月19日 21:0603月19日 22:51

顔に液体がかかりますか?

YES!顔に液体がかかります! [良い質問]

No.5[かふぇ・もかろに]03月19日 21:0803月19日 22:51

桜の写った集合写真は重要ですか?

YES!桜の写った集合写真が重要です! [良い質問]

No.6[きの子]03月19日 21:0803月19日 22:51

涙は流れますか?

YES!涙が流れます! [良い質問]

No.7[リンギ]03月19日 21:1003月19日 22:51

うたいますか?

YES!うたいます! [良い質問]

No.8[きっとくりす]03月19日 21:1103月19日 22:51

みんなで踊りますか?

YES!みんなで踊ります! [良い質問]

No.9[「マクガフィン」]03月19日 21:1203月19日 22:51

時計の針は進み続けますか?

YES!時計の針は進み続けます! [良い質問]

No.10[とろたく(記憶喪失)]03月19日 21:1503月19日 22:51

ペットボトルが重要ですか?

YES!ペットボトルが重要です! [良い質問]

No.11[M]03月19日 22:0203月19日 22:51

1/2の確率ですか?

YES!1/2の確率です! [良い質問]

No.12[ハシバミ]03月19日 22:0603月19日 22:51

眠くて仕方がありませんか?

YES!眠くて仕方がありません! [良い質問]

No.13[イナーシャ]03月19日 22:0703月19日 22:51

少女は自分以外誰も知らない秘密を抱えていますか?

YES!少女は自分以外誰も知らない秘密を抱えています! [良い質問]

No.14[弥七]03月19日 22:0703月19日 22:51

「私の国では挨拶みたいなもの」ですか? [編集済]

YES!「私の国では挨拶みたいなもの」です! [良い質問]

No.15[ぎんがけい]03月19日 22:2103月19日 22:51

何かがなかなか始まりませんか?

YES!何かがなかなか始まりません! [良い質問]

そこまで!!!!皆様ありがとうございました!
闇解除は23時ごろの予定です!
要素の発表です!!
これより投稿フェーズを開始します!
★投稿の際の注意★

①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。

②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、前の方がまだ投稿中の可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。

③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。

④次に質問欄に本文を入力します。
本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
No.16[シチテンバットー]03月20日 01:0103月29日 00:25

【タイトル】
正解を創りだすRTA

エントリーNo.1 [良い質問]

No.17[シチテンバットー]03月20日 01:0303月29日 00:25

【簡易解説】
絵柄や描写はメルヘンファンタジーなのに雰囲気は殺伐としたアクションゲームのRTAを行った。
タイム更新のためには、プレイアブルキャラクターである主人公の少女がガスマスクを外すことによるバグを始めとした多種多様なテクニックが必要だった。
おかげで開始から20分足らずでゲームクリア。無事世界は平穏を取り戻した。

【以下簡易じゃない解説】
「今日はこの『メロディカルコネクション』というゲームのRTAをやろうと思います。まあ知ってる人も多いかもしれませんが、パッケージやキャラクターは非常に可愛らしいのに反してストーリーがとにかく重いというかシリアスです。まじでこのゲームの世界観殺伐してます。まあネタバレになってしまうんですが、最終的に主人公である少女、この子がラスボスを倒した後成長して、その時の時代は平和そのものなんですが、今からプレイする時代はもうホント戦国時代の治安が比較的マシに思えるほどです。」
「それではプレイしていきます。タイトル画面から・・・起動時は必ずこのオープニング映像が流れるのですが、初回起動時だと飛ばせないんですよね。他の方がやってるようにタイトル画面に移って『ボタンを押してください』が表示されてボタンを押してからスタートします。ですからRTAは中々始まりません⑮。でも可愛らしくて好きなんですよね。曲も映像もクオリティ高いし。まあ実態はメルヘン版北斗の険といった感じなんですが。」
「さてオープニング映像も終わってタイトル画面に移ってボタンを押してタイマースタート。タイマーストップはラスボスを倒した瞬間です。名前は一文字打ったらすぐに決定します。『あ』なんて名前は寂しいですが仕方在りません。さてゲームがスタートして導入となる映像が流れます。ここはどうあがいてもスキップできないんですよね。まあどんな世界観や背景があるのか確認して、て感じですね。簡単に言うと綺麗だった②国が魔王のせいでボロボロにされるというストーリーです。ムービーが終わって本格的にスタート。オープンワールドなので明確な道筋はありません。でも特定のフラグを立てるとスキップ不可のムービーが流れてタイムロスになるんですよね。ですので可能な限りムービーを回避しながら進むことになります。RPGみたいに敵を倒すと経験値が貰えてレベルアップして必殺技を覚えるようになるんですが、RPGみたいに必殺技を選択して発動するのではなく格ゲーみたいにコマンドで出すんですよね。ですから必殺技は今回覚えません。敵とも極力交戦しません。そうしなくても勝てますからね。」
「さてとりあえず恒例の連続ジャンプ振り下ろしで進んでいますが、最近はメルヘンドゥエと呼ばれてるらしいですね。ドゥエの意味は各自で調べてください。さて故郷を出てから最初の町に到着しました。そしてゴミ捨て場に落ちてる欠けた仮面を拾います①。このゲームで欠けた仮面と言えば物々交換ですが、今回もそれを利用します。」
「それをこの町の赤い屋根の家にいる女の子にあげます。ちなみにこの家は今は屋根に穴が空いていますが順当にストーリーが進めばちゃんと塞がります。さて女の子に仮面を渡して・・・ここで主人公のあが『私なりのささやかなプレゼント』と言ってますが③、欠けた仮面渡されてどうしろという話になりますね。そして女の子から小さいガスマスクを貰います。これが今回の最重要アイテムです。」
「この町は魔王の手先のせいでボロボロにされてるのですが、それをスルーして森の奥にある滝へ向かいます。あ、あくまでスルーできるのはゲームの仕様ですからね。この町のボス倒すと住民が喜んで皆で歌って踊る⑦⑧ムービーが流れるんですよ。あれけっこう好きなんですけど今回はスルーです。ムービーが流れてる間も時計の針は進み続けてますからね⑨。タイマーだから針は動いてないみたいなコメントは禁止です。後このゲームけっこう歌や踊りのムービーが多いです。スルーしますけど。どっかの場面で主人公が『私の国では歌や躍りは挨拶みたいなものなの⑭』て発言もしてます。その場面もスルーしますけど。他にもこの町のボスの戦利品、終盤までけっこう使えるからそれを使うという手もありますがスルーです。」
「滝に着きました。ここからが本番です。まず小さいガスマスクを被った状態で滝に向かって当たるか当たらないかくらいの位置に着きます。そこでガスマスクを外しガスマスクが滝に当たりその水が反射して顔に当たると④バグで物理演算が狂って少女が超高速で空へと飛んでいきます。ぶっ飛んでる最中も多少は方向転換が効くので、このまま魔王の所へ向かいます。しばらくすると魔王と一定距離内に接近したことによりフラグが立ちムービーが流れますが、ぶっ飛んでる状態は継続されます。そしてぶっ飛んだまま魔王に接近してタイミングよく攻撃します。ここで外すとマップの端までぶっ飛んでいくのでタイミングが大事です。物理攻撃の威力は物体の速度と比例するという仕様により魔王が一撃で倒れます・・・と、よし!上手くいきました。ここでタイマーストップです。」
「タイムは・・・22分38秒211。たしか今までの記録が31分だったのでおよそ9分更新ですね。さてエピローグのムービーが流れてます。主人公が成長して国が平和になったことを示してますね。自分こう見えてもこのゲーム本当に好きで初めてクリアしてこのムービー見たときは涙を流した⑥のですが、さすがに22分でクリアしたらまあ感動はしますが全く涙は流れないですね。何せガスマスク外して滝の水顔に浴びて高速でぶっ飛んで魔王を倒して物騒な空気が漂う時代を終わらせて平穏を取り戻した【問題文】のですから。別ベクトルの感慨とか達成感とかはありますが。そして今はエンディングの映像が流れてますね。スタッフロールも流れて・・・このゲームを作ってくださったスタッフロールに載ってる方々に感謝したいんですけど、当の製作者の方々は俺のことぶん殴りたいと思ってるかもしれません。スタッフロールとともに劇中のムービーの一枚絵が表示されてますね。ああこの妖精ペットボトルを追いかけるシーン、ストーリーにおいては非常に重要⑩なのですが今回はスルーしました。ああこの桜の写った集合写真!これ主人公の少女が抱えている彼女以外誰も知らない秘密を解き明かす、今作の最重要キーアイテムと言っても過言ではありません⑤⑬。スルーしましたけど。未プレイ勢に優しいRTAです。優しいか?」
「というわけで今回『メロディカルコネクション』をやらせていただいたわけですが、まあ例の滝バグ、どれだけ位置を調整しても飛んでいく確率は1/2くらいだったので⑪何回か試すつもりだったのですが、一発で決まったのは良かったですね。正直さっきまでバグの検証をしまくってたから眠くて仕方ないです⑫。朝の2時ですね。こんな動画見てないで寝てください。さて今回はここで終わりにしたいと思います。俺も寝ますので。ご視聴ありがとうございました。」
【MOVIE END】

【メタ簡易解説】
正解を創りだすRTA

No.18[イナーシャ]03月20日 01:1303月29日 00:25

【タイトル】
隠された罪、その心。

エントリーNo.2 [良い質問]

No.19[イナーシャ]03月20日 01:1303月29日 00:25

【簡易解説】
テロと戦争で細菌兵器が蔓延した世界。
少女は感染防止のためにマスクを着けていたが、ウィルスを無効化する薬が完成。
少女は薬を飲むためにマスクを外した。

…しかし、そんな少女にはある秘密があった。
その秘密とは…

【詳細解説】
世界中を巻き込んだ大戦。
そのきっかけは、たった一本の⑩ペットボトルだった。
その中に入っていたのはLATE-2。
恐ろしい勢いで拡散・増殖・変異を繰り返す致死率⑪50%のウィルス…史上最悪の細菌兵器である。
大国で行われた細菌テロ、そのテロへの報復…あとはもう、坂道を転げ落ちるという表現がピッタリの有様だった。

⑨それから時計の針は進み続け、大戦が始まった頃五歳だった私カメコは、二十五歳になっていた。
停戦交渉の類は⑮なかなか始まらず、今も世界中で戦争は続いている。

「…行ってきます。お父さん、お母さん」

家の敷地内にある両親の墓に水をかける。
⑭私の国では挨拶のような物だ、死者に対してのと但し書きが付くが。
今日みたいに暑いと水浴びの一つもしたいだろう。
④頭から水を被せるつもりで、多めに水をかけておく。
そんな私が着けているのは、テロの応酬によって世界中に広まったLATE-2の感染を防ぐためのマスク。
いろいろなタイプがあるが、私が使っているのはシンプルな①仮面タイプ。
いつだったか、幼馴染みのウミコから貰った物だ。
彼女は「③私なりのささやかなプレゼントよ」なんて言っていたけど、私の宝物だ。
今日出かけるのは、そんな彼女からの呼び出しに応えてのこと。
ここ数年会っていなかったので、久々の再会だ。
大切な話があると言っていたけれど…一体何の用だろう。

久しぶりに会ったウミコは元気そうだった。

「久し振り、カメコ。元気だった?」
「まあね。そっちこそ元気だった?ここしばらく、ずいぶん忙しそうにしてたみたいだけど」
「ええ、確かに忙しかったわ…正直、今も⑫眠くて仕方ないくらい。でも、あなたには一刻も早く話しておきたくてね」

ウミコはそう言うと、カメコと同じデザインのマスクをおもむろに顔から取り外した。
穏やかな、しかし嬉しさが溢れ出るかのような笑顔。
その表情は、例えようもないほど②綺麗だった。
「私がLATE-2の研究をしていたのは知ってるわよね。ここ数年はLATE-2を無効化させる薬品の開発をしていたのだけど…それがついに完成したの」
それは、まさしく偉業であった。
それを成し遂げた原動力はかつての思い出なのだとウミコは語る。

「この⑤写真、覚えてる?私のウチとカメコのウチで一緒にやったお花見。⑧皆で踊ったり⑦歌ったりして、大騒ぎして…楽しかったあの頃の事は今でも忘れられないわ。今はもう、私とカメコしかいないけれど…二人でまた、お花見をしたいのよ。こんな無粋な仮面なんかなしでね」

仮面を投げ捨てたウミコは、懐から一つのカプセルを取り出す。

「これが例の薬よ。…私たちの思い出を、取り返しましょう?」

カプセルを受け取った私は、それを口に含むべくマスクを外した。



…私はウミコに、いや、⑬世界中に秘密にしていることがある。
出所不明とされているLATE-2を開発し、各国にばらまいたのが私の両親であること。
そして…大戦のきっかけになったあのテロで、LATE-2を設置したのが私であること。
当時の私は両親の行いを知らず、ただ利用されるだけの立場だったが…それで罪が許されるはずもない。
私がそれを知ったときには両親も報復テロの巻き添えで死んでしまっていた。
誰にも相談できず狼狽えている間にどんどん状況は悪化し、言い出すことも出来ずにいる。

真実が明らかになったとき、ウミコは、世界は、私を許してくれるだろうか…
背負った罪のあまりの大きさに、私は静かに⑥涙を流した。
【完】 [編集済]

No.20[弥七]03月21日 02:2403月29日 00:25

『借りてきた猫だと、君は言ったね。』

エントリーNo.3 [良い質問]

No.21[弥七]03月21日 02:2403月29日 01:09


「ミヅキちゃん、今日は注文が多いから特に大変だったよ〜σ^_^;」


夜だから??美容院にいるとどうして、こんなに眠くなるのだろう??⑫
せっかく化粧をした型が崩れないようにゆっくりと目を開けると、自分でオーダーしたはずなのにその変わりように少し驚いてしまった。

仕上げに全体の毛先を丁寧に切りそろえてもらいながら、春らしい透明感のあるシアーグレージュの髪を左右に振って染め残しがないかチェックする。ハーフアップにポニーテール風のアレンジを効かせて、ふわりと風が撫でたような、自然なウェーブにキラキラと光が乱反射して綺麗だった。②


「そりゃあ、大事な日ですから。」
「チョーカーなんて大人かわいいモノつけちゃって、ミヅキちゃんもお年頃だねぇ」


少し大胆すぎただろうか??
喜んでくれるかは五分五分かもしれないとは思ったが⑪、しかし、きっとこの非日常を味わい尽くすには、これくらいがちょうどいいスパイスなのだろう。


「それってプレゼント?」
「いいえ、自分で購入したものです。…どちらかと言えば、私からのささやかなプレゼント、になるのですかね。③」
「???…まあ、よくわかんないけど…


…それで、『彼氏』はどんな人なのさ?^ ^」

悪戯っぽい笑顔を受かべながらそんなことを聞くので、私は顔を真っ赤にしてぴん!と背筋を伸ばしてしまった。

(もしかして私の『秘密』を知っているのだろうか?⑬)

いやいや、なんてことはない、普通に、ただ普通に答えればいいだけだ。


「か、か、彼氏なんて…まずは友達からです…よ。」
「へーえ、で、その『友達』はどんな人なのさ?」
「実は…仕事先のお客様で。あ!普段はフロントスタッフの仕事をしてるんですけど…職場で英語を話せるのが私だけだったから、自然の流れで。」
「え〜〜!?

受付嬢とお客様の禁断の恋に、外国人なんて〜〜!!んもぅ、どれだけ設定詰め込めば気が済むのよぅ♡♡」


いや、急なオネエ口調の方が正直驚きを隠せないのだが。設定の内容が少々引っかかるけれども、まあ全て忘れることにしよう。

最後にスプレーで髪型を固定してもらった。顔にしっとりとかかった液体からはcherry blossomの優美で凛とした良い香りがした。④


うん、完璧。間違いなく、100点満点だ。


「それで、今日のプランは?」
「お店を予約してもらったので、一緒にお食事して…そのあとは特に何も、決めてないです。」
「そう、楽しんできてね。」


店員の言葉を背に、私は足早にその場を後にした。


ーーーーーーーーーー


「実は…Christyさんだって、最初はわからなくて。。。」
”Same to you :)”
(それは、お互いさまじゃないかな。)


その場で待ち合わせをしている外国人など、彼以外にいなかったのだが。

初めて会った時とはまた違って。下ろした前髪とか、TPOをわきまえつつも少しラフな格好とか。かっちりとしたジャケットに身を包んだ姿しか知らなかった私は、随分と戸惑った顔をしていたらしい。人間、見た目でこうも変わるものなのか、と少し感心もした。方向性は違うがそれは…私だって同じか。


“Today, please feel free to call me Chris!”
(今日はクリス、と気軽に呼んでくださいね。)
「えっと、じゃあ、クリスさん。」


なかなか始まらないコース料理の間にも、時計の針は止まることを知らない。大切な時間は刻一刻と過ぎてしまう。⑮⑨ 無言が怖いのでなにかお話でもしなければ……と思ったが、今日は不思議と、何も浮かんでこない。

(えっと、何を話せばいいんだっけ…??)

78回転式のSPレコードから流れる、聞き覚えのない夜ジャズが、空っぽの頭の中をぐるぐるとかき回した。


だって、なんだか、いつもとちがうんだもん。


今日は100点満点。そう思っていたはずなのに。そんな自分の姿が、職場のお客様とも、ひとりの友人ともちがう、独特な雰囲気に拍車をかけていることに後悔を覚えた。なんか、気まずい。


「ごめんなさい。少し、お手洗いに……!^ ^;」


頭がぼうっとする。食前酒だけで酔い始めるとは、緊張している証拠だ。そういえば、口紅が剥がれるといけないから、水分は取らないようにしていたっけ。手提げ鞄の中をごそごそと探ってみたが、何も出てこない。ペットボトルくらい、持って来ればよかった。⑩

1人で空回りしている自分が恥ずかしい。こんなはずじゃなかったのになぁ…と鏡に映る詳細に作り込まれた私を、恨めしそうに眺めた。心の中で、ぽつりと涙が流れる。⑥

私だって、昼間はホテルのフロントスタッフ。他人と会話をすることなんて、むしろ得意だと思っていた。

(くそぅ、今こそ仕事で評価された接客スキルを使うべきなのに!!><)

こうなったら…友達として楽しくお話をするのはよそう。
私の最終奥義、『営業スマイル』でクリスさんだけでもこの場を楽しんでもらうしかないんだ。(たぶん)





「申し訳ありません☆おまたせしてしまって!」
「わあ!豪華なお料理ですね〜!美味しそう☆」
「今日もお仕事だったんですね。お疲れ様です^ ^」


etcetc…時間が進むたびに、なんだか、息が苦しいけど。とりあえず会話が進んでいるなら結果オーライだ。きっと彼も満足してくれているはず。なんてったって、今は100点満点の女性を演じているのだから。決して悟られないように、目線は料理の方に全て向けていた。顔を見て話すなんて、とてもじゃないけどできなかった。

「クリスさん、今日は楽しかったです☆」
“Mizuki,”
「それじゃあ最後にもう一回、乾杯しちゃいましょっか?^ ^」
“Hey, Mizuki…





Why do you make that face??”
(どうしてそんな顔をするのですか??)


はっとして正面を見た。彼は柔和な顔を崩さないようにしながらも、けれどちょっぴり悲しそうにこちらを見つめている。


“私の国では歌ったり、みんなで踊ったり…⑦⑧、体で感情を表現するのは、挨拶と同じくらい当たり前なことなんです。⑭あなたの仕草で、どんなことを考えているのかなんて、私にはお見通しですよ。どうしてこんなことを??”
「……。」


やっぱり、見透かされてしまったようだ。


“僕は、『ホンモノのミヅキさん』と友達になりたくて、あなたを誘ったんです。ありのままの。だって一目見て、とても素敵な人だと思ったから。”


“もちろん、僕が仕事のお客さんだってことはわかってるけど:)でも君がマスクを被ったら、僕が好きになったミヅキさんは消えてしまうんですよ。”


「……そうやって『好き』って言うのも、挨拶みたいなものですか??」


急に口を塞いであたふたしている彼を見つめながら、私は心の中で反省した。

私ったら、ここに座ってる資格ないなあ…。クリスさんに楽しんでもらおうと、色々頑張ったのに、結局は、気を使われていたのは自分の方で。なんにもできなかったんだ。でもそれを認めることで、不思議と救われた。


整った髪も、精巧な化粧も、そして心の中に巣喰った仮面(mask)でさえも。考えて見れば堅苦しいものばかりだ。①私は自然な自分でありたい。彼の前では全て外してしまおうと、私は思った。


「ごめんなさい、ほんとは私、頑張って綺麗に振る舞うのに、少し疲れてたところ^ ^」


彼も笑い返してくれた。やっと目を見て、会話できた気がする。


“素敵な笑顔です。自然で、美しい…
そうだ、食事が終わったら、少し散歩でもどうです??”


ーーーーーーーーーー


中野区、夜の新井薬師公園を2人で歩いた。開花予想の4月上旬には少し早かったが、24本のライトアップされた夜桜は、昼間とは違う幻想的な雰囲気を醸し出していた。敷地内には、私のつけていた香水など偽物だと言わんばかりに、ほのかに上品で甘い香りが広がっていた。

私たちは自然と手を繋ぐ。これも挨拶のうちかな??とからかうと、また顔を真っ赤にして否定している。


“僕、この桜が大好きなんです。”


ここに来る前に、家族で撮った集合写真を見せてもらった。⑤毎年日本へ親族を集め、ここで花見をするのが慣習なのだと教えてくれた。とてもいい家庭だ。


「じゃあ、私たちも写真とろっか。」


自撮り棒いらずの彼の腕。もう片方の腕で抱き寄せられながら、私はついさっきまでのことが嘘みたいだと言った。

職場のお客様と禁断の恋に、外国人。

そんなこともある、よね、なんて。

私は少し背伸びして、彼に顔を近づけた。




















ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。

「あ。」
“What’s?”

不意にポケットからアラームが鳴ったので、彼は驚いてシャッターを押してしまった。私はお時間です、と彼の方に向き直って、お決まりの構文を語るのであった。

「本日は友人代行サービス『Rental Cats』をご利用いただき、ありがとうございます。お客様は3時間コースですので、15000円、と言いたいところですが…お写真を一枚撮ったので、合計20000円、お支払いくださいませ。」

私の気持ちに嘘はないけれど。
これは『ビジネス』。悪く思わないでね^ ^

彼は自分の財布から一万円札を2枚取り出すと、ため息ひとつして呟いた。

“ああ、友人や彼女をレンタルするなんて発想…



な ん て 物 騒 な 世 の 中 だ 。”

(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)

ーーーーーーーーーー
『劇団ココナッツ🌴』
・美容師役(弥七)
・Christy Kit役(きっとくりすさん)
・ミヅキ役(みづさん)
ふたりにSpecial Thanks!!! [編集済]

1

No.22[弥七]03月21日 03:1503月29日 00:25

[!!!Caution!!!]
ストーリーを読んでから、簡易解答を読むことをオススメします。

簡易解答:時は21世紀。友人や彼女をレンタルする代行サービスが一般化する社会。持ち前の営業スマイルや接客スキルを駆使して無理やり仕事をこなそうとする新米スタッフのミヅキであったが、今回の依頼人Christy Kitによって全てを見透かされてしまう。彼の積極的なアプローチに負け、最後には心の仮面を外して平穏を得ることができたのであった。 [編集済]

No.23[OUTIS]03月21日 19:5703月29日 00:25

【チェシャ猫探偵の事件簿 -創り出された夢物語-】

エントリーNo.4 [良い質問]

No.24[OUTIS]03月21日 19:5803月29日 00:25

『俳優の輝夜さんが、息子との間に血縁関係が無いという検査結果を受けて…次のニュースです。有栖川病院院長の死のショックか、絵本作家である妻の杏子さんも…月面の環境汚染が深刻であるとして、デイジーの花畑による緑化の可能性を…―プツッ』❻
やあどーも、ごめんねぇ、テレビを見るのもたまには悪くないかなって思ったんだけど物騒というか嫌なニュースばっかり流れててねぇ。
それにしても、こんな事務所にお客さんが来るなんてねぇ・・・って
「あれ?」
振り返ると、そこには誰もいない。
「あのー?お客さん?いらっしゃいますかー?」
・・・無反応
「僕、疲れてるのかな。」
少し仮眠をとろう。そう思ってソファーに横になった。
―――――――――――――――――――――――――
目が覚めると、僕はネコになっていた。
何を言っているかわからないと思うけど、ネコになっていた。
ネコと和解せよ・・・なんて、暇つぶしにキリスト教についてネットサーフィンしてたのがまずかったかな?
それに場所もさっきまでいた事務所じゃなくて宮殿のような広間だ。
ああ、これは夢なんだなぁってわかってきたけれど、夢が覚めるような様子は無い。
周りの人々は皆が着飾って仮面をつけて踊っている①⑧、おそらく仮面舞踏会というやつだろう。
ふと上を見ると11時11分を指す大きな時計と、その下で話す一組の男女が目に入った。
女はシンプルではあるけれど美しいドレスを身にまとい、ガラスの靴を履いている。
そうか、これはシンデレラの夢なんだ。
彼女は12時には魔法が解けてしまう。時計の針は無慈悲に進み続ける。タイムリミットまで、あと49分。⑨
―――――――――――――――――――――――――
そう思った瞬間に49という数字が目の前で大きくなって、7×7という数字に変わった。
いきなりのことに呆然としていると、またたく間に7という数字は7人の小人へと変わっていった。
7人の小人達は一人の少女と共に森の中で生活していた。
今度は白雪姫の夢かと思っていると、いきなり場面が変わり、王宮のような場所で王子の買った透明な紫色の棺に入れられた白雪姫が目を覚ました。❷
そこへ一人の少女が現れる。
服装から見るに、さっきのシンデレラみたいだ。
偉そうな態度で白雪姫をどこかへ連れて行こうとしたけれど、始終白雪姫は眠くて仕方がないようだった。⑫
―――――――――――――――――――――――――
すると、今度は女性が水浴びしているシーンになった。
ラッキースケベか!?と思っていると、一匹の白兎が現れて女性に子供が宿っていることを告げた。❸
そして、いつの間にか少女の15の誕生日。
あっという間に城が荊に飲まれていく様子は壮観だったね。
ここは多分、荊姫の夢かな?
そうしてボーっと眺めていると、いつの間にか100年後、王子が彼女を助けて城を出るとシンデレラと白雪姫が待ち構えていて、荊姫を連れていっちゃった。
塔の上で眠っていた荊姫は白雪姫と違ってすぐに彼女たちについて行った。
―――――――――――――――――――――――――
気が付くと、今度は塔の上に立っていた。
下を見ると、ひとりの男が僕に向かって呼び掛けている。
―のかと思ったけど、どうやら僕の下に部屋があってそこにいる女の人に呼び掛けているみたいだ。
男の人の呼びかけに応えるように窓から延長コードが結び付けられた長い髪の毛を垂らす女性。
今度はラプンツェルか、童話の夢のフルコースかな?
と思った瞬間場面が変わり、小さな小屋。
二児の母親となったラプンツェルが歌を口ずさんでいると、その歌に引き寄せられたようにあの時の男が現れた。⑦
しかし、あの時と違って目に包帯をしており目が見えないようだった。
二人と再会を果たした瞬間に、シンデレラたちが現れて彼女を連れて行った。
―――――――――――――――――――――――――
ふと、誰かに呼ばれたような気がして辺りを見まわすと、また舞台が変わり中世の街中に僕はいた。
ペチャリ、何か液体が顔にかかった気がして拭ってみると、そこそこ綺麗な毛並みが血で汚れていた。④
そこは、怒り狂う市民による争いが起こっていて、目も当てられない状況だった。
そんな中、町の外から中心へとシンデレラたちが入ってくると市民たちは落ち着きを取り戻していった。
中央で彼女たちが会ったのは・・・スライム?だった。
ショゴスロードと名乗った時点でやっとクトゥルフ神話ってピンと来たけど、こんな世界観だったっけ・・・?
―――――――――――――――――――――――――
童話の夢じゃなかったのかと思っていると、今度は竹林にいた。
一本だけ光っている竹がある。
今度はかぐや姫か。
また場面は変わりかぐや姫が皇子達に求婚されるシーン。
本来は全員まずは拒否される形で難題を出されるはずだけど、どうやら彼女は誰か一人選べずに難題を出したことになっている。
なんか変だな~って思ってると、帝が現れた。
だけど、それは本来の物語に存在しない帝が誰かと密会しているシーンだった。
狐面の人物が、帝に難題で要求された物品を渡している。
けれど、どれも現代にありそうなものばかり。
火鼠の皮衣は消防士が着ている防火服、仏の御石の鉢なんて、ペットボトルで代用される始末。⑩
―――――――――――――――――――――――――
あまりの雰囲気ぶち壊しな物品の登場に呆れていると、また舞台は変わって・・・
今度は、童話の世界とは思えないSFチックな機械都市のはずれだった。
なにやら工房のような家の中で、頭巾をかぶった少女がチキンを振り回している。❼
と思った瞬間、バクバクと殴っている相手を食べ始めた少女。
返り血で真白だった頭巾が赤く染まっていき、ようやく僕は理解できた。
これは赤ずきんの夢だと。
いささか悪趣味すぎる気もするけど、童話なんて原作みてみるとなかなかえげつないのがゴロゴロあるからまあ仕方ないとも思う。
でも、なんでこんな夢を・・・?
―――――――――――――――――――――――――
チリン
風鈴の音が、聞こえた気がした。
―――――――――――――――――――――――――
その瞬間、また世界が変わった。
青い色鉛筆ばかり持ったトランプの兵に囲まれて丸焼きの兎を食べる少女。❽
今度はアリスの世界。
だけど、そこには見覚えのある影がいた。
そして、そこに現れる7人の少女(?)達。
やっと、僕がここに来た意味を理解したよ。
さあ、始めようか。
なかなか始まらなかった探偵樗木根の・・・いや、こういった方がいいかな。⑮
チェシャ猫探偵の推理ショーを!
[編集済]

No.25[OUTIS]03月21日 19:5803月29日 00:25

「やあ、みなさんごきげんよう。」
そう僕が声をかけると
「あら、チェシャ猫さんじゃあないですか。今日はニヤニヤ笑いも猫も両方あるんですね。」
とアリスが言ってくる。
「いきなり、つじつまの合わない事を言ってくれるね。」
と言うと
「私の国では挨拶みたいなものよ、だってここは不思議の国。つじつまの合っている方がおかしいのよ?」⑭
なんて言ってくる。
「ああ、確かにこの国は滑稽な事が多いね。僕も見させてもらったよ。」
「君たちのナンセンスな旅路をね。」
「ナンセンスですって?冗談じゃない!私たちを馬鹿にするつもり?」
「いやいや、落ち着いてくれないかな?シンデレラ。君たちを馬鹿にするつもりはコーヒーカップの淵程も無いんだから。
 それに、見つかるはずのない人間を追いかける旅をナンセンスと言わずして、なんて言うのかな?」
「何それ、狐面の人物は居ないっていうの!?」
「いいや、そうは言ってない。だって、もうここに狐面の人物は居るんだから。」
「どういうこと?わけわかんない!貴方の目的は何なのよ!」
「うーん・・・そうだね、夢から覚める事、あるいは夢から覚ます事かな?」
「なにそれ?私たちが夢でも見てるっていうの?白雪姫じゃあるまいし!」
「そうだね、君たちが夢を見ているんじゃない。夢を見ているのは、君だけだ。」

―――――――――――――――――――――――――

そう言って、僕は少女―アリスに笑みを向ける。
「私が?夢を見ている?ご冗談はよしてください。」
「いや、事実だよ。君は夢を見ている。この世界は、君であふれているんだから。❹
 狐面の人物も、君なんだし。」
「何わけのわからない事を言っているんですか?」
「ここじゃわけのわからない事は挨拶みたいなものだったんじゃないの?」
「・・・っ」
「この世界は、貴女が現実から逃げる為に作ったシェルターのようなもの。
 罪の意識から逃れる為のね。」
「罪?私がどんな罪を犯したというの?」
「貴女の罪は、この場にいる7人・・・いや、8人の登場人物たち。
 シンデレラ 白雪姫 荊姫 ラプンツェル ショゴス かぐや姫 赤ずきん
 彼女たちは、それぞれ 傲慢であり、怠惰であり、嫉妬深く、色欲に溺れ、憤怒に呑まれ、強欲で、暴食だった。
 七つの大罪。
 そう、罪の意識から、貴女にとって“罪”の象徴となっていた七つの大罪がこの世界の主軸となった。
 そして、貴女は自らを“正義”として無意識に自己を正当化しようとした。
 結果、この世界のあちこちに罪の意識が断片として残った。
 貴女も、気づいているんでしょう?だからこそ、もっと大きな歪みでごまかそうとした。
 赤ずきんの世界観みたいにね。」
そう、彼女が犯した最初の罪。
それを示すのは・・・
「荊姫の冒頭、王妃に子供が生まれると告げる動物。本来はカエルのはずなのに、兎が告げているんだよね。」
「それの何処が罪だというんですか?」
「これを、病院で子供が生まれた後それを“告げる”という事が兎という“偽物”に変わっているって見ると、誰かが生んだ子供が別人の子供と入れ替えられた。つまり故意による新生児取り違えが起こったととれるんだよね。」
「新生児、取り違え…」
「入れ替わったのは、俳優の輝夜さんの子供と絵本作家である杏子さんの子供。
 そして、そんな事を秘密裏に出来るのは病院長の妻である貴女しかいないんですよ。
ですよね?絵本作家の有栖川京子さん。」
「続けて、もらえる?」
「ええ、そうですね。
 次の罪・・・と行く前に、動機を推理させてもらおうかな。
 貴女は、幼少期はとても綺麗だったんだってね。②
 その事が忘れられず、貴女は若い少女に固執するようになった。
 けれど、貴女が産んだのは男の子だった。
 1/2の確率で、貴女が望まない結果が出てしまったんです。⑪
 そんな中、俳優である輝夜さんの奥さんが同じ病院で女の子を出産した事を聞いた。
 美男美女で有名だった夫婦の娘がどうしても欲しくなり、貴女は院長である夫に頼んで生まれた子供を取り換えてもらった。」
「・・・」
「さて、そこからは順風満帆な生活だったでしょう。
 あの日が来るまでは。
 血液型でしたっけ?俳優の輝夜さんと息子さんに親子関係が無いってわかってニュースになったのは僕も覚えてるよ。
 その時、あなたの夫は全ての罪を告白して自首しようとでも言い始めたのかな。
 ともかく、事件の発覚を恐れた貴女は夫を殺害した。
 結果、子供を取り換えた事は貴女以外誰も知らない秘密になった。⑬
 それが、貴女が先ほど食べていた白兎が示す二つ目の罪。」
「そして夫を手にかけた結果、精神を病んだ貴女は心を閉ざして昏睡状態になった。」
「証拠は、あるんですか。」
「あるわけないでしょ?ぜ~んぶ、夢の中のお話なんだから。」
「だったら!」
「でも、本当にこのままで貴女はいいの?」
「どういう・・・?」
「この世界で、その生まれから荊姫は貴女にとって娘にあたる立ち位置だった。
 けれども、そんな彼女なのにこの世界ではとても影の薄い存在だった。
キャラが無いとも言い換えることができるかな?」
「何が言いたいの。」
「貴女は、本当に娘を愛していた。たとえ別人の子でも、自らの手で汚す事をためらう程に。」
「・・・」
「確か、娘さんはもうすぐ中学を卒業するよね。
卒業写真って、一生の思い出になる大事な物なんだよ?⑤
その写真に家族が一人もいなかったり、そもそも存在しないとなったら・・・」
つうっと、アリスの目から涙が流れた。⑥
「もう、こんな残酷で物騒な御伽噺の世界に閉じこもってないで、外へ出たらどうかな?」
「・・・そう、ね。
 貴方の推理、見事でした。
 ですが、一つだけ間違っていましたよ。
 あの日、夫が口にしたのは自分が自主するなんてご立派なことじゃなくて・・・
 『俺の分まで一人で自主して罪を被ってくれ。』
 なんて言葉だったんですよ。」
そう言いながら、彼女は懐から狐面を取り出した。
そしてそれを、割った。
「そういえば、どうして狐面だったの?」
「狐ってね、七つの大罪では強欲に対応してるんですって。
 欲に塗れた愚かな女に、ちょうどいい動物だと思わない?」
「本当に、それだけ?」
「・・・父が、大事にしていたんです。
 初恋の人と神社のお祭りで買ったらしくて。
 その人、入水自殺したらしいんですけどね。
 過去に囚われた、馬鹿な親でした。
 けど、若い頃の自分を忘れられずにいた私には、ちょうど良かったんでしょうね。
 気が付くと、手の中にあったのがこのお面でした。」
「でも、僕はたまには過去を振り返るのも悪くないと思うよ。過度に囚われるのは流石にどうかと思うけどね。」
「そろそろ、お別れですね。最後に、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「僕の名前は樗木根幸助。私立探偵だよ。ちゃんと、自首してくれると信じているからね。」
―――――――――――――――――――――――――
目が覚めると、僕は目が覚めていた。
いや、当たり前の事ではあるけれど。
今の夢がただの夢かどうか、確かめる術はない。
けれど、僕にはただの夢とは思えなかった。
―――――――――――――――――――――――――
Side:有栖川京子
「んっ・・・」
頭が痛む。
現実に、戻ってきた。
夢は、覚めた。
現実と向き合わなければいけない。
私は、付けられていた酸素マスクを外した。
Side:チェシャ猫探偵
「あーっ!またダメだった・・・」
あの奇妙な夢を見た数週間後、僕は暇つぶしにやっていたマインスイーパーを爆発させていた。❺
そんな時、差出人不明の小箱が送られてきた。
小さな箱を開けてみると、そこに入っていたのは一本の棒と手紙だった。
「これは・・・ペン?」❶
手紙を開けてみると、
『樗木根幸助様へ、
これはもう、私には要らない物です。
 なので、貴方に差し上げます。
 私を目覚めさせてくれた貴方への、
私なりのささやかなプレゼントです。③
  有栖川京子より』
とあった。
このまたさらに数日後、彼女は殺人罪等の罪で逮捕された。
―了―

【簡易解説】
罪を犯したことで精神を病み、物騒な夢の中の御伽噺の世界に閉じこもった女。
けれども、娘との平穏な時間をも失う事に気づいた女は現実に戻ることを決めた。
結果、病院のベッドで付けられていた酸素マスクを外す事になった。
[編集済]

No.26[葛原]03月23日 02:3003月29日 00:25

【仮面舞踏会】

エントリーNo.5 [良い質問]

No.27[葛原]03月23日 02:3003月29日 00:25

辻井桜さま
 お久しぶりです。
 手紙を書くのって何か緊張しますね。なんで敬語になっちゃうんだろう?
 かしこまっていたら、ぎこちない文章になっちゃうから、できるだけいつもの口調で書くね。メールとかでもよかったんだけど、手書きのほうが気持ちが伝わるかなって。さくちゃんはどっちでもいいっていうと思うけど、私の気持ち的に。
 今回の事件、さくちゃんは、ほんとうに辛かったと思う。私からの励ましなんて逆効果だよね。だから今回は励ましの手紙なんかではなくて、お誘いの手紙です。また敬語になっちゃったね。
 また、あのメンバーで会えないかな?
 さくちゃんがいいっていったら、みんなにアポとりたいんだけど、どうだろう。
 辛いようだったら断って。
 それじゃあ、お大事に。
2020年2月12日 安藤望実

安藤望実様
 お手紙ありがとう。
 もらったとき、懐かしくて涙がでてしまいました。いつのまにかホームシックになっていたみたい。本当だね、敬語になっちゃう。お手紙ありがとうって書いていた時点では、敬語になるまいと思っていたのに。
 LINEとかで、友達が語尾に「だわ」とかつけているのをよく見るけど、私たちは自分の口調を文字に直すのを恥ずかしがる生き物なのかもしれないね。そういえば望実ちゃんとは、LINEの交換してなかった。最後にアドレス置いておくね。入学祝いに買ってもらったんだよ。そのときにメールすればよかった。
 望実ちゃんの気持ちは本当に嬉しいんだけど、今は人に見せられるような顔じゃないから。また落ちついたら、こっちから誘うね。
2020年2月15日 辻井桜

辻井桜さま
 手紙って返事が返ってくるまでの時間、すごくドキドキするね。さくちゃんを怒らせていないかとか、不謹慎だったんじゃないかとか、そんなことをずっと考えてた。
 慣れてきたから今度こそ敬語は使いません。無理でした。
 小芝居はさておき(小芝居ってことにしておいてね。素でやってるってバレたら恥ずいから)、今回の手紙、偽物のさくちゃんなんじゃないかって私は思ったよ。さくちゃんらしくない。
 最初はさくちゃんっぽい文章だったけど、後半。
 私の知ってるさくちゃんなら、なんで女の子は綺麗じゃなきゃいけないんだって、そういうふうに疑問を投げかけてくると思う。
 私たちが好きなのは、さくちゃんの顔じゃないんだよ。もちろん顔も好きだけど、声も好きだし、ちょっと理論家気質なところとか、皮肉げな態度とか、話していて楽しいところとか、いっぱいあるからね。これだけじゃない。疑うんだったら、千羽鶴のひとつひとつに長所を書いて送ったっていいよ。嘘がときどき混ざるかもしれないけど。…冗談。
 今回は、返事の待ち時間、もっとドキドキするかも。大変なときなのに、ちょっと説教臭い文章送っちゃってごめんなさい。でも私がさくちゃんを嫌うとかありえないから、それだけは覚えておいてください。
2020年2月18日 安藤望実

安藤望実様
 手紙のいいところって、内容を強制的に客観視する時間をとれるところだと思います。望実ちゃんに何がわかるのとか、LINEだったら書いていたかも。それにしても皮肉げな態度を長所にあげているの、早くもネタ切れの兆しじゃない?
 今、皮膚科と精神科と形成外科のお医者さんに見てもらっている状態。ベッド周りはちょっとした百鬼夜行。精神科のお医者さんに望実ちゃんに誘ってもらったことを話したら、いい友達だねっていってたよ。メンタルヘルス系の本って胡散臭くて読んでこなかったんだけど、暇なので読んでみた。予想通り胡散臭くて参考にならなかったよ。望実ちゃんからの手紙のほうがよっぽど役に立っている。経済学科やめてカウンセラーになったら?
 これいったら嫌われるかもしれないって思ったけど、望実ちゃんが嫌わないっていっているから正直にいうね。自分の顔、結構いけてるって思ってました。望実ちゃんと同じくらいは、いけてるって思ってた。少なくともブスっていわれる顔じゃないし。だから顔とか関係ないよとかいえたと思う。
 でも、顔がこんなのになっちゃってから、人と話すときに、なんかやましいことをしている気分になる。世間の人が指差して笑うんじゃないかとか、今は病院だから誰もそういう悪口いってこないけど。硫酸かけられて顔がただれたのと、もともとの顔がブスなのってそんなに変わらないよね。それなのにテレビだと前者は可哀想だっていわれて、後者は笑いものにされている。本当は前者だって笑いものにしたいんじゃないのって思います。美人がブサイクになったら可哀想で、最初からブサイクだったら面白いの? 結局可哀想なのもブサイクに「なっちゃった」からでしょ? って最近ずっと考えています。
 人の顔みたらその人の人生が分かるっていうけど、私の顔から何が分かるんだろうね? アシッドアタックを受けたことくらいしかわからないと思うんだけど。
 そういえば症状いってなかったね。かかった場所が鼻から下だったからマスクでごまかせる。私、綺麗?
 さすがに返しにくいジョークかな。
 ヒーローが仮面をつけている理由がブサイクだからだったらいいのに、なぜかヒーローはみんなイケメンです。
 嫌になるね。
 長々とした手紙になっちゃってごめんね。『こころ』の先生よりはマシだとポジティブに考えてください。
 ポジティブなことをもうひとつ。こころが落ちついてきたから、望実ちゃんにお願いしてもいいかな? あのメンツのセッティング。
2020年2月23日 辻井桜

Dear,さくちゃん
 エウレカ!
 敬語になっちゃう理由、気づいちゃった。最初にフルネーム+さまなんてかしこまったふうに書いているからだ。
 今回は「さくちゃん」って書いたから敬語を使わないでも書ける。まあ一行で手紙を終えるっていう必殺技もないではないんだけど。
 さくちゃんが気持ちを打ち明けてくれたこと、とっても嬉しい。私前からいってたけどね、さくちゃん可愛いって。本当のこといっても嫌わないよ。
 セッティング了解。悪口いってくるような連中、私がぶっ飛ばしてやるから。会うまでにスマブラで練習しとくね。
 にしてもよりによって口裂け女とか、ブラックジョークがすぎるよ。トイメンでそれいわないでね、気まずくて場から和了っちゃうから。
 …ちゃんづけしたら、なんかくだけすぎちゃったな。
Love,望実
 …こういうのって日付どこに書けばいいんだろ?
2020年2月26日 安藤望実

   ★

 刻一刻という言葉を聞いたとき、幼少期の私は、時間が進むことを表す擬音なのではないかと思った。
 時間がコクイッコク、コクイッコクと進んでいくのはどことなくユーモアがあって愉しく、誤りだと分かった後でも、私の中で時間の進む音はコクイッコクだ。
 コクイッコクと時計の針は進み続ける。
 久しぶりに、さくちゃんと会える。他の旧友のおまけ付きで。
 朝は緩慢で、こーーく、いっこーーーく、とのんびりと、かと思うとコクッと素早く束の時間に近づいていくのだった。
「ひかりちゃん、おひさー」
「のぞみなんだけど」
「あれ? あー、そっか。新幹線の名前だってところまでは思いだせたんだけどな」
 最初にきたのはススキノで、相変わらずの天然ボケを炸裂させていた。そもそものアダ名の由来にしたって、歓楽街を快楽街と読み間違えるというポカをやらかしたからだ。本名は谷崎潤子という古風な名前で、両親が谷崎潤一郎の輪読会で知り合ったことに由来する。彼女の父は谷崎という苗字にしたいがために婿入りしたのだという。文学(的な名前の)少女なのだ。その証拠に赤ぶちの眼鏡をかけている。
「こだまとススキノじゃん。大きくなったな~」
「ここ最近メッシーが奢ってくれないから痩せたよ?」
「私の名前を新幹線で思い出そうとするやつ多すぎない? 親戚のオッサンみたいな口調だし」
 次にきたのはメッシーで、高校時代にバイト三昧だったせいで、よくご飯を奢ってくれていたのでこの名前になった。恩を仇で返すとはこのことである。趣味は音楽で、私は機会が合わずに見に行けていないが、ロックバンドを結成している。メッシーなのにパンクとは、これいかに。……いかんいかん、私こそ親戚のオッサンみたいなことをいってしまうところだった。
 最後にきたのはさくちゃんで、マスクをつけていた。私たちの視線に気づいて「この時期は花粉のせいってことにしておけばいいから楽だね」といった。
「さくらー、久しぶり。今、こいつの名前をめぐって論争が起きていてだね。どれが正しいのか決着をつけようとしている最中なんだ」
 私を指差しながら、メッシーがいった。
「私がこだま派、ススキノがひかり派、こいつがのぞみ派。これはきのこたけのこ論争に次ぐ論争だと思うんだけど」
「論争になってないし、確実にのぞみだし。派閥なんてあってたまるか」
「……スーパーこまちじゃないの?」
「さくちゃんまで!」
 一笑いがあって、私たちはカラオケに向かって歩いていった。
 メッシーの歌唱力は抜群で、ススキノはこれでもかというくらい歌が下手くそだったが、なぜかキレッキレのダンスを踊っていた。そのうちなぜかススキノがみんなを踊らせて、私がオレンジジュースを床にぶちまけるまでダンスパーティーが続いていた。ペットボトルだったらこんな悲劇は起こらなかったのに……
 さくちゃんのウーロン茶は少しも減っていなかった。



 夜、私たちは夜桜を見に行くことにした。
「ブルーシートとかもってくればよかった」
「私もってるよ」
 とメッシーが手提げ袋からブルーシートを取り出した。
「なんでもってるの」
 さくちゃんが至極当然の疑問を呈する。
「私の国ではこれが普通なのだよ」
「どんな国に住んでるんだ」
 と、私。
「メッシーアイランド?」
 と、ススキノ。
「メッシーアイランドでは花見は挨拶みたいなものだからね」
「それ採用しちゃうんだ」
 さくちゃんが笑う。
「本当はね、こういうことがあろうかと思ってたんだよ。私からのささやかなプレゼント。結婚式の祝儀もこれで立て替えてほしい」
「ささやかという割にはずうずうしいな」
 桜が風をすべって私たちの方向に流れてくる。街灯のぼんやりとした明かりに水彩画のように淡く照らされて、花びらは地面に落ちてゆく。土がかすかに覆われる。土は、やがて自分を覆い隠す花びらを静かに受け入れている。
「写真、撮る?」
 私が提案した。
 自撮り棒あるよー、とメッシーがカバンから取り出した。
 全員でおしくらまんじゅうのように密集して、カメラに向かってピースした。
「……流れで撮ったけど。桜、写ってないよね?」
 さくちゃんのツッコミに、みんながハッとした。
 改めて。
 今度は少し高いところにスマホを置き、セルフタイマーで集合写真を撮ることになった。一枚目はススキノの眼鏡にフラッシュが反射したので撮り直し、二枚目、三枚目をLINEグループで共有した。
「コンビニでお酒とか買ってくるね。飲みたいやつある?」
 私がいった。
「ロマネ・コンティ」
 メッシーが答えた。
「コンビニにあるやつ限定でっていわなきゃ駄目だった?」
「じゃあオレンジジュース」
「その節はすみませんでした」
 メッシーの思わぬ反撃に心を痛めながら、私はススキノとコンビニに向かった。
 会場にもどると場は盛り上がっていた。
「カシスオレンジをご注文のお客様」
「あー、私はビールで」
「買ってきたけどさ、買ってきたけども」
 結局、私がカシスオレンジを飲むことになった。メッシーが豪快にビールを飲み、ススキノは泥水でも啜るような渋い顔をしてメロンサワーを飲んでいた。
 さくちゃんはマスクを外そうとしない。
 宴もたけなわである。ススキノが暴れだした。
「にしてもさ! 犯人とっ捕まえて、ぎったんぎったんにしたいよね!」
 なんの脈絡もない言葉だった。
 それまでの話題は「天気予報の降水確率五〇パーセントは八〇パーセントと読みかえてもいい」というものだったのだから、「にしてもさ」の急ハンドルと、ススキノが突っ込んでいった先にある目に見えた地雷に、私たちはしばし硬直した。
「そいつ捕まったの?」
「……いちおう、捕まったけど」
 さくちゃんが腰が引けたようにうなずいた。
「おめでとう!」
「……ありがとう?」
「あー、なんか私むしゃくしゃする! あおば、殴らせて!」
「なんで私なんだ。それから私を新幹線の名前ということだけで覚えるな」
 なんでみんな、そんなに新幹線の名前を知っているのだろうか。
 私はこうやっていじられることが多くなければ、そんなに新幹線の名前を覚えていないはずだが。
「……その、いい機会だからいうけど。今回、みんなにあえて、ものすごく安心したんだ。変わらずにつきあってくれて」
 さくちゃんがマスクに手をかけた。
「これ、痕なんだけど。これでも、その、……変わらずにつきあってほしい。治療中だけど完全にはもどらないって」
 痛々しい痕だった。唇の形がわずかに歪み、皮膚はただれている。
 沈黙を真っ先に切り裂いたのはススキノだった。
「ニジェールみたいな痕だね!」
「……ニジェール?」
 メッシーが怪訝な顔をする。
「なに、それ」
 ついで私が尋ねる。
「国。西アフリカの」
 再び沈黙が訪れた。私とメッシーの目があった。なにいってんだこいつ、というような視線。私は小さくうなずいた。
 その間、ススキノはスマホを操作していた。
「これ、ニジェール!」
 確かにニジェールの地図は、さくちゃんの傷とよく似ていた。
 何が聞こえた。前を向くと、さくちゃんが笑っていた。
「……こういう状況って、もっとシリアスなものだと思ってた」
「さくらちゃんは、シリアスにしたほうがよかったの?」
「全然。……正直にいうと、もう少しシリアスだったほうがよかったかもしれないけど、これはこれで最高」
「最初は慣れないけど、慣れるくらい会おう」
 私がいった。
「賛成」
 メッシーが同意した。
「……その、これでも写真撮っていい? 今なら撮れる気がするんだ」
「いいよ、撮ろっか」
 四枚目の集合写真は、さくちゃんがマスクを外していること以外は、さっきと変わらなかった。
「プリクラだったらうちら最高って書いてたよ、私」
 さくちゃんが笑っていった。



 少しして「めっちゃ眠いから寝るね!」と、ススキノは眠りだした。
 こんな気温で風邪を引かないだろうかと心配していると、メッシーが上着をかけてやっていた。
「メッシー寒くないの?」
「酒飲むと体熱くなるタイプなんだよね」
「仮病するとき楽だね」
「実際に熱くなるわけじゃないから。……ススキノってあれ、天然なの?」
 さくちゃんがもうひとつのカシスオレンジを飲みながら、ススキノを指差す。
「あれが天然じゃなかったら、怖い」
 メッシーが肩をすくめた。
「怖い、そうだね。怖い」
 私が首肯する。
 ススキノの一言が、空気をがらりと変えてしまった。計算してやっているのだとしたら、ススキノには私たちを操ることなんて容易だということになる。
「まあ、わざとだったとしても、ススキノはススキノだ」
「それに、このタヌキみたいな寝姿は、計算じゃできないでしょ」
 鼻ぢょうちんでも膨らませていそうな、幸せそうな寝顔だった。



 解散は、師走のように慌ただしい。
「久しぶりに完徹したわー、楽しかった」
 とメッシーがいった。あのあとコンビニにいって追加の酒を買ってきていたくせに、血色がいい。ザルにもほどがある。
 そんなことをいうと、メッシーはひょうひょうとしていった。
「年取ってから肝臓が弱くなって」
「年取ってからって。私たちまだ少女でしょ」
 私がいった。
「それはさすがに、ずうずうしいわ」
「定義次第でまだ少女なんだけど」
「定義次第ではサルもヒトだけどね」
 さくちゃんが鋭くつっこんだ。
「まあ、大人になりきれてないって意味なら少女かもね」
 ススキノがいう。ススキノも後には引いていないようで、二日酔いだったのは私だけだった。
「深いこといってるようでまったく深くないな」
 メッシーが肩をすくめた。
「じゃあ、新幹線コンビで仲良くねー」
「新幹線コンビ?」
 さくちゃんが不思議そうな顔をしている。私が補足した。
「さくらって新幹線があるんだよ」
 メッシーは、これからバンドメンバーと会うのだそうだ。
 ススキノは一二時からバイト。
 みんなが各々の居場所にもどっていく。残されたのは私とさくちゃんだった。時間に余裕のある私は、一人暮らししているさくちゃんのアパートにお泊りする予定だった。
「……望実ちゃん、ありがとう。今回、みんなを呼んでくれて。手紙も」
 初めて降りる駅で降りて、さくちゃんのアパートに行く途中。さくちゃんが切り出した。
「みんなさくちゃんのことが好きだから集まったんだよ」
「望実ちゃんも?」
「やだ、いわせないでよ。これから好きな人の家に転がり込むってのでワクワクしてるんだから」
「そういう好きなの?」
 さくちゃんが笑う。
 そういう好きだよ、と私は思う。でも、それをいうにはまだ早すぎる気がした。そして私に、そんなことをいう資格があるのかとも。
 さくちゃんの事件で、悲しむ一方で喜ぶ私もいた。
 これでさくちゃんがモテなくなればいいと、思ってしまったのだ。
 私が、私だけがさくちゃんを独り占めできたらと。
 さくちゃんのアパートについて、しばらく話して、昼になった。
 ふと、ススキノの言葉を思い出した。
「新幹線コンビで仲良くねー」
 私は確信に近いなにかを抱きながら、ススキノにLINEを送った。
 一二時六分。既読は、すぐについた。
 ……なんだ、わかってたのか。
 そう思うと心が軽くなった。わかったうえで、受け入れてくれている。
 私は親友に恵まれたと思う。
 それから。
 親友でなくなるかもしれない人に、私は、言葉を紡ぐ。
 今までつけていた仮面を外して。



(おしまい)


 
■簡易解説
《問題》
 物騒な空気がただよう時代。
 平穏を取り戻したかった少女は、マスクを外すことにした。
 どういうこと?

《答え》
 口元を火傷した少女は、物騒な時代、親友に今まで通りの関係を求めるためにマスクを外した。

《別解》
 少女は物騒な時代、これから平穏な生活を送るために、今までかぶっていた偽りの仮面を外すことにした。

■わかりにくい要素の回収状況
⑪1/2の確率
 →「天気予報の降水確率五〇パーセントは八〇パーセントと読みかえてもいい」
⑮なかなか始まらない
 →朝は緩慢で、こーーく、いっこーーーく、とのんびりと、かと思うとコクッと素早く束の時間に近づいていくのだった。 [編集済]

No.28[リンギ]03月23日 14:0503月29日 00:25

桜の木の下には平穏が埋まっている。

エントリーNo.6 [良い質問]

No.29[リンギ]03月23日 14:0603月29日 00:25

【簡易解説】
集合写真に写る木に似た桜の木の下に大事な物を埋めた少女。そのことが原因で家庭内は物騒な状態に。マスクで顔を隠して少し危ない場所に立っている桜の元へ向かい、家の平穏を取り戻すためマスクを外し、真剣な面持ちで桜の木の下に埋めた大事な物を掘り起こした。


【解説っていうか小説】


「…なにしてるんですか?」


感情の感じられない冷えた声に、話しかけられた相手は弾かれたように顔を上げた。

…謎のマスクをかぶった子供だった。
風邪をひいたときにつけるマスクではなく、プロレスに使うような顔全体を覆うタイプのマスク。顔全体を怪しく隠しながらも服はピンクのワンピース。
あまりにミスマッチすぎて悪目立ちしており、本来あまり積極的に人に関わろうとしない少年も、さすがに声を掛けざるを得なかった。

「ここは危ないですよ。子供は早く帰った方がよろしいかと」
「子ども扱いしないで!わたしはもうりっぱなレディよ!」
「…レディはそんな怪しいマスクは着けません。それ以前にここはレディが来るところでもありません。早々にお帰りください」
「マスクですって!?ナンセンスね!【①仮面】といいなさい!仮面と!」

何だこの子。
改めてこの子供をよく観察してみる。

…やはり、いいところのお嬢様のようだ。
仕立てのいい洋服とカバンに、この気ぐらいの高さ。間違いない。
それならなおさら、不思議だ。

そんなお嬢様が、いったいなぜこんなところに?
そのことを聞こうとして、

少年は目を細めた。

「…ここは危険だと言ってるでしょう。死にますよ」
「はぁ?死ぬなんて、そんな、怖がらせようとしたってダメよ!わたし、おばけだってへっちゃらなんだから!」
「おばけ…のほうが、マシじゃないですかね」
「え、」

少女の声はその場に置き去りにされ、その声を潰すような勢いで男が落ちてきた。
少女は気づけば少年の小脇に抱えられている。

少年は涼しい顔で男から少女を抱えて距離を取ったのだ。

地面に覆いかぶさった男はのっそりと身体を起こしながら口を開く。

「…おい、なんで『同類殺し』が一緒にいるんだ?聞いてねぇぞ」
「おかしいなぁ。そんな情報聞いてないんだけどなぁ」
「なんだっていい。おい、とりあえずその子供を寄越しな、『同類殺し』。そいつがいねーと俺らの計画が【⑮なかなか始まらない】んだ」

少女のいた場所の男とは別に、2人の男がそれぞれ出てきた。
3人。囲まれている。

「え…!?わたし…?」
「…きみ、そのマスク意味なかったんじゃないですか?」
「か、仮面だっていってるでしょ!?」
「譲りませんね…。まぁ、俺は無関係なのでこの子を引き渡しても構わないんですが」
「え!?」

そういいながらも、少年は少女を放す気配がない。
ちらり、と少年は少女の少し開いたカバンの中を見る。

【⑩膨張したペットボトル】が見え、うっすら口を綻ばせた。

「関係ないならさぁ、その子渡してくれるぅ?」

へらへらした顔を張り付けた男がこちらに近づいてくる。
少女の身体が強張った。

「けど、すいませんね。俺は目の前で子供に死なれるのが嫌いなんです」

少年はカバンからそのペットボトルを抜き取り、シャカシャカと振り始めた。
「あっ、それ!」
「別に殺すとは言ってないだろ!」
「殺し屋『三兄弟』が何言ってるんですかね。まぁ、この子に最初に会ったのがあなた方ではなく、俺だったことを嘆いてください」

そういうと少年は持っていたペットボトルを真上に投げた。
これ以上ないくらいにパンパンになったボトル。

「口、閉じていてくださいね。舌噛みますよ」
「ふぇ…えぇ!?」

ペットボトルは突然弾け、中に入っていた液体が盛大に降り注いだ。

「うわぁ!?なんだぁ!?」
「爆弾か!?チクショウ!」
「うぉお!」

【④顔に液体がかかり】、爆発物だと思った男は慌てて液体を拭う。が、すぐに己の勘違いに気づいた。

甘い。
これは…サイダーか?

「してやられたな」

別の男が忌々しげに零す。
この場には破裂したペットボトルと降り注いだサイダーのシミだけ。

『同類殺し』と少女は消えていた。







ふぅ、と息のこぼれる音が聞こえる。

あの場からそこそこ離れた別の路地。
無事あの場から男たちをまいたことを確認した少年は、抱えていた少女をおろそうとするが、当の本人は腰が抜けたのか少年の腕にしがみつき、自力で立てないでいた。

「あの、自分で立ってくれます?」
「な、なん…あれ…どうし…わた、わたし…なんでぇ…?」

どうやら自分の持ってきたペットボトルが破裂したことが信じられず混乱しているようだ。
ジュースを持ってきたはずなのに、と。

「…ペットボトルには種類があるんですよ」
「え?」
「きみ、もともと入っていたボトルからあのボトルに移し替えたでしょう。だから破裂したんです」
「も、持ち運びやすいようにってたしかに移しかえたけど…でも、どうして?」
「ペットボトルには炭酸用と非炭酸用があります。他にもあるんですが、とりあえずこの2種類。そして非炭酸用ペットボトルに炭酸を入れると膨張するんです」
「ぼーちょー…?」
「…膨らむ、って意味です。その状態でも充分危険なんですが、振るとさらに膨張するので、結果あぁやって破裂したんですよ」
「へぇ…」

感心したと言わんばかりに視線を送る少女だが、マスク姿なのでシュールな絵面だ。

「帰ったらペットボトルを見比べるのも勉強でしょう。さぁ、家まで送りますので場所を…」
「ダメ!」

突然の大声に面を食らう。

「ダメ、ダメなの。このままじゃ帰れないの…!」
「だとしても、家出先をここにするのはやめた方がいいです。さっきみたいな輩がわんさかいますよ」
「家出じゃない!」

叫ぶように家出を否定した少女は、ワンピースのポケットからなにかを取り出した。
すこしくしゃくしゃになった写真のようだ。

「わたし、こんな感じの桜をさがしてるの!見つけてからじゃないと、帰っても意味がないの!」

その写真をのぞき込む。
それは【⑤桜の写った集合写真】だった。
満開の桜と、家族と思しき集合写真。

(…あ)

「わたし、これに似た桜の木の下に大事なものを隠したの。それをとりだして帰らないと、パパとママが仲直りできないの…」
「隠したって…いつの話ですか?」
「えっと…先週…昼にきて、あの桜をみつけて、その根元にうめたの…。取りにきたんだけど、暗くて道わかんなくなっちゃって…」
「え、ここに前にも来たんですか…!?昼間とは言えよく無事でしたね」
「なにが?」
「いえ、なんでも…。埋めたのは分かりましたが、わざわざ自分で来なくても人にお願いすればよかったのでは?何度も言いますがここは危険なんですよ」
「だ、だってそのことは【⑬わたししか知らない秘密】なんだもん…」
「そうですか。では、それを回収出来たら、おとなしく帰ってくれますか?」
「う、うん!」

はぁ、と深めのため息をついて、少年は続けた。

「…その、写真に似た桜。覚えがあります。場所も知ってます。案内しても構いませんが、いかがでしょう」
「ほ、本当!?おねがいするわ!」
「よろしい。…で、なにをしてくれますか?」
「え?」
「俺はきみをその桜の元まで安全に連れていくことを約束します。きみは俺に、なにを約束してくれますか?」

試すように少年の目が細くなる。
少女は困ったように逡巡し、そして、意を決したように、言った。

「うたってあげる!!」
「…はい?」
「あ!なにその顔!歌だけじゃたりないっていうの!?じゃ、じゃあおどりもつけてあげる!これでどう!?」
「……ふっ」
「あー!?なんで笑うの!?」

少年は我慢できず吹き出し、顔をそらした。
それに少女はぷんすかと怒りを表す。

「ば、バカにしないでよ!うたもおどりも得意なんだから!」
「へ、へぇ、でもそれって、子供が【⑧みんなで一緒になって踊る】お遊戯みたいなものでしょう?そうやって【⑦歌って】躍ってくれるんですか、へぇえ…!」
「ちがうもん!おどるのはバレエだもん!お遊戯じゃないもん!」
「くく…っ、いや、失礼。それでいいですよ」

おかしさを抑えきれない顔で、楽しみにしてますね、と言った。

こうして、少女と少年――もとい殺人鬼の、奇妙なコンビが結成された。






桜の木までの道中、少年は事情を詳しく聞いた。

少女の名前はナナコであること。
桜の木の下に埋めたのは、なんと家宝ともいえる指輪であること。
彼女はそのことを知らず、指輪を持ち出してしまったこと。
それが原因で両親が一触即発であること、…など。

「そういえば、聞きましたよ。あの名家亀尾家の夫妻が離婚寸前で抗争が起きかけてる、みたいな話。…もしかしてそれですか?」
「う、うん…わたしそんな大事なものだってこと知らなくて…。だから指輪さえ返ってくればパパもママもきっと仲直りしてくれる…!」

罪悪感と後悔で今にも泣きそうになる少女。
少年はとくに慰めることもなく続けた。

「まぁ、ご両親が仲直りする前にナナコ嬢が謝らねばなりませんね」
「う、わ、わかってるもん!」

なんてやり取りをしつつ、少年は思考にふける。

…ナナコ嬢はまだ小さいのでわかってないようだが、亀尾家といえば半ヤクザ化している危ない名家だ。子供は1人、彼女しかいない。

仮に亀尾夫妻が離婚したとして、彼女が父親と母親、どちらにつくか。

つまり両親は【⑪1/2の確率】でナナコ嬢を手に入れ、同じ確率で手放すことになる。

一触即発の状態で停滞しているのは、ナナコ嬢の存在が大きい。
夫妻の確執の原因が指輪だけかまでは分からないが、それを願うほかない。

亀尾家の身内抗争などに巻き込まれるのはごめんだったが、あの殺し屋『三兄弟』が彼女を狙っていたことを考えるとそうも言ってられないかもしれない。

深い思考から現実に戻り、道案内しながら周りを警戒する。

【⑨時計の針は滞りなく進み続けた】。

『三兄弟』の襲撃もなく、2人はついに件の桜の元にたどり着いた。
時期が過ぎ、あのときほどの迫力ある美しさはもうないが、その荘厳ともいえる立ち姿は以前と変わりない。

「そう!ここ!ここだわ!」
「満開の時期なら本当に【②綺麗だった】んですが…。さすがにもう枝や葉が目立ちますね」

ナナコ嬢は駆け足で木の根元まで行き、注意深く地面を観察し始めた。
その様子を少年も注意深く見ていた。

…場所によっては、止めに入らねばならないからだ。

しかし、少女がこのあたりだった!としゃがんだ場所は、少年の危惧していた場所ではなかった。

「たしかこのあたりに埋めたはず…」
「そうですか。安心しました」
「え?」
「あ、いえ、こちらの話です。それより、あたりを付けたなら早く回収してください。見張ってますので」
「えぇ!?わたしが掘るの!?」
「何言ってるんですか。探してるのはきみでしょう。俺は連れていくとは言いましたが、掘り出してやるとは言ってません」
「うっ…。ま、まぁ、そうよね。わたしが、やらなきゃ…!」

自分の軽率な行動のせいで物騒になってしまった家。
【平穏を取り戻したかった少女は、マスクを外すことにした。】

まとめて収納していた長めの髪が解放され、その顔もあらわになる。
美しい少女だった。

それを少年は意外そうな顔で見ていた。

「…よろしいのですか?それ、取ってしまっても」
「いいの。こんなのつけて掘ってられないわ!汗もかいちゃうし、わたしはしんけんなの!いいからアンタは見はってて!!」


「…分かりました。見張って、危機があれば排除します。そのかわり、ナナコ嬢は後ろでなにが聞こえても、こちらを見てはいけません。目的のものを回収することに、全力を注いでください」
「…わかったわ。じょーとーよ」

少年の背後でざく、ざく、と土を掘る音が聞こえる。
ちらりとだけ様子を見ると、熊手を持っていた。目的のために自分で用意していたようだ。

視線を戻すと、そこには。


「よぉ。また会ったな。『同類殺し』」
「案内おつかれちゃ~ん」
「このまま引き渡しで構わないな?」

あの『三兄弟』がいた。

「…来ると思ってましたよ。つけていたでしょう。なかなか襲撃してこないと思えば…さすが金にがめついことで有名な『三兄弟』。強欲でいらっしゃる」

「いやーだってあの亀尾家の娘と家宝の指輪だよぉ?カモネギじゃんねぇ!」
「セットで手に入れれば予定より莫大な金が転がり込む」
「引き下がった方がいいんじゃねぇか?こちとら本来は殺し屋で、3人いるんだぜ?やめとけよ」

じりじりと近づいてくる『三兄弟』を、少年は笑った。
少女と接していたときとは全く別の、異常者の笑顔。

「はは…。『殺し屋』で『3人もいる』?笑わせないでください。俺とあなた方は違います」
「なんだと?」

得物のサバイバルナイフを突きつけ、少年は嗤った。


「金目的で動く殺し屋が、殺し目的で動く殺人鬼に、勝てるとお思いで?」










「…あ、あった、あったぁ!!」

一生懸命掘り出すこと体感10分ほど。少女はようやく目的のものを取り出すことに成功した。
平穏な未来が一気に現実味を帯び、少女は思わず【⑥涙を流した】。
これで、これでパパとママは…!

ビロードの指輪のケース。汚れないようにビニール袋に入れておいてよかった。

「ありましたか?」

後ろから話しかけられ、うん!と嬉しそうに振り返った少女は、そのまま固まってしまった。

「…あぁ、すいませんね。さすがに無血勝利というわけにはいきませんでした。でもまぁあの男たちは退けましたのでご安心を」

後ろから物騒な音が聞こえてはいたが、約束を思い出し、聞こえないふりをして必死になっていた。

まさか、こんなことになってまで守ってくれていたなんて。

「ねぇ、ちょっとかがんで」
「? なんです………か」

少年が少女と目線が合うくらいになったところで、不意打ち。
少年の頬に柔らかな感触が生まれた。

「ふふ、【③わたしなりのささやかなプレゼント】よ!ありがたくうけとるのね!」
「……レディは誰かれ構わずキスなんてしませんよ、ナナコ嬢」
「あら、【⑭「私の国では挨拶みたいなもの」】ってママが言ってたわ。おおげさよ!」

少女の顔をよく見ると、たしかに異国の血が流れているのが分かった。
いや、でも、だからって…。

少女は大事そうにケースを握りしめながら、目を閉じた。

「これで、きっと、パパもママも仲直りしてくれる…平穏がかえってくる…きっ…と…」
「え」

目を閉じて、そのまま身体が崩れ落ちる。
少年は慌てて身体を受け止め、声をかけた。

「ナナコ嬢!?大丈夫ですか!?いきなりなんで…あ、」

すぅ、すぅ、という規則正しい呼吸音。彼女は眠ってしまったらしい。
空を見ればすでに夜明けが近い。
責任感や気力で動いてはいたが、実際【⑫眠くて仕方がなかった】のだろう。

考えてみれば当然だった。

「…お疲れ様でした」

こうなってしまっては家まで送り届けるほかない。
この状態であの家に近づいて大丈夫かな、と若干不安になりながら、少年は少女を抱え、歩き出した。

【終】
[編集済]

No.30[フェルンヴェー]03月23日 17:5403月29日 00:25

『世界のなきがら』

エントリーNo.7 [良い質問]

No.31[フェルンヴェー]03月23日 17:5603月29日 00:25

 むかしむかし あるところに それはそれは心やさしい神様がおりました。
 神様は争いを好まず ひとびとの笑顔がなによりもだいすきでした。
 神様の古い古い記憶では 草木はいきいきと輝き ひとびとは時にはうたい 時にはおどり あちこちに美しい花ばながあふれていました。⑦⑧
 しかし そんな神様がひさしぶりに目をさますと たび重なる戦争と病の流行によって 世界はすっかり荒れはて ひとびとは希望をうしなっていました。
 神様はひどく悲しみ もういちどあのしあわせな日々を とりもどしたいと願ったのです。
 世界を救うためには なにもかもをまっさらな状態からやりなおす必要がありました。
 しかし 神様はしってしまいます。
 たとえなんど 世界がくりかえされても ひとびとは争い 奪いあう運命にあるのだと。
 やさしい神様は たいへん心をいためました。
 けれども くるしむ神様は たったひとつのであいによって 大切なものとはなにかをしることになります。
 神様は 世界をやりなおすことはしませんでした。
 それが この世界にとって 神様にとって いちばんの救いであると わかってしまったのです。
 こうして世界は 心やさしい神様とともに あたたかなおわりをむかえることになりましたとさ。
 めでたし めでたし。

 さて、ここからは、本当のおはなし。
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 頭がズキズキと痛む。自分ではない何かに、無理やり意識だけを詰め込んだかのように目覚めが悪かった。少女は重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。淡くも染みるような光と共に、青々とした草の端が揺れるのが視界に入る。それから飲み込まれそうなほどに濃い、樹木と土の匂い。初めて体を扱うかのように丁寧に上体を起こせば、掌に柔らかな草の感触が伝わる。視線を巡らすも、見えるのは深く煙るように続く木々ばかり。
 ……ここは、何処だろう?
 少し歩けば小さな池があり、少女はふらりとそこに近寄って行った。水面は静まり返って鏡のような光沢を放っている。覗き込めば、不安げな表情をした少女がゆらりとこちらを見つめ返した。額に傷があるようで、そこから血が流れている。頭が痛かった原因はこれだろう。ふと首元で何かがきらりと反射する。
 手を伸ばせば、冷たい金属の感触。シルバーのそれはネックレスだった。細いチェーンの先にドッグタグのようなプレートがぶら下がっている。手持ち無沙汰にそれを弄っていれば、プレートに何か文字が彫られていることに気付く。
「……019…RIA……?」
 名前か何かだろうか。そこまで考えて、少女は信じられないことに気付く。
 ……私は、誰?
 自分が誰なのか。此処はどこなのか。何故こんなところにいるのか。その全ての答えを少女はどこかに失くしてしまっていたのだった。
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 ゴソゴソと人の動く音がする。オスヴィンはぼんやりと意識が浮上するのを感じた。半分夢心地のまま目を開く。現代には珍しい程に綺麗な森であった。感染者の気配もない。葉の間から投げられる色調高い翠色の光が目に眩しい。オスヴィンはそれまでの記憶を手繰り寄せると、勢いよく身体を起こした。ゆっくり休んでる場合などではない。
「っい……」
「あ、良かった、起きた」
 横から掛けられた声に、オスヴィンは咄嗟に身構える。そのまま視線を動かせば、一人の少女が目に入った。少女は安心したように微笑みながら、包帯とテープを片付けている。よく見れば、自分の脚や腕には包帯が巻かれ、手当てが済ませてあった。
「………君が、助けてくれたの?」
「助けたというか、彷徨っていたら倒れている貴方を見つけたから、勝手に手当てしただけなんだけどね」
 倒れていたオスヴィンの隣に投げ出された鞄から包帯が覗いていたため、許可無く使ってしまったと少し申し訳なさそうに少女はそう続けた。
「ありがとう、助かったよ。あ、俺はオスヴィンって言うんだ。君の名前は……って頭から血が出てるじゃないか!」
「え……あ、そういえば」
 血は既に止まってはいたが、そのままにしておくのはよくない。どうにもぼんやりとした反応しか示さない少女を見兼ねて、オスヴィンは包帯とテープを手に取ると少女の怪我を手当てし始めた。
「運悪くならず者の集団に襲われてね。逃げているうちにここに辿り着いたんだけど、君はどうしてここに?名前はなんて言うの?」
 オスヴィンに問われ、少女は戸惑ったように視線を彷徨わせる。
「……私、自分の名前がわからないの」
 だからどうしてここに居るのかもわからないのだと、そう伝える少女の声は自信無さげに小さくなっていく。
「それは…記憶喪失ってこと?」
「多分…あ、でもネックレスについてるプレートに『019RIA』って文字が彫ってあって、これは名前……ではないかな」
 ゼロイチキュー、アールアイエーか…と復唱しつつオスヴィンは包帯を巻き終わる。ありがとう、と少女は表情を緩めてそう伝えた。
「……リア、なんかはどう?」
「リア?」
「そう、君の名前。無いと色々不便じゃないかなって」
「……リア…うん、リアね」
 何度か口の中で呟くと、やがてしっくりきたとでもいうかのように少女は頷く。良い名前だと笑う少女は、どうやら新しい名前を気に入ってくれたようだ。不思議な程に馴染んだその名前をリアは嬉しく思った。
「俺は取り敢えず北を目指そうと思うんだけど、リアも一緒にどう?もしかしたら途中で病院もあるかもしれないし、記憶だって治るかも」
 度重なる世界大戦と突如起きた寄生菌のパンデミックによって、世界の人口は大幅に減少していた。
 略奪を繰り返す野蛮な存在が世にはびこっており、国家軍は隔離地域を守る為だけの冷酷な組織へと成り果てている。隔離地域以外では感染者が彷徨い歩き、場所によっては寄生菌の胞子が蔓延し、ガスマスクが無ければ即座に感染してしまう。
 この世界はとことん弱者に冷たくできている。水も、資源も、食糧も、愛も、平和も、良心も、全てが枯渇していた。
「北の方が汚染が少ないって聞くから、もしかしたら人も多いかもしれない。だとしたら、情報や物がもっと手に入るかなと思って」
 説明を聞いてリアは納得したように頷くと、口を開く。
「もし良ければ一緒に行きたいな。独りだと、やっぱり不安だし」
 その返事を聞いて、オスヴィンは嬉しそうに人懐っこい笑みを浮かべる。
「じゃあ、そうと決まればまずは服だね。そんな格好じゃ流石に寒いでしょ?」
 確かにまだまだ夜も冷えるこの季節に、リアの白いシャツにスキニーパンツという格好は余りにも心許なかった。
「確かにちょっと肌寒いね」
「うん、それじゃまずは森を出よう。それから空き家を見つけて何かないか探そうか」
 この辺りは胞子が無いためガスマスクが無くても安全だが、感染者が彷徨いているかもしれない。それに、本来たった一人でこんなところにいるべきでは無いような少女がいたのだ。何があっても不思議ではない。そう考えて辺りを警戒していたオスヴィンであったが、森を出るまでに、感染者はおろか他の生き物の気配にすら出会うことは無かった。
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「これ良さそう」
 リアは黒のロングコートを手に取って、満足気にそう言った。二人は現在とある民家の中にいた。ここら一帯は軍隊の立ち退きにでもあったのか、慌てて出て行ったような家が多かった。
「いいね、暖かそうだ」
 キッチンを漁っていたオスヴィンが扉の方から顔を出す。
「そっちには何かあった?」
 リアの問いにオスヴィンが含みのある笑みを浮かべた。
「見た方が早いかも」
 そう言って手招きをしてオスヴィンが先程いたところに戻っていく。
「ほら、これ見て。野菜なんて見たの久しぶりだよ」
 大きめの冷蔵庫の中には、消費期限には近いがまだ傷んでいない野菜やウィンナーなどがあり、寄生菌にも感染してないようだ。未開封のペットボトルに入った飲み水も数本置いてあった。
「…凄い、丁度充電式のガスコンロもあるみたいだし、これなら料理できそうだね」
 嬉しそうなリアの言葉にオスヴィンが思わず固まる。
「……リア、料理できるの?」
「え?そりゃあ料理くらいできる…と……思うよ」
「もしかしてリア、料理人だったんじゃない?」
「そこまで上手くはないかな」
 リアはざっくりと消費期限を確認すると、てきぱきと材料を選び、調理器具を取り出す。つまみを回せば、コンロがカチリと音を立て炎が零れる。
「……手作りの料理なんてもう二度と食べれないと思ってた」
「随分と大袈裟じゃない?」
 オスヴィンが思わずそう零せば、笑いを含んだ返事を返される。火が付くことを確認したリアは野菜を切り始めた。
「じゃあ、これから一緒に旅をするオスヴィンに、これは私なりのささやかなプレゼントってことで」③
 リアはどこか上機嫌に料理を進める。閑散とした街の一角に、温かな家庭の音が漏れ始めた。
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 リアの作った料理は絶品であった。オスヴィンは目を輝かせてあっという間に平らげてしまう。そんな様子にリアも嬉しそうであった。
「そんなに喜んで貰えるなんて。また材料があったら作るね」
 まだ出会って少ししか時間は経っていなかったが、オスヴィンはすっかりリアに心を許していた。初めて会ったとは思えない程に二人は打ち解けていたが、その心の変化は不思議なほど自然だった。
 と、それまでにこやかに話していた二人であったが、不意にオスヴィンが黙り込む。
「………オスヴィン?」
「…静かに、人の気配がする。あまり友好的ではなさそうだね」
 オスヴィンの手が静かにホルスターに伸びる。窓の外をそっと伺うと、武装した者が二、三人、身を隠しつつこちらに近付いてくる。
「…タイミングを見て、裏のドアから外に出よう」
 一体彼らがこちらに何の用があるのかは分からないが、こちらは向こうに用は無い。争いになる前にここから移動した方が良さそうだ。素早く裏の勝手口の方に移動すると、オスヴィンが周囲を確認しながらゆっくりとドアを開けて外に出る。
「少し走るよ」
 敵を撒くために、周囲を警戒しながら駆け出した。その直後、パシュンッという音と共に地面に穴が空く。
「動くな!」
 どうやら回り道されていたようだ。見知らぬ男が電柱の後ろから、銃口をこちらに向けて近付いてくる。
「お前らの他に仲間はいないな」
「…いないよ、俺とこの子の二人だけ」
「……まぁいい。俺たちが用があるのはお前だけだ」
 そう言って男が視線を向けたのはリアの方であった。
「え、私?」
「そうだ、大人しく着いて来い」
 太い腕がリアに伸びる。大人しく見守っていたオスヴィンであったが、男のその動きに反応する。オスヴィンは素早い動きで相手の銃を蹴り上げ、次の瞬間には相手の間合いに入り、男のことを難なく気絶させてしまう。
「よし、リア、このまま走って……」
「オスヴィン!後ろ!」
 リアが声を上げる。驚いて振り返るオスヴィンよりも早く、リアは何かを思い切り投げつける。オスヴィンが戦っている間に正面から来ていた敵が追いついていたのだ。リアが投げたそれは相手の近くに落下すると大きな音を立てて爆発する。
 その隙にリアとオスヴィンは走り出し、今度こそ敵を撒くことに成功したのだった。
 --------------------
「リア!さっきのは一体なに!?爆弾なんて持ってたの?」
 息が整うとオスヴィンが興奮気味に尋ねる。
 リアはまだ肩で息をしていたが、途切れ途切れに答えた。
「……さっき…のは、ペットボトル爆弾……ていうの…」
 料理を作っていた際に、お酢と重曹を見つけたのだという。なにより重要なのはペットボトルが手に入ったことだった。そこで、いざという時のためにこっそり作っておいたらしい。⑩
「でも、こんなに早く使うことになるとは思ってなかったよ」
 そう言うと、リアは何かを考えるように神妙な顔付きで黙り込む。
「それにしてもさっきの奴らは何だったんだろうね。リアだけに用があるって、ただのごろつきとは違うみたいだ」
 だが、彼らが正式な軍人だとは思えない。軍人にしては追い込み方が雑であり、気配の消し方もなっていなかった。だとしたら何者かに雇われた一般人と考えるのが妥当か。
「取り敢えず今日は夜が越せそうなところを探そう」
 じんわりと赤らみ始めた空を見上げ、オスヴィンは黙り込むリアを気遣うように優しく声を掛けた。
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 なんとか安全な休息場所を確保することができたオスヴィンが目を覚ましたのは、眠りについてから約四時間後のことであった。
 二人が休んでいる部屋にはベランダが付いており、そこから外を一望できるようになっている。窓が開いており、揺れるカーテンの向こうにリアの後ろ姿が見える。
「眠れないの?」
 リアが驚いた顔でこちらを振り返る。
「ごめんね、起こしちゃったみたい」
「ううん、そういうんじゃないよ」
 冬には珍しい、冷たくも優しい風が頬を撫でる。溶けるような沈黙に、リアがぽつりと言葉を落とした。
「……オスヴィンは、なんで一人だったの?」
 独り言でも言うかのように出されたその声は、きっとリアの中に潜む先の見えないような不安が言わせたのだろう。濃紺の深みある夜が、二人だけの時間をしっとりと染めていく。
「……最初は一人じゃ無かったよ。……俺、元軍人なんだけどさ、親友みたいな、まぁ所謂相棒って呼べる奴がいたんだ」
 そいつには目に入れても痛くないってくらい可愛い娘がいて、それはもううんざりするくらい自慢するんだよ。娘想いの良い父親だけどね。何故か隠れた名店のようなものを見つけるのが上手くて、よく一緒に色々呑み歩いたな。下らない罰ゲームなんかもして。恋人は作らないのかって口煩い母親かよってくらい色んな女性を紹介されてうざかったなあ。でも凄く芯の通った良い奴で……。
 楽しそうに話していたオスヴィンだったが、相棒と呼べるその友人は目の前で撃たれて死んだのだと、そう言って話を纏めると、その温厚な目をそっと伏せてしまう。あれほど心を通じ合わせた彼にすら、最期はこんなにもあっけなく置いていかれるのかと。他にも何人もの仲間を失い、オスヴィンはそれを機に軍を去ったのだった。
「戦場ではよくある話だよ。珍しい事なんかじゃない」
 微かに微笑むその瞳には、拭いきれない悲しみが滲んでいた。
「珍しい話では無いけれど、やっぱり個人にとっては辛いものだから。二度と思い出したくないという人だっているだろうけどね」
「……オスヴィンは?」
 自分の軽々しい質問で嫌なことを思い出させてしまったのではないかと、血の気の引くような思いで固まるリアに、オスヴィンは優しい目を向ける。
「確かに思い出すと辛い面もあるけど、それだけじゃないさ。あいつが俺に残してくれたのは悲しみだけじゃない」
 人を失う苦しみというのはどれ程のものなのだろうか。過去というものをすっかり失ったリアには推し量ることすら難しいのかもしれない。心の傷がいつどの様に癒えていくのかは曖昧だ。その傷を負った瞬間に比べれば、決して劇的でも何でもない。それでも時計の針は進み続け、月日は傷口を洗い、痛みは薄れていく。⑨
 自分のことでは無いのに、まるで今この瞬間目の前で大切な人を撃ち抜かれたとでもいうかの様に、リアは酷く悲しげな顔で、心配してこちらを見つめている。深く傷付くその瞳を、人を思いやれるその優しさを、オスヴィンは綺麗だと思った。②
「さて、流石にもう寝ようか。明日眠くて仕方がないなんてなったら困るからね」⑫
 睡眠をとらないと人の動きというのは鈍くなるものだ。たとえ一時間であっても休息は取るべきだと、オスヴィンがそう言葉を繋いだ。カーテンが風に吹かれてふわりと膨らみ、二人を部屋の中へと優しく誘った。
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「胞子だ」
 オスヴィンの言葉に反応して、リアはガスマスクを顔に装着する。それを確認して、オスヴィンは足を進めた。
 壊れかけた家屋の中は、胞子が舞っており視界が悪い。薄暗い中ライトで照らされた空間には、古ぼけて割れた机や、埃まみれの棚が置いてある。通り過ぎるだけの予定だったが、役に立つものがないか、念の為ざっくりとは目を通していく。
 棚を調べに行ったオスヴィンを見送って、同じように部屋を物色していたリアは、気になるものを見つけて拾い上げた。机の上に無造作に置かれていたそれは、一枚の古びた写真だ。桜の写った集合写真のようなもので、白衣を着た研究員のような人達が大きな白い建物の前で並んでいる。⑤
 研究所か何かだろうか。しかし、研究員らしき人々が身に纏う白衣にも、背後の建物にも、何のロゴも無ければ印字もなく、彼らが一体どういう団体なのかは少しもわからない。少女はそれらに不思議な見覚えを感じた。けれどもその正体が何なのか思い出そうとすると、激しい頭痛に襲われてしまう。結局何も思い出すことはできずに、リアは諦めたように写真をそっと戻したのだった。
 部屋の隅に寄生菌が凝り固まったものがあるので、胞子が舞っているのはそれの影響だ。寄生菌は人間に寄生する。つまりあれは、元々は人間だったのだ。地面に放り出された青白い指先が、不気味な形に膨らんだ菌から覗いていた。リアは思わず目を逸らすようにして部屋を去った。
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 汚染されたエリアを抜け、二人は誰もいない道を進んでいた。既に日は西に傾いている。相変わらず街に人気はない。いつも通り二人は空き家に入って、色々と物色していた。
 丁度リアが二番目の引き出しを開けた時だった。突然オスヴィンは身構えると、ホルスターから銃を引き抜く。
「……囲まれている」
「え?」
 全く気付かなかった。敵の数も前回とは比べ物にならない。なんとか隙をついて脱出できるか。勝率は二分の一……いや、それ以下かもしれない。⑪
 相手もこちらが気付いたことが分かったのだろう。準備する間も無く、ドアが蹴破られ、顔を隠す特殊な仮面を被った集団が部屋に雪崩れ込んできた。①
 反射的にリアのことを背中に庇って銃を構えるが、完全に囲まれた今、流石に他勢に無勢すぎた。迂闊に動くことはできない。
「そんなに身構えなくても大丈夫さ」
 仮面の集団の間をカツカツと近寄って来た男は、緊張したこの空間に不釣り合いな不気味な笑みをたたえていた。
「お前らは一体何者なんだ」
「あいにく君には用が無いんだ」
 オスヴィンが憎々しげに言うが、男は全く取り合わない。
「銃を下ろして後ろの少女を差し出しなさい。……でないと君は一瞬のうちにこの世とおさらばすることになる」
 男の言葉と共に銃口が一斉にオスヴィンの頭を向く。
「な……!やめて!」
 堪らずリアが声を上げる。
「大人しく一緒に来なさい」
「リア!だめだ!」
 その瞬間、乾いた音が耳を裂く。リアの顔に熱い赤がはねた。④
 オスヴィンの腕からぼたぼたと血が落ちて、床に真っ赤な花が咲く。
「オスヴィン!」
 殆ど悲鳴のようなリアの声が響く。
「私の国では今のは挨拶みたいなものさ、……次は頭だ、無駄な抵抗はよした方がいい」⑭
 腕を押さえて呻くオスヴィンを庇うようにリアが前に出る。
「貴方達の言う通りにする……だからお願い彼には手を出さないで」
「仕方ない、君に免じて彼には手を出さないよ」
 そう答えた男が手を上げて指示を出すと、あっという間にリアとオスヴィンは拘束されてしまう。
「貴方達は一体なんなの、なんで私なの」
「報告通り本当に忘れているんだね。まぁ向こうに着けばそれも全て分かることになるだろう」
 リアがきつく男を睨み付ける。男はそれを薄っぺらい笑みで受け止めた。
「君はこの世界を救う神なんだ」
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[編集済]

No.32[フェルンヴェー]03月23日 17:5603月29日 00:25

オリジナルの君が使い物にならなくなって本当に大変だった。万が一の時のために取っておいたDNA情報を元に何体もクローンを作ったが中々成功しなくてね。やっとできたと思ったら、研究所を抜け出してしまうのだから困ったものだ。おまけに記憶喪失になるなんて……。本末転倒もいいところだよ。
 どちらにせよ世界が滅亡する前に間に合って良かった。今さっき君に接続したこの機械は『再生の神』というもので、これによってもう一度全ての生命体を作り直す。真っ新な状態からやり直すことで環境を整えるのさ。この『再生の神』を起動させるには人間の脳が丸々一つ分必要でね。初期の『再生の神』はもっと大人数の脳が必要だったんだが、適性の高い人間をそれだけの人数準備するのが困難でね。あとはまあ技術の進歩さ。
 君はこの『再生の神』の部品の一つになるのだと考えていいだろう。
 この世界はもう何度目の世界なんだろうね。少なくとも『再生の神』は過去に三回起動されている。それくらいこの『再生の神』は上手く作動していた。
 が、しかし一つ問題が生じた。君のオリジナルが世界を再生する際に誤った生命体を生み出してしまってね。それが今蔓延している寄生菌なのだが。
 不具合の原因は精神状態の異常にあると調査結果が出ている。だから君はオリジナルの君がこの『再生の神』を操作する人物としての適性が最も高かった時期を目安に作られたんだ。この適性ってものが非常に難しくてね。特に精神状態は、再生の正確さに大きな影響を及ぼすんだ。
 男がぺらぺらと話すのを、リアは複雑な機械に繋がれたまま聞いていた。よくもそんな長々と話していられるものだ。しかし、男の話す内容は、リアにとってはどれも実感が湧かないものばかりだった。
「019-RIA、起きているかい?」
 男に声を掛けられ、彼女はゆっくりと目を開ける。リアが連れてこられた場所は、かつて感染地域で見つけた写真に写っていた研究所のような建物に酷似していた。もしかしたら、あの家の持ち主は、ここの研究員の一人だったのかもしれない。
「もうすぐ君の出番だよ。あと少しで世界は綺麗に焼き払われる。鎮火されたら、君の出番だ」
 説明を耳にした彼女は顔を顰めた。
「……わざわざ焼く必要はないんじゃないかしら」
「今のままじゃせっかく君が生命体を作り直したって、彼らも感染して終わりさ。だから一旦地上をなんとかしないとね」
 そう言うと男はパソコンを弄っていた手を止めて、こちらに歩いてくる。
「それじゃあ、よろしく頼んだよ。『再生の神』よ」
 男の手によってリアの顔部分に機械の一部であるマスクが装着された。しかし、『再生の神』の一部分と化したその瞬間、驚くべきことが起こる。走馬灯のように、リアが失っていた膨大な記憶と感情が流れ込んできたのだ。それは、神として過ごした数千年分の記憶だった。だが、おかしい。男は適性が高い時期を目安に作ったと言っていたのに、これは本当に私の記憶なのだろうか。
 叩き起こされる度に地獄のような世界の終わりを見て、マニュアル通りに生命を再生する。起動する職員とも多くを話すことはなく、少女は長い間孤独であった。どんなに丁寧に世界を作り直し、新たな命を生み出しても、どうせ全て壊されるのだ。少女の心は疲れ切っていた。
 世界を救って、眠りについて。また次に目を覚ます時には、創り出したものは全て無くなっており、また絶望的な終わりを見届けるしかない。
 男は少女が全ての記憶を取り戻したことには気付いていない。少女がもう神として相応しくないということは、彼女以外の誰も知らないのだ。⑬
 男はまた機械をいじったり、パソコンを操作したりしている。どうやら他の職員との連携が上手くいかないようで、『再生の神』のメンテナンスに時間が掛かっているようだ。本来はもう既に起動している予定であったが、世界の再生は中々始まらない。⑮
 にしてもおかしい。何故こんなにも連絡が繋がらないのか。男が苛立ったように舌打ちする。その直後であった。
「動くな!」
 突如部屋に飛び込んできた男が、声を張り上げる。オスヴィンであった。オスヴィンは肩で大きく息をしており、遠目で見てもあちこちを怪我しているのが分かる。
 一瞬の内に膨大な記憶と辛い感情を思い出したリアはぐったりとしていた。
「………リア…」
 オスヴィンは、今まで見たことないようなリアの虚な目に驚きを隠せない。
「もうすぐ世界が滅亡するとはいっても、こうまで職員どもの警備が緩いとは……まいったな」
 オスヴィンは男の頭に銃の照準を合わせる。
「ここに辿り着けたということは、これから世界がどうなるのかも分かっているだろう。彼女は最後の希望なんだ。邪魔しないでくれ」
「お前は……お前は、何も分かってない。リアは、神なんかじゃない。ただの、一人の、女の子だ。こんなの……こんなの彼女一人を見殺しにするのと同じじゃないか」
 男は銃口を向けられ、微かに指が震えている。どんな人間でも、死とは本能的に怖いものだ。
「そりゃあこんな世界でこれからも生きていく方が辛いのかもしれない。それでも、俺はリアをたった一人で孤独なまま、放っておくことなんてできない」
 言い終わるや否や、オスヴィンの銃から発砲音が響く。あくまで威嚇射撃であったが、男は撃たれたと勘違いしたのだろう。体を震わせて気を失ってしまった。
 オスヴィンは部屋の奥に進む。
「…………どうして」
 酷く掠れた声は、今にも壊れてしまいそうな脆さを纏っていた。
「また、料理作ってくれるって約束したじゃないか。俺、忘れてないからね」
 少女の表情は晴れない。
「私にはこの世界を救う義務がある。これ以上オスヴィンに負担はかけられないよ。……もう会えないと思ってたから、また会えて嬉しかった。オスヴィンには感謝してもしきれないや」
 でも、ごめんね。そう言って少女はゆるりと口角を上げる。無理矢理作られたその笑顔は、余りにも歪で不安定なものだった。
「……負担ならもう十分かけられてる。今更変わらないよ」
 『再生の神』の不具合の原因が少女の精神異常なのだとしたら、彼女はもう限界なのだ。たった独りで、誰にも弱音を吐けずに、たとえ何体クローンを作ったとしても狂っていってしまうに違いない。ぴんと張り詰めるようにして、ぎりぎりに保たれた平衡が今にも壊れるのではないかと、オスヴィンは気が気でなかった。どうしたら、もう一度彼女の笑顔が見れるのだろうか。
「一緒にいこうよ」
 少女の瞳が不安げに揺れる。
「こんな世界捨てちゃおうよ」
 少女の瞳に薄く張っていた透明な膜から、堪えきらないとでもいうかのように、ぽろりと滴が零れ落ちた。⑥
「世界を救うのは本当にリアがやりたいこと?折角創り出した命が何度も壊されて、世界が燃やされるのを繰り返し見ることは、リアの本当の望みなの?」
 オスヴィンは少女に必死に語りかける。
「俺はリアと一緒に生きたいよ。二人でまた旅をしよう。リアと一緒に生きられるなら、それがどんな世界でも構わない。たとえ美しくなくても、ぼろぼろだったとしても、良いじゃないか」
 少女はきつく目を閉じる。
「リアと二人なら世界を裏切るのだって怖くない」
後から後から頬を伝う涙を止める手段を少女は持っていなかった。
「………もう……やだよ。創り出した世界が、壊れていくのを独りで受け入れることしかできないのは、もう………いやだ」
 少女は真っ直ぐにオスヴィンを見詰めて微笑む。今度こそ心からの感情で。
「私は、オスヴィンと一緒にいきたい。独りは、もう嫌だから」
 少女は機械に繋がれたマスクをゆっくりと外す。神の束縛から抜け出した少女が、オスヴィンに駆け寄る。オスヴィンはリアの華奢な肩を優しく抱き締めた。
 建物の外に出れば、太陽の強く優しい光が二人に降り注ぐ。この荒れた土壌に二人はもう一度足を踏み出した。
 愚かな世界の終焉が繰り返されることはもうない。たとえ世界が終わっても、二人の心は生き続けるのだ。永遠に。

孤独を捨てた神を、世界は優しく抱きしめていた。

-完- [編集済]

No.33[フェルンヴェー]03月23日 17:5703月29日 00:25

【簡易解説】
度重なる戦争と寄生菌のパンデミックによって人口が激減し、荒廃した世界。"再生の神"として何度も世界を救ってきた少女であったが、ある日一人の男と出会い、束の間の平穏を手に入れることとなる。"再生の神"の機械に繋がれたマスクを外し、世界を救わない代わりに少女は二人だけの平穏を取り戻したいと願った。

No.34[くろだ]03月24日 11:3503月29日 00:25

花の楽園

エントリーNo.8 [良い質問]

No.35[くろだ]03月24日 11:3603月29日 00:25

物騒な空気がただよう時代。先の大戦で世界は荒廃したが、徐々に活気を取り戻しつつあった。そんな中若い男は旅行にでた。それもこれも、婚約していた彼女に突然振られ、せっかく買った結婚指輪も渡せずじまい。仕事をする気にもならずどこかへ放浪でもしてやろうと、そんな投げやりな気持であった折、「いまなら海外旅行当選確率50%!(⑪)」そんなことをうたった(⑦)広告を目にしたからだ。1月後、本当に自宅に送られてきた何枚もの航空券と1週間分の宿泊旅程を見たときはさすがに驚いた。送り返そうにも先方の住所もわからず、広告も回収されてしまったのか、見当たらなかった。

「腰が痛い・・・」
乗継に次ぐ乗継、長時間にわたるフライトの末たどり着いたのはウミガメ国という国。
「聞いたことないしなぁ・・・やっぱりやばい国か?」
まさか当たるわけがないだろうと、怪しさ満点のあんな広告にまんまと応募してしまった自分を、今は呪っている。捨てることもできずにポケットに突っ込んだ結婚指輪を指でいじりながら、空港内をぶらぶらとしていた。空港の国際線エリアは真新しいがほとんど人はおらず、国間の行き来は盛んではないようだ。強い花の芳香がする。
「カメオ様ですか?」
自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、きっちりとスーツを着こなした男が品のよい笑みをたたえてこちらにむかって歩いてくる。年のほどは4,50歳ほど。その洗練された様子からは、身分の高さがうかがわれる。
「そうですが、そちらは?」
「ああ、これは失礼しました。わたくし、この国の観光大臣をやっております、ウミオと申します。ようこそウミガメ国へ。わが国は知名度が非常に低く、こうやって年に何度か海外からお客様をお招きしているのですよ。このような時代ですから、ご応募いただいた方のうちからこちらで調査の上、チケットを贈らせていただいているのです。」
まくしたてるような早口ではないが、こちらに口を挟ませる気はないようだ。そうこうしているうちにいつの間にか高級そうなリムジンにのせられていた。
「まずは歓迎の宴を催しますので、そちらにご出席ください。この国での行動は自由ですが、客人を招いた日に宴を開くのはわが国の挨拶のようなもので(⑭)。ぜひご参加ください。」
移動の連続で眠くて仕方がないが(⑫)、断るのも申し訳ない。群生した茶色い花や山村が車の外を次々と流れていく。ややあって、開けた空間に車が止まった。どうやら宴会会場の庭園についたようだ。100人ほどの人が集まっている。華美な銀食器に、おいしいご飯、地酒、美しい音色を奏でる民族風の楽器。まるで自分がどこかの国の偉いさんになったような歓待ぶりに、カメオも気を良くして、次々とお酒をあおっていく。強い花の香りがあるがこれがどうしてうまい。お酒がまわるころには日も暮れ、みんな踊りだしていた(⑧)。夜が更けると人数は減ったが、舞はますますヒートアップして扇情的な感じさえする。
そんな中ふと美しい少女が目に留まった。整った顔立ちに、長く艶やかな黒髪、暗闇に浮かび上がるほどに白く透き通った素肌。隅に座りペットボトル(⑩)からジュースを飲んでいる彼女に、酔いも手伝ってカメオは話しかけたのだった。
「君は一緒に踊らないのかい?」
まるでナンパじゃないか。
「私はいいんです。」
「僕はカメオといいます。君、君はとても、綺麗な人ですね。失礼でなければお名前を・・」
「ふふ、お上手ね。お兄さん、あなたよその国からいらしたんでしょう?よかったらお話を聞かせて?」
聞き上手な彼女の相槌に、カメオは自分の国の話や、行ったことのある国、ついには振られてしまったことまでも話してしまった。彼女が注いでくれるのでお酒も進む。写真も見せているうちに、去年彼女と友人数名と花見に行ったときにとった桜の写った集合写真(⑤)なんかも出てきて、彼女を思い出す。そういえば彼女と目の前の少女は似ていなくもない。
「きれいな花ね、桜というの?とてもきれい。ここの花とは大違い。あら・・あなた泣いているの?」
いかんいかん、僕は相当酔っている。ごまかすようにカメオは言葉を紡ぐ。
「見たいならいつか連れて行ってあげるよ。君さえよければ。」
「そう、連れて行ってくれるの。いつか。」
少女はそういって悲しそうに笑った。その笑顔は、そのまま夜に溶けてしまうのではと思うほど儚く、この世のものとは思えぬほど綺麗だった(②)。カメオはどうにか彼女をこの世に引き留めておかなくてはという衝動にかられ、無意識にポケットを探した。ふと指に結婚指輪が引っかかる。どうせどこかで捨てるつもりだったのだ。特別なもの、というよりはささやかなプレゼント(③)のつもりで少女に指輪を渡した。まるで彼女のためにしつらえたかのように、彼女の指にダイヤが光る。
「とても楽しい時間を過ごせたから、お礼に。大事な人に渡すはずだったんだけど、君にもらってほしい。」
「私に?こんなきれいなもの、私なんかに・・・。」
「よく似合ってる。指のサイズも同じなんだなぁ。」
「・・・私ね、誰にも言えない秘密があるの。」
その秘密を僕には教えてくれるのだろうか、そんなことを考えているうちに意識はフェードアウトしていった。

自分の腕時計の音がする。コチコチコチ。ぼんやりとする頭で考えるがうまく思い出せない。それでも時計の針は進み続ける(⑨)。ようやく宴の席でのことを思い出した。思い返すとますます彼女がまるで現実味のない存在のように思われる。そういえば名前さえ教えてはもらえなかった。真っ暗な空間、生暖かい風が吹いているから外だろうか。目を凝らすと彫像のようなものが右手にひとつあるが他には花やら何やら以外何もない。どうやら庭園での宴会の最中に眠ってしまい、ほっぽっておかれたらしい。意識がはっきりするにつれて、妙なものに気づく。この国に来てからずっとしていた強い花の香りが一段と濃いのだ。あの彫像のあたりからする。よく見るとたいそう恐ろしげな鬼の彫像だ。また風が吹くと彫像のマントが揺れる。そういえばさきほどより近くにいるのではないか?マントの裾からちらちらと見えるのは刃物ではないか?脳が警鐘を鳴らし始めるが立つこともままならない。そんな様子に鬼が気付いたのか、急に走って接近してきた。取っ組み合いになるが、体にうまく力が入らない。昨日の深酒のせいだ。あっという間に組み敷かれ、鬼はカメオに馬乗りになった。思わず目をつむる。

なかなか刃物は振り下ろされない(⑮)。ふと鬼の指がきらりと光る。
「君はまさか。」
驚いたカメオの声に鬼は突然うろたえはじめる。切っ先はぶれ、今にも刃物を取り落としそうだ。ふと顔に液体がかかる(④)。ぽたりぽたり。仮面(①)の向こうから嗚咽が聞こえてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
涙が流れてとまらない(⑥)。そのまま鬼はカメオの上にへたり込んだ。

「今更だけど名前を教えてよ。」
しばらくそうしているとカメオは尋ねた。名前がわからずないのは何かと不便だ。
「・・・ウミコ。」
そうして少女は堰が切れたように身の上話を始めるのだった。

ウミコは代々巫女の家系であった。しかし彼女には先祖のように豊作や天候を予兆する力はなく、母はそのことを村人には秘密にした(⑬)。彼女に力を取り戻させようと、力を増す儀式と称して様々なことをやらせた。唯一の親族であった母が亡くなってからも儀式は続き過激さを増していった。外部から招いた客人に酒を飲ませては眠らせ、鬼の面をつけた巫女が殺すのもその一環らしい。昔実際に合ったことの再現だとかなんとか。

飛行機から降りたときからしていた強い香りをさせるあの茶色い花。学名はLatte perplexor。生成すると麻薬や媚薬、睡眠薬の類になるらしく、この国の主産業だそうだ。酒にもかなり微弱だがその効果があるらしい。どうりて浴びるように飲ませられたわけだ。あの花は人の血をすするほどに実りをよくするといういわれがあるらしく、殺した人々の遺体処理にも使われていたようだ。また中毒性が高く、一度虜になったものはこの花の香りのないところでは生きていけないという。この土地で生まれ育った者も例外ではない。

もうこんなことはやめたい、何度も泣いてすがったが、土地を出ることすら難しい彼女には端から選択権などなかった。巫女として祭り上げられ、その手で人を殺すことを強要されてきた。血で汚れた手を、体を洗うたびに心が死んで流れていった。そうしなければ平穏を装うことなどできなかった。そんなウミコにはあの写真の桜はひどく美しくうつった。別れた彼女を思う優しげな顔と連れ出してくれるという言葉に心が動いたそうだ。

「もうその仮面を外していいんだ。僕と一緒に桜を見に行こう、ウミコ。」
カメオが抱きしめると、ウミコは返事の代わりにゆっくりと両手を仮面に伸ばす。

平穏をとりもどしたかった少女はマスクを外すことにした。

おわり。
[編集済]

No.36[くろだ]03月24日 11:4303月29日 00:25

簡易解説
村の巫女として、儀式のために仮面付け、人を招いては殺すことを強要されていた少女ウミコ。ある日いけにえとしてやってきたカメオをしかし彼女は殺すことができなかった。彼女はマスクを外し、カメオとともに村を出ることを選んだのだった。

まだまだ投稿受付中ですが、
今回のバッジコインの詳細が決定しましたのでご案内いたします!

シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…5c
投票参加賞……5c

4月5日(日)の結果発表後、順次ミニメでコードをお送りします。
参加人数次第では配布にお時間をいただくかもしれませんがご了承ください。

それでは引き続き『投稿フェーズ』をお楽しみください!
No.37[「マクガフィン」]03月25日 00:1503月29日 00:25

『大切なものは目に見えない』

エントリーNo.9 [良い質問]

No.38[「マクガフィン」]03月25日 00:1603月29日 00:25

少年が独り、誰もいなくなった教室に佇んでいた。
窓の外を眺めれば、猫の欠伸のようにのどかな春の光が、校庭の桜に柔らかく寄り添っていた。
少年の手に握られた一枚の集合写真にも、桜が写り込んでいる。だがその出会いと別れの象徴は、本来写るはずではなかった。
写真全体に広がる生徒達。その間にぽっかりと空いた空隙。
笑顔のクラスメートの中に、彼女の顔は見当たらない。
彼女のいるはずの空間には、代わりにただ桜の花が凛と咲き誇るだけだった。⑤


少年が独り、誰もいなくなった教室に佇んでいた。

[編集済]

No.39[「マクガフィン」]03月25日 00:1603月29日 00:25

ぐすん ぐすん

誰かが泣いている。聞き覚えのある声。

おまえ、なんで仮面なんかしてんのー?①
こんな暑いのにてぶくろまでしちゃってさー

小学生だろうか、やんちゃ盛りの少年たちが、額の汗を拭おうともせずに誰かを取り囲んでいる。

ぐすん ぐすん

炎天下の道端にうずくまったその子は、問いかけに答えるでもなくただ静かに彼らが去るのを待っていた。

おい!なんとかいえよ!
なあ、こいつの仮面とっちゃおうぜ!


「……やめてよ」

こだまする蝉の声、騒ぎ立てる少年達。
小さく呟いただけなのに、そのか細い言葉はやけに鋭利に耳まで届いた。

なんだとー!こいつさからうのか!
とっちゃえとっちゃえ!

ねえやめて、やめてってば!

よっしゃ、とれた!
顔みせてみろよ!

勢いのままに顔を覗き込んだ少年の眼は、しかし何も捉えることはなかった。

う、うわーー!

少年たちが叫び声を上げる。

こ、こいつとうめいにんげんだ!
バケモノだ!にげろ!


カランコロン

彼らの落としていった仮面が、夏の道路にまた別の音を添える。




ぐすん ぐすん

静かに仮面を拾い上げ、その虚無を覆い隠す少女。
真っ白なワンピースを丸めるその背中を見て、辻本小春は思い出す。


あれは、私だ。



・・・
・・・・・
・・・・・・・
ジリリリリリリリ
ジリリリリリリリ


ガチャ


やけに大げさに朝を告げる目覚まし時計を黙らせた小春は、布団の中で寝返りを打つ。
どうにも眠くて仕方がないのも、久しぶりに昔を思い出したからかもしれない。⑫

こはるー!朝だよー!

階下から聞こえる母親の声に、小春はしぶしぶ上体を起こす。カーテンを開けて制服に着替え、髪型を整え………
られないのは今に始まったことではない。

それも当然だ、自分ですら自分のことが見えないのだから。


----------------------

『おはようございます、朝のニュースのお時間です。
まずはこちらのニュースから。
先日の全日本異人審査会役員会議で、会長の菅谷元信氏は異人対応についての法律制定を政府に求める意向を発表しました……』


有名アナウンサーをいつも通りながめながら準備を済ませた小春は、いってきますと声をかけて家を後にした。

「お!小春ちゃん、おはよう!」
近所のお兄さんと出会った小春は挨拶を交わす。しかし彼と目線が合うことはない。
普通の人とは比べ物にならない長さの首を持つ彼の顔は今、3メートル近い高さにある。
いわゆるろくろっ首と言うのだろうか、彼もまた小春と同じく異人に分類される。

異人、それは文字通り一般的な人間の概念とは異なる存在だ。しかし彼らは生まれつき特殊なわけではない。その特徴のうちの多くは4〜5歳のうちに突然発現する。
小春の身体もその例に漏れず、4歳の時になんの前触れもなく透明になった。

「あの頃は大変だったのよ」
母親はことあるごとにそう口にする。それもそのはずだ、異人そのものが世界人口の5%に満たない。透明人間に限定すればなおさらだ。
子どもに当たり前を教えてやれない親の苦労は想像できるし、それはあまり良くない数値としても表れている。
実際に異人となった子どもの2人に1人が親元を離れ、異人保護センターでの生活を余儀なくされるらしい。⑪


「おはよう小春ちゃん、今日もいい笑顔だね」
教室に入った小春に、由紀が開口一番そう言った。
挨拶を返した小春は由紀の口元を覆う大きなマスクを見つめ、心配そうに眉をひそめた。

「ねえ、喘息は大丈夫なの?原因もよくわからないって言ってたけど、ちゃんと病院行ってる?」

「あぁうん、そのことならお気になさらずだよ。」
わざとらしく咳き込む彼女を前にため息をついた小春だが、不意に慌てたように後ろを向く。

いぶかしげに首を傾げた由紀も、その理由に合点がいったとばかりに小声で話しかけた。

「はじめくん来たけど、挨拶しなくていいの?」


----------------------

「ねえ、君が仮面をしてるのはどうして?」

彼がそう話しかけてきたのは2年と少し前、小春たちが中学生になったばかりの頃だった。

「どうしてって…何もないよりは、顔があった方がいいでしょう?」
小春は戸惑いながらもそう答えた。
それは本心には違いない。
誰もが持つはずのものの欠落は、幼い小春を苦しめ続けた。
本来顔を隠すための仮面を、彼女は自らの素顔にしようとしていた。覆うことでむしろ、露わになるものがあるのだと、相手に近づけるのだと、そう思っていた。
この日までは。

「ふぅーん、そっか。でもそれよりさ…」
彼は悪戯っぽく笑ってみせた。

「それより、こっちにしてみない?」


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「辻本さん、おはよう」
彼の声で我に返る。

「あ、菅谷くん、おはよう」
精いっぱいの笑顔でそう言った。つもりだ。

まったく、こんなに表情に気をつかうようになったのもすべて彼のせいだ。彼のおかげだ。

あの日彼がくれたフェイスマスクは、顔にぴったりと張りついた。小春の眉間が、目尻が、唇が、その一挙一動を周囲の誰もに知らせていた。

「ね、こっちのがいいでしょ。みんな君がどんな顔をしてるか、ごく普通にわかるんだよ。こうやって見ればほら、意外と綺麗な顔してるじゃん」②

なんで思いつかなかったんだろう?
そう驚嘆を口にしたかった。
意外ってなによ、やっぱり可愛いでしょ?
そう軽口を叩いてもよかった。

でもその時から胸に巣食った何かが小春の台詞を食べてしまったようで、不思議と嫌ではない息苦しさを感じながら、結局漏れ出たのは「ありがとう」という言葉だけだった。


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「え?先生いなくなっちゃうの?」
昼休みにふとそんな言葉を耳にした。
「そうみたいよ、あれ、もしかして最近異人への風当たりが強いからかな」

‘異人’
その響きに思わず足を止めた小春は、彼女らの話題の中心が誰かを理解する。

小春たちの英語を担当する先生は、校内唯一の異人教師だった。
「先生、どうしてそんなに歯、尖ってるんですか?」
自己紹介直後に挙がった質問、おいやめろよ、という非難するようなざわめき。
ヨーロッパから来た彼はそれらすべてに、流暢な日本語で応じてみせた。

「いえいえ、気にしないでください。ここ日本ではタブーとされている質問も、向こうでは挨拶みたいなものでしたよ。」⑭
涼しげな微笑を浮かべながらそう答える先生は、しかし必ず暗幕を下ろして授業を行なった。

「一言で言えば吸血鬼ですよ。ヴァンパイアです。でもみなさんの血を吸ったりなんてしないので、安心してくださいね。」
うす暗い教室で少し寂しげに笑う先自身が、一番の不安を抱えているかのように見えて、小春はその横顔に親しみを感じた。


「ちょっとやめなよ、異人だからとかよくないよ」
ふと気づくと、由紀が彼女らに声をかけていた。普段積極的に話しかけることのない由紀が、今日はマスクの奥でくぐもった声を懸命に伝えようとしていた。
昔からそうだった。感情を表に出さない彼女は、きっと誰よりも私のことを理解してくれている。わけもなく小春はそう感じていた。

「……この前先生がさ、教室で一人で血飲んでたの、私見ちゃったんだ。危なくないって言ってもさ、不気味ではあるよね」
遠ざかる小春と由紀の背後で密やかに話す彼女らにはわからないのだろう。血液を詰めたペットボトルが、彼にとってどれほど大切なものなのかを。⑩
小春にとってのフェイスマスクと同じだ。異人を、この世界の定義から外れた存在を、かろうじて人間たらしめるもの。
幼くして例外となった少女には、彼の気持ちもまたよくわかる。


--------

「辻本さん」
唐突に背後からかけられた声にひえっと変な声をあげてしまった小春は、声の主がはじめであることに気づいた。恥ずかしい。穴があったら入りたい。いや、フェイスマスクを脱ぐだけでいい。

「異人についてのアンケートが来てるみたいなんだけど、協力してもらえるかな?」
さりげなく立ち去る由紀の足音を聞きながら、小春はガクガクと頷いた。

菅谷基。誰とでも仲良くするタイプの、ごく普通の男子。
しかし彼女にとって基は、フェイスマスクをくれた彼は、ある意味異人だと言えなくもなかった。
アンケート用紙を埋める傍らで口笛を吹く彼を、小春は横目でそっと見つめる。フェイスマスクは視線まで告げ口することはないのに、やけに心臓が高鳴る昼休みだと息をつく。

しかし深く吐き出したその息も、ペンを握る自分の手、そこから透けて見えるアンケート元の記載に気づくとため息に変わった。

全日本異人審査会。
法のもとの平等を謳う政府の方針に対し、異人の管理掌握を求めて活動する団体だ。⑦
最近は表立って異人の危険性を述べることも多くなり、次第に国内全体で異人差別の風潮が高まりつつあるらしい。小春の家にも以前心ない落書きが残されていた。

その全日本異人審査会、その会長を務めるのが菅谷元信、

基の父だ。



つくづく皮肉な世界だな、なんて中学生らしからぬ思いを抱くことがある。
私は別に、透明人間に生まれたくてそうしたわけではないんだ。基もまた異人審査会長のもとに生まれたかったわけでもないことはわかっていても、小春は時折自らの境遇を呪う。

もし私が透明人間じゃなかったら…
唇を尖らせる基の横顔を見て、小春は反実仮想を重ねる。
もし私が透明人間じゃなかったら、この胸の奥のもやもやは…
手の止まった彼女にちらりと向けられた視線に、小春は慌てて目を逸らす。
この淡い想いまで透けて見えていたりしないかな。
そんな到底ありえない杞憂を、小春はこっそりと迎え入れた。



□□□□□□□□
□□□□□□□□

トントン

「父さん、入るよ」

返事はない。
躊躇なくドアを開けて中に入った基は、デスクに座りキーボードを叩く父親と向かい合った。

「父さん、クラスの異人の子にアンケートとってきたよ」
菅谷元信氏は、その言葉にようやく顔を上げた。

「おお、基。ありがとう、まあ座りなさい」
用紙に目を通しながら父親は言った。仄暗い部屋のどんよりとした空気をかき回すように、息子に椅子を勧める。

「父さん、これが異人の人たちへの差別をなくすことにつながるんでしょう?」
しかし基は洒落たカーペットの上に直立したまま、頭を掻く父親と対峙していた。

次第に微笑を広げる父親はそれには答えず、不意に立ち上がると携帯電話を取り出した。
「あーもしもし、総理。例の資料、きちんと確認できました。やはり奴らは危険です。先日お話しした緊急命令、予定通りにお願いしますね。もう何年も待ちましたが、これでようやく安全な世の中になりますよ」⑮

傍目にもわかるほど悪意に満ちた笑みを浮かべた父親は、すぐに基に向き直った。
「それで、何の話だったかな」

くっ……
わかっていた。疑ってはいたんだ。
父さんが異人を許すなんてこと、あるはずがないんだ。
母さんは異人の引き起こした事故に巻き込まれて亡くなった。
でももうそれは、心の奥底にしまってくれたんだとばかり思っていた。だが違ったみたいだ。僕も、きっと政府も、父さんの掌の上で踊らされているに過ぎない。⑧

基は何も言わずに部屋を後にした。

緊急命令について詳しくはわからないけれど、異人に不自由な思いをさせるものであることは確かだ。
最近の世間の風潮を見るに、相当な強硬手段に訴えてもおかしくない。

そこまで思考を巡らせ、はっと気づき、駆け出す。

辻本小春が危ない。


急いで建物を出て角を曲がり……

そこで基の視界は真っ暗になった。


□□□□□□□□
□□□□□□□□

どうしたんだろう、近所がやけに騒々しい。
小春は妙な視線を感じながら帰宅の途につく。自宅までもう少しと迫った所だった。

「放せ!僕が何をしたって言うんだ!」
怒声が聞こえた。続けて何かを叩くような音。そして聞き慣れない固い声。
「こちら第14部隊。ろくろっ首型の異人を確保しました。抵抗したため少々手荒に」

はっとして小春は駆け出す。
嫌な予想は当たっていたようだ。丁度近くに住むお兄さんが黒い服の男たちに車に押し込まれる所だった。
「小春ちゃん!逃げなさい!」
お兄さんの叫び声が聞こえた時には、男の一人がこちらへ歩み寄ってくるところだった。

「ちょっといいかい、君はどうやら異人のようだね。少し別の場所で話をきいてもいいかな?」
いいわけがない。小春は突然に走り出し、待ちなさいと追いかけて来る男を振り切ってなんとか家にたどり着いた。

息を整える小春のもとへ母親が駆け寄ってくると、あぁよかったと安堵に胸を撫で下ろした。
「小春、今大変なことになってるの」

カーテンを閉め切った部屋で、母親はテレビをつけた。
『先程からお伝えしている通り、政府は緊急記者会見を開き、非常命令の発動を宣言しました。』

どうやら政府から異人に関わる緊急命令が出され、ひとまず異人たちはみなどこかへ連れて行かれているようだ。
「行った先で酷い目に遭わされているんじゃないかって噂も流れてて、お母さん心配してたの」
おそらくその不安は的中しているのだろう。あの黒服の男たちがすぐに解放してくれるとも思えない。
英語の先生と近所のお兄さんの顔が、順に浮かんでは消えていった。

「とりあえず状況が落ち着くまで、家で静かに…」

ビーッビーッ

『ここで緊急のニュースです。全日本異人審査会長、菅谷元信氏の息子で中学生の基くんが、何者かに誘拐されました』

途端に背筋が凍りつく。思考がうまく働かない。

『犯人とみられるグループは基くんを人質に立てこもり、非常命令の破棄を求めている模様です』

信じられない。が、次第に状況が飲み込めてきた。
彼は自分の身を守りたい異人たちによって捕らえられたのだ。審査会との交渉の切り札として。

結構ここから近いな、助けにいかなきゃ。でもどうやって?そもそもなんで彼なの?いやそりゃ息子だからでしょ。
自問自答を繰り返す私は、思っているより動転しているみたいだなと、当たり前のことをやけに冷静に考える自分がいた。


ひとまず自分の部屋に戻って落ち着こうとした小春は、ニュースで事件の様子を詳しく知ることになる。
基が手足を縛られているだけだということも、異人たちは武器を持っているわけではなさそうだということも。

要するに、うまく人目を盗んで縄をほどいてしまえば基くんを逃がせるかもしれないんだ。そして人目を盗むのは得意だ。
でも………

正直、怖い。危なすぎる。失敗すれば基くんまで傷つけられてしまうかもしれない。成功したって、私は確実に見つかるだろうから、黒服の男たちに連れて行かれてしまうだろう。
なら大人しく交渉を待てば…だめ、基くんが何されるかわからない。それに、こんな事件を起こしてしまったら、世間ももう異人を認めないだろう。政府も大手を振って取り締まることができてしまう。
そんな風に考え込んでいる間にも、時間は刻一刻と流れていく。⑨

どうしよう、基くん。私はここにいる限りは安全だ、少なくともしばらくは。でも君は…
小春は思い出す。教室の彼を。校庭の彼を。そして私に輪郭を与えてくれた彼を。

彼は私に平穏な生活をくれた。それに見合う恩返しなんて私にはできないから、ならせめてささやかな贈り物を贈ろう。③

もう覚悟は決まっていた。




パタン


ひとりでに部屋のドアが開いて、閉じる。
その跡には、制服も、下着も、そしてあのフェイスマスクまでもが残されていた。


------------------------------------------

実際にその目で見た立てこもり現場は、すでに集まりつつある警察や異人審査会が近隣住民を退避させ、ピンと張り詰めた緊張感が漂っていた。

文字通り完全な透明人間となった小春にとって、裏口からの侵入は容易だった。異人の前を堂々と横切り、基のもとへとたどり着いた。

「おまえらはすでに囲まれている!大人しく人質を解放して出てこい!」
「私たちは捕まることが怖いわけではありません。こうでもしないと、あなたたちは我々を認めてくれないでしょう?」
そんなやりとりを尻目に、大部屋の隅に転がる基の縄をほどきにかかる。
今の小春を動かしているのは、ただ真っ直ぐに強い想いだけだった。

異人を恐れ忌み嫌う、その気持ちも小春にはわかる。私だって嫌だったのだ。普通ではない自分のことが。
私もみんなと同じになりたい、そう何度願ったことか。
だが彼はそんな私に、意味をくれた。人と関わる喜びを教えてくれた。

流石に気がついたようだ、基の顔が驚愕に歪む。あくまで密やかに自由を得た両手を慌てて隠す基は、こんな状況でもまだ基だった。

「人質を逃がせ!警官隊を突入させる」
そんな怒号を鼻で笑った異人たちの表情が一変する。
基と小春は走り出していた。

轟く怒声、迫りくる足音。誰にも見えない小春は、異人の一人と衝突して転倒した。
「いてっ!なんだ今の?」

逃げる基を見て突入する警官隊を前に、誘拐犯たちはすぐさま捕らえられた。保護される基に駆け寄ろうとした瞬間、小春はふと目が合った。そんな気がした。

錯覚だとわかっていた。でも小春にはそれがただ純粋に嬉しくて、安心できて、その瞳からは気づけば彼女の肌と同じくらい透き通った涙が溢れていた。⑥

ああ、涙なんて。誰にも見つからない透明人間の涙なんて、今は邪魔なだけなのに。あとはここから立ち去れば、それでよかったはずなのに。

透明人間で良かった、そう初めて思えたよ。
君には程遠いこの姿のおかげで、君を助けられた。君の力になれた。自分を好きになれた。

だからこれはきっと、私が感謝を口にすべきで…


ピシャッ


不意に頬に衝撃が走った。
「あそこにもいるぞ!異人を逃すな!」
頬からだらりと流れ落ちる蛍光色を見た小春は、防犯用のペイントボールを投げられたのだと気づく。④
血の色にも似たその赤は、透明人間の居場所を鮮明に伝えていた。

鳴り響く足音は透明人間の感謝を無粋に掻き消し、二人の距離は無情にも広がっていく。

はじめくん、

遠ざかる基の横顔に、小春は胸の中で呼びかける。

もしかしたらこれでお別れなのかもしれないけれど、私は幸せだよ。短い間でも、君は私を人間にしてくれた。透明で良かったと思わせてくれたんだ。
もし叶うならこの透明の胸の奥底まで、君に見通してほしかったよ。

だって君は私の…



最後にもう一度だけ、彼と目が合った気がした。




[編集済]

No.40[「マクガフィン」]03月25日 00:1603月29日 00:31


少年が独り、誰もいなくなった教室に佇んでいた。
窓の外を眺めれば、猫の欠伸のようにのどかな春の光が、校庭の桜に柔らかく寄り添っていた。
少年の手に握られた一枚の集合写真にも、桜が写り込んでいる。だがその出会いと別れの象徴は、本来写るはずではなかった。
写真全体に広がる生徒達。その間にぽっかりと空いた空隙。
笑顔のクラスメートの中に、彼女の顔は見当たらない。
彼女のいるはずの空間には、代わりにただ桜の花が凛と咲き誇るだけだった。
だがその大きな空白こそが、彼女の存在を証明していた。宙に浮いているかのような制服も、履き手のわからない靴も、目には見えない何かをしきりに主張していた。
少年はその写真の空隙を、愛おしそうに眺めていた。


少年が独り、誰もいなくなった教室に佇んでいた。

[編集済]

No.41[「マクガフィン」]03月25日 00:1603月29日 00:31

【簡易解説】
透明人間である少女は表情を伝えるために、普段からフェイスマスクを着用していた。
異人への対応を巡って強硬手段をとり合う中、少女は少年の安全を守るためにフェイスマスクを外し、完全に透明となって救出に向かった。




・・・
・・・・・
・・・・・・・



『また新たな情報です。先日の異人による中学生誘拐事件で、人質となっていた少年を助けた異人がいるという証言がなされた模様です。警察では、引き続き捜査を…』

ピッ

テレビを消した由紀はマスクの奥で小さくため息をついた。
小春ちゃん、がんばったんだね…
自分の自由を犠牲にして、はじめくんの平穏を守ったんだね…

じゃあ私も頑張らなくちゃ。
由紀は家を出て夜道を歩きながら、一人そう思った。

これは別に復讐なんかじゃないんだよ、単純に、私も自分だけの秘密を守ったまま、平和な日常を送りたいからね。⑬
対象が自分自身なだけで、平穏を守りたいのは一緒だ。

電灯がか細く照らす暗闇の中、目的の背中を見つけた由紀は微笑む。しかしその口角はいささか奇妙なくらいに高く上がり、白い歯の間から真っ赤な舌がチロリとのぞいた。

「ねえねえ、おじさん」
由紀は口元全体を覆う大きなマスクに指を静かに掛けながら話しかける。

怪訝そうに振り返ったおじさん・・・菅谷元信に対して由紀は、その大きく裂けた口から短く問いかけた。


「わたし、きれい?」




【完】
[編集済]

No.42[OUTIS]03月26日 16:3303月29日 00:25

【機械仕掛け】

エントリーNo.10 [良い質問]

No.43[OUTIS]03月26日 16:3503月29日 00:25

Side:真紀菜
「あなたはタイムマシンがあったら、過去と未来どっちに行きたい?」
退屈な学校からの帰り道で形見の懐中時計を眺めていると、ずぶ濡れの仮面をつけた女の人に声をかけられた。①④
私にとって退屈で、眠くて仕方がない日常の中でそれは丁度いい刺激だった。⑫
「そんなの、過去を選ぶに決まってる。未来なんて何もしなくても行けるけど、過去へはどうあがいても行くことができないのだから。」⑨
「やっぱり、6歳とは思えないようなことを言うね。」
「驚かないんですね。あと、どうしてわたしが6歳だと思ったんですか?」
「あなたみたいな人はワタシのいたところじゃ普通だったからね。6歳っていうのは・・・勘、かな。」
「勘ですか、そうですか。それで、あなたはわたしにそんなナンセンスを言うためだけに声をかけたんですか?」
「いいえ、ワタシは・・・そうね。自殺をしようとしていたの。」
「自殺を?なら一人でしてください。わたしを巻き込まないでひっそりと死んでください。」
「辛辣だね。ワタシの国じゃそういうのも挨拶みたいなものだったけど、ここでその無関心さはやっぱり異常だよね。」⑭
「あなたの国では、お互いがそんなに無関心なのですか?」
「そうだよ。ワタシのいた国・・・―未来のこの国はね。」
「面白い冗談ですね、あなたは自分が未来人だとでも言うんですか?」
「うん、そうだよ。そうだ、少し未来人の話に付き合ってくれないかな?」
「かまいませんよ。どうせ、退屈していたんですから。」

「あるところに、一人の天才的な頭脳を持った科学者がおりました。」
そう言って、彼女は話し始めた。
Side:X
女は、ある日タイムマシンを発明した。
すると、そのタイムマシンを奪おうと企業から国まであらゆる団体・組織が動き始めた結果、戦争が始まった。
「ねえ、あなたはどうしてタイムマシンを作ったの?」
ワタシはある日、女にそう尋ねる機会があったから聞いてみた。
彼女は答えた。
「ただの、暇つぶしだよ。」
「タイムマシンで過去へ行こうとは思わないの?」
「過去へ・・・?」
「そう、過去へ行って・・・タイムマシンの開発をやめさせようとか。」
「その考えは無かったな。」
「じゃあ、やってみたらどう?」
「うん、悪くないかもしれない。過去を改変しても、世界線が変わるからタイムパラドックスも起こりえない・・・例外を除いて。」
「例外?」
「2つの時代の異なる同一人物がお互いにお互いを認識すること。」
「それでタイムパラドックスが起こるっていうの?」
「同じ時代に同じ魂は一つしか存在してはいけない。もし仮に、ただでさえ存在してはいけない2つの魂同士がお互いを認識したら・・・」
「したら?」
「その魂は、輪廻の輪から外れた存在になる。タイムパラドックスというよりかはソウルパラドックスとでもいうべきかな。」
「魂だの輪廻だの、天才科学者ともあろう人がずいぶんオカルティックな事を言うのね。」
「かの発明王と言われたエジソンも、晩年は霊界とコンタクトをとろうとしていたと言われているしね。」
「天才ってのは、変な奴しかいないのかしらね。」
「一理あるかもしれないな。」
「じゃあ、ワタシを過去へ連れて行って。」
「君も来るのかい?」
「いいじゃない。ワタシだってこんな世界はこりごりよ。綺麗だった昔に戻りたいもの。まあ、昔の記憶なんて無いんだけど。」②

Side:真紀菜
「そうして、ワタシがここに来たってわけ。」
「じゃあ、タイムマシンを見せてください。」
「やっぱり気になる?」
「人並みには。」
「じゃあ、特別に見せてあげよう。」
そう言って、彼女はペットボトルを取り出した。⑩
中には、無色透明の液体が入っている。
「マシンじゃないんですね。」
「まあ、半分オカルティックな理論も混ざっている代物だしね。」
「それを飲んで、未来から来たんですか?」
「いや、これを…」

Side:X
彼女にペットボトルの中身をかけようとした瞬間、どこからか音楽が聞こえてきた。
いつの間にか桜の木の下で、大勢の人々が花見を始めていた。
皆が歌えや踊れの大騒ぎ。⑦⑧
そこは、笑顔であふれている。
「・・・なんてね。」
「?」
「ぜーんぶ、嘘。」
「やっぱり、ナンセンス。」
「実はね、一緒にお花見したくって。」
「おはなみ?」
「うん、お花見。一緒に写真とか撮ってさ。」
一緒に街中を歩いて、食べ歩きをしたりして。
いろんな景色を見て、私はこの時代に居た証を残したくなった。
パシャリ
大切な、私の集合写真。⑤
「ねえ、この後・・・」
そう思って振り返ると、彼女がタイムマシンを飲んでいた。
「ダメ!待って!」
「やっぱり。これ、タイムマシンなんですね。」
「ちゃんと用量を守らないと・・・!それに、」
「いいんです、どうせこの時代のわたしには居場所なんて無いんですから。」
「どうして!」
「わたしなりの、ささやかなプレゼントです。これでわたしが過去か未来へ行けば、少なくともタイムマシンを巡って核が発射されたあなたの時のようにはならない。」③
ほんの少し話しただけだけれど、このまま別れて良いなんて思えない。
涙が流れ、視界がぼやけていく。⑥
頭が、真白になっていく。
周りの音もぼんやりとしてきて・・・
・・・音が、消えた。
「あれ?」
「なかなか、タイムマシンが動きませんね。」⑮
周りを見渡すと、世界の時が止まっていた。
「もしかして・・・」
「やっぱり、気づいちゃったのがいけないんでしょうか。」
「気づいていたの?」
「ええ、もちろん。」
『私があなたで、あなたが私だって。』
「さっきの話は半分本当。まあ、ワタシはタイムマシンを開発した時の事故でそれ以前の記憶を無くしていたんだけどね。まさか、ワタシがこんな無感情な子供だったなんて。」
「それは、こっちの台詞です。わたしがあなたみたいに成長するなんて想像もできません。」
「でも、まだはっきりと自覚は無いんでしょう?だからこそ、ワタシたちはこうして止まっている。」
「どうして?」
「元々、魂は同じ時代に2つ存在してはいけない。だからこそ、1つになろうとするの。でも、理性がそれを阻む。そりゃあ目の前に自分がいるなんて認めたくないだろうからね。
 結果、理性が魂の融合を防いでソウルパラドックスは起こらない。でも、もし互いが同一人物であると認識して、認めざるを得ない状況になったら・・・魂は融合してしまう。」
「でも、私はそうはならずに中途半端に止まっている。」
「多分、原因は二つ。一つはお互いの認識が不十分で、中途半端に魂が融合したこと。もう一つは、片方だけが時間移動しようとしたこと。時間移動しようとしたあなたの魂がワタシの魂を引っ張って、ワタシの魂があなたの魂を引っ張った結果、時間を移動できずにその歪みがこういう形で現れた。」
「じゃあ、解決方法は一つだけ。」
「時間移動は止められないし、タイムマシンももうない。ワタシとあなたの魂を融合させるしか方法はない。」
「そのためにはわたしがあなたを私だと深く認識するしかない。」
「なら、方法は簡単。だけど。」
「融合したとき、一人の人間に人格は一つしか存在できない。どちらか片方だけが生き残る。」⑪
「それでも、いい。」
「じゃあ、仮面を外すよ。」
「うん。しっかりと、私だと認識する。」
ワタシは、仮面を外す。
瞬間、頭が真っ白になった。

Side:真紀菜
頭がガンガンする。
残ったのは、私の方だった。
目を開けると、見覚えのない土地に居た。
「お嬢ちゃん、迷子かい?名前は?おうちはわかる?」
知らないおじさんに声をかけられた。
「私は・・・真紀菜、です。」
そう言った瞬間。
『簡単に名前教えちゃダメでしょ!』
頭の中で、未来の私の声がした。
「どうして、いるの?」
『多分だけどね、あなたがタイムマシンを飲んだからだと思う。』
「意味が分からない。」
『えっと、まずあのタイムマシンは飲用じゃなくて浴びるような使い方をする物なの。
 で、魂っていうのは基本的に水に性質が似ているから人間の体の中の水を巡っているんだけど、タイムマシンは魂を保護するために魂の入った水とは交じり合わない水になっているの。だから、魂が融合したときに一部の魂がタイムマシンの中に入り込んだんだと思うわ。』
「それって、大丈夫なの?」
『うん。とりあえずタイムマシンは私の身体みたいになっているから大丈夫だと思う。』
ふと気が付くと、おじさんはいつの間にか居なくなっていた。
「そう、ところでここはどこ?」
『見慣れない街並みだね。多分、融合のはずみで私たちがいた世界とは全く別の世界線に来たんだと思う。』
「そう、とりあえず・・・これからどうすればいいと思う?」
『まあ、ゆっくり考えればいいんじゃない?いざとなったら住みやすそうな時代にでも時間移動すればいいんだし。』
「そういえば、あなたの事、何て呼べばいいの?真紀菜じゃ少し・・・呼びにくい。」
『ああ、Xって呼んでよ。未来じゃそう呼ばれてたから。』
「わかった。」
『よろしくね、真紀菜。』
「うん、よろしく・・・X。」
そう言って、自分二人しか知らない秘密を抱えて、私たちは歩き出した。⑬
カチリ、カチリと懐中時計の音が二人の時を刻み始めた。
―了―
【簡易解説】
タイムマシンが開発され、戦争が始まった時代。
平穏を取り戻すべくタイムマシンが開発されないように過去の自分を説得、あるいは殺害しようと時間移動をした少女。
その際、タイムパラドックスを防ぐために正体を隠すためのマスクをつけていた。
しかし、結局ばれてしまっていたためマスクを外した。
[編集済]

No.44[さなめ。]03月27日 16:1403月29日 00:25

《心の魔法使い》

エントリーNo.11 [良い質問]

No.45[さなめ。]03月27日 16:1403月29日 00:25

眠くて、眠くて仕方がない⑫。でも、授業中に居眠りして悪目立ちはしたくない。その葛藤に決着はつかないまま、授業は終了した。教室にただいるだけでも、変な風に注目されることがないか怖いハズなのに、暢気に眠気を起こす自分が、莉子には不思議でならなかった。
眠る間も、葛藤する間も、均等に時計の針は進み続ける⑨。莉子が登校を始めてから、既に一週間経っていた。 なぜかマスクを付け、ずっと一言も発さない彼女を気にする人はいなかったが、逆に「気に掛ける」者もいなかった。
教室の後ろの掲示板には写真が飾ってある。高校に入って初めてのクラス、校庭で撮ったという、桜の映った集合写真。その中に、入学式から一週間休んだ莉子の姿はない。単なる体調不良での欠席だったとはいえ、回復後、担任の先生から何の説明もなく復帰したというのはひょっとしたら、今の静かな恐怖のきっかけなのかもしれない⑤。
誰かに疎まれたり哀れみの目を向けられたりはしないが、莉子はずっと独り。自分がこの場所に存在しているのか、すらも不安になる不穏な一週間であったのは、否定しづらい。
そんな折りに、学校が今日から一週間、集団下校の実施に踏み切ったのだ。最近近所では、路地裏でチキンを振り回す不審者の出没や、夜にナイフを持った通り魔の目撃情報など、かなり物騒な空気が漂っているという。
授業後の担任の先生の説明を受け、部活体験に出向きたがっていた生徒たちは不満の声を上げた。なんでも予定通りであれば、ダンス部の歓迎公演⑧があったらしい。集団下校開催となれば、公演は当分先⑮になりそうだ。
でも、いくら物騒な空気がただよう時代だからといって、集団下校は莉子にとって、静かな恐怖の延長戦でしかなかった。

++++++++++++++++++++

集団下校には他のクラスの子も混じるから、ますます友達の輪が出来やすい。私の周りでも、二人や三人の仲間が談笑している。やけに会話の内容がこちらに聞こえてくるのが、一層の不安を煽った。
独りでいたって、それだけでは何も悪いことではない。独りが好きな人もいるし、学校で困ることは少ない。
でも、私はまだ、学校の誰ともコミュニケーションをとっていない。一週間前たくさん買った青鉛筆は、一本も使っていない。このままではこの生活に慣れていくことも、克服することも出来ないと分かっていながら、誰の肩も叩けないことが辛かった。何より、何よりも寂しかった。寒くて拓けた雪国におかれた雪だるまって、こんな気持ちなんだろうか。そういう情景が思い浮かんだ。

あの、これ落としたよ。

すると突然、私の後ろから声がした。急な出来事に漫画みたいなびっくりをして、振り向くと女の子が立っていた。私の鞄についていた、うさぎと馬の形のストラップを一つ、手に持っている。きっと紐がほどけてとれてしまったのだろう。
でも、どうしよう、どうしよう。急に話し掛けられたのは、制服を見るに同じ学年の、違うクラスの子。無言で受け取ったりしたら、怪訝な顔をされてしまうだろうか。かといって、いきなりノートと青鉛筆を使ったら、変な風に思われないだろうか。
多分、マスク越しに真っ赤っかになったまま黙って突っ立っていた私の手を、彼女は掴んだ。再びびっくりしている間に、その子は私の手にストラップを握らせた。

どう致しまして。

しっかりと握らせるのを確認するように、彼女は私の手を優しく包みながら、確かに言った。どう致しまして、と。包む手と同じくらい、優しく。
手に握ったストラップと、彼女の言葉。その子がそのままどこかに行ってしまう前に、この糸を繋ぎ止めたかった。だから、考えるより先に、思わず鞄を探った。
彼女が私から離れてしまう前に取り出したノートと、青い色鉛筆。只の鉛筆や赤ペンでは、周囲にも見やす過ぎる。正面から見ないと見えにくいような青色だからと、正面に立つ話し相手に向けて言葉を書くために買った青鉛筆で、高校に入ってから一度も出来ていなかった、「会話」をした。

《ありがとうございます》

ノートに書かれた、少し乱雑になってしまった字を見た彼女は一瞬、驚いたような気がした。しかし彼女は、直ぐにまたさっきのような笑顔に戻って、私の青鉛筆を取った。

《私は真帆 よろしくね!》

青い字でそう書き残した真帆さんは、自身の家に帰るべくか、私の帰路とは違う方に消えた。

私の名前は伝えていない。しかし、確かノートの隅に、「米原 莉子」と書いてあったことに、帰ってから気づいたのだった。


集団下校期間の一週間、私と真帆さんは一緒に帰る道で、話したり話さなかったりした。話す時も、筋の通った会話はせず、二言三言、ノートが埋まるだけ。

おはよう。
《おはようございます》
…おはようで良いよ。
《おはよう》

会話に意味は何もない。しかし、意味のある会話は息苦しい。《おはようございます》さえ時間のかかる私にとって、真帆さんとの短いやり取りは、苦しくなかった。
私が心因性の病気で上手く声が出せないこと。だから話すのが文字でゆっくりなこと。そもそも、中学校でいじめを受けたのが原因で、声を失ったこと。その頃から目立たないように、マスクを付けていること。
誰もが気にして、気を遣ってしまう「億劫」な会話を、彼女は気にしなかった。尋ねることすらしなかったのだ。単に真帆さん自体がのんびりした人なだけかも知れないし、単に私との会話が新鮮で興味をそそるだけで、そのうち気まぐれで飽きてしまうかも知れない。それでも、短い間でも、彼女との筋のない会話は、心地良かった。

それが本当の平穏になれたのは、集団下校の最終日のこと。まだ不審者や通り魔は、度々姿を見せるらしい。
校舎から出てきた真帆さんは、校門に集まる集団の中から私を見つけると、こちらに来てくれた。

《おはよう》

昨日と違う、たった今書いた《おはよう》を贈る。真帆さんはおはようと返すなり、鞄を探った。

《どうしたの?》

不思議に思う私を見て、真帆さんは悪戯っ子な笑顔を浮かべた。擬音で言うなら、にっしっし。

今日はね、莉子に魔法をかけてあげようと思って。

《ま法??》

色鉛筆の太さで潰れないように平仮名で書いた《ま法》。真帆さんのうたうような口調⑦と奇妙な言葉遣いに、私は首を傾げる。

ふふん、心配することはないよ。これは莉子へのお礼、私なりのささやかなプレゼント③だから。

真帆さんが取り出したのは、飲み物らしかった。デイジーの花畑を柄にした可愛いペットボトルホルダーに入った、小さめのペットボトル⑩。
それを取り出すなり、真帆さんは私にずいっと近づいた。急で戸惑う私をよそに、

真帆さんは、私のマスクを外した。

マスクを片手に、もう片方の手を差し出しながら、彼女は言った。

莉子にこれを飲んで欲しいんだ。

何だろう。怪訝に思いながら「これ」を受け取る。そしてそのまま、ホルダーから出さずにペットボトルのキャップを開け、飲料を口にした。

すると広がったのは、安らかな香草の薫りと、温かいお茶の華やかな匂いだった。
ハーブティーだろうか。とても美味しい。
私の顔から察したのか、真帆さんは満足そうな笑みを浮かべていた。

美味しいでしょ?私の作ったカモミール。

《美味しい》

ペットボトルを真帆さんに返し、慌ててノートに感想を書いた。すると真帆さんは、笑みを浮かべながらこう言ったのだ。

…やっぱり、莉子はマスクなんて付けない方が良いよ。

…カモミールティーはね、冷え性が辛い人に効くとか、風邪の症状に効くとか、色んな効能があるけど、一番の魔法は、リラックス効果なの。

…ふふん、どういうことか分かった?

…貴方がなんでノートで会話するのかは、よく知らないけどさ。

…莉子が声を出さなくても、ノートに書かなくても、こうやって心で会話できる。まだ会って一週間なのに。

…うーん、別に心を読んでるわけじゃあないんだけど…私は喋ってるわけだし。

…とにかく、あんまり肩肘はらなくていいよって。もっと、リラックスしていこって。それが言いたかったの。

…だって莉子、仮面①みたいにマスクなんて付けてたら、こういうときどんな顔してるか、わかんないじゃん。こんなのは外して、もっと気楽に、リラックスしていこっていう、そういう種類の、魔法でした。

私が何も言わないうちに、真帆さんはその「魔法」を贈ってくれた。話し終わると、私のマスクをひらひらとさせて、居心地悪そうにこちらを伺っている。

えーっと、要するに、これからも、よろしく、莉子。

真帆さんは最後に、取っ付けてそう言った。取っ付けな言い方だったのに、投げ槍な「これからも」にどんな気持ちが込められているか、解ったような気がした。
その気持ちが、私にはとっても嬉しかった。こんなとき、何て言えば良いんだろう。この嬉しさは、どう伝えたら良いんだろう。でも。

《ありがとう》

ちょっぴり恥ずかしがる真帆さんに、私はその言葉を贈った。彼女になら、これで十分だと思う。いや、きっとこれが、最大級の「贈り物」だ。

小さな雨が、一粒だけ。
私の頬に、1滴の涙の橋が架かった④⑥。
そのあとに残ったのは、二人の笑顔。それぞれの、それぞれへの贈り物だけだった。

++++++++++++++++++

カモミール、カミツレの花言葉は、「苦難の中の力」。
私達には、お互いに、苦難があるけど、それを気楽に、乗り越えていこ。

「私の国では挨拶のようなもの」⑭とも言われる花言葉に託して贈ったメッセージ。数あるハーブティーの中から選んだカモミールの想いに、莉子は気づいてくれたのだろうか。

いや、この際なら、それは些末なこと。
彼女の笑顔が見れたなら、それが何より綺麗だった②なら、私は十分だ。

…コインを投げて⑪、表なら先にお母さん、裏なら先に師匠。

そう呟いて投げたコインは、うつ伏せに倒れた。

今日から新しい高校に行くと言ったときの、師匠の心配そうな顔を思い出した私は、くすりと笑いながら、押し入れから相棒の箒、「ミーハーちゃん3号」を取り出した。

師匠、私ね、今日、掛け替えのない友達が出来たんだ!

青鉛筆でかかれた《ありがとう》を思い出して、自然と笑顔になる。私は箒に跨がった。少しずつ地面と距離を置きながら、この近くの師匠の家を目指すことにした⑬。

終わり。

(本文総字数4105字 要素数15個+α)

【簡易解説】
不審者や通り魔が闊歩し、物騒な空気が漂う時代、真帆という少女の通う学校は集団下校の実施に踏み切った。
そのお陰で違うクラスの人とも交流ができ、真帆はノートを使って筆談で会話する少女、莉子に出会う。
彼女が自分の異色さを心配し、悪目立ちしないように、自身の気持ちを伝える数少ない手段でもある「表情」を隠すもの、マスクを付けているのだと気付いた真帆。
真帆は莉子の過剰な心配、緊張という不穏から彼女を救うために、ハーブティーを自作した。
これを飲んでもらい、またその事情からという理由で「莉子の」マスクを外すことで、素顔を見せる莉子を鼓舞し、また彼女の味方、友達になることで、彼女の平穏を取り戻そうとしたのである。

簡易解説も終わり! [編集済]

No.46[ごがつあめ涼花]03月28日 15:0303月29日 00:25

「この世界の中で、笑っていられたら」 [編集済]

エントリーNo.12 [良い質問]

No.47[ごがつあめ涼花]03月28日 15:0403月29日 00:25

人は、どういう時に笑うのだろう?

きっと、人は楽しい時に笑うものだ。
きっと人は、幸せなことが訪れた時に笑うものだ。

「笑っていれば、きっと幸せはやってくる!」

なんて、テレビの向こうでヒーローが言っていたのを覚えている。

悲しいことがあったら笑えばいいさと、そのヒーローは言っていた。
別のヒーローは、今は悲しくても、いつか笑える日が来る、なんて事を言ってた。

子どもたちは、その言葉を胸に刻んだまま成長していく。笑顔が幸せと繋がり、悲しみを喜びに転化する。そうやって人間は生きていく。そういうものだ。聞くまでもないくらいに、それが普通で、当たり前の世界だから。


だったら、『笑えない』私は幸せになってはいけないのかな。


「生きづらいなぁ。」
少しズレていた『お面』を直しながら、私は呟いた。(①)
_____________


「いい?あなたは呪われてるの。あなたは決して人に笑顔を見せたらダメ。笑ったら、あなたはその人に忘れられてしまうの。」

「『お母さん』と呼べなくなった最初の人」がいつか私にそう言ったのを覚えている。物心がついてすぐのことで、結局、彼女が私の何にあたるのか、私には分からなかったのだけれど。

私が呪われているのだと本当に気づいたのは、何かが嬉しくて、その人の前で笑顔を見せて・・・実際に『呪い』を見てからだった。

「誰・・・あなたは、誰?どこからここに入ってきたの・・・?」

「私の子供?そんなはずない!だって私はずっと、1人で・・・」

「私がおかしくなったって言うの!?違う。こんな子本当に知らない!」

嬉しさから、どん底に突き落とされた。

あの時の全てが失われた感覚、何が何だか分からない感覚、全てが否定されていく感覚は、今になってもずっと離れない。
頭の中から落ちてくれない絶望感。いや、落としたらダメなんだ。落としたら、きっと、また何かを失うから。
事実失ってきたでしょう?公園で遊んでくれた女の子を。『お母さん』だった人達を。・・・きっと、覚えてすらいない本物の親も。

『私が笑顔を見せた人が私のことを忘れる』なんて馬鹿げた呪いのせいで、私は生まれた時から、幸せになってはいけない。幸せな時に人は笑うのだから。

でも、そう思っていても何度も笑ってしまって、失い続けたから、すぐ笑う自分の顔が嫌いになった。
時計の針は休みなく進み続けて(⑨)、その間に私はこれからどれだけのものを失うのか、ひたすら怖くなった。
だからある時私は、引き取られた孤児院で、私はそこに置いてあった、縁日で売ってそうなお面を付けるようになった。自分がどんな顔をしているのか、どんな表情をしているのか、見られなくて済むし、自分も見なくて済むから。
孤児院の先生や子ども、街の人達はそんな私を見て当然不思議に思っただろうね。けれどこんな非現実な『呪い』のことなんて、言ったところで誰も信じてくれやしない。私だけの秘密だ。(⑭)

それにしても私を呪った神様は酷いなぁなんて思って、何度目か分からない溜息をついた。

私が今いるのは街の高い所にある神社の大きな木の上で、そこからは街の色んな所を見る頃ができる。
公園で遊んで楽しそうにしている子供達、仲良く楽しそうに話しながら帰る学生達。全部が上から見渡せる、お気に入りの場所だ。

人々が楽しそうにしていて、街全体がみわたせる健やかで綺麗な景色も、その世界の中にきっと私はいない。私がいるのは、きっと、もっと物騒で荒んだ世界だから。

だから、私はここで今日もまた、私をこんな風にした神様に、そして、私が得ることが出来なかった幸せを簡単に持つことの出来る人達に中指を立てるように、綺麗な世界を呪うのだ。私には、そんなことしか出来ないから。

もう夕方か・・・そろそろ戻ろうかな・・・?
時間を確認した私は木から降り、神社を出ようとする。

すると、背後から声をかけられた。

「すいません、あの・・・この辺りで、桜が綺麗な所って、ありませんか?」

振り返ると、そこにはカメラを持った、自分と同じ歳くらいの少年がいた。

「自分はまだここに越したばかりで。この街のことをあまり知らないんです。でも、綺麗な場所があるのなら写真に撮っておきたくて・・・」

少し早口で語るその少年からは熱意みたいなものが感じられて、少し気圧されながら答える。本当はこんなの、無視すればよかったんだけど。

「桜が見たいなら、あの辺りにある橋からならいっぱい咲いてるのが見れると思う。あとは、ここの神社からでも桜は見れると思うけど・・・。」

「えっ、どこですか!?」

「あそこの裏の方。ちょっとついてきて。」

少年を連れて、少し歩く。確かにここは全然人目につかないから、分かりにくいな。

「あっ、ほんとだ!綺麗だなぁ・・・。」

少年がカメラのシャッターを切る。その目は輝いていて、顔は笑っていた。

「・・・写真、好きなの?」

「はい、大好きです!」

本当に即答だった。

「なんで?」

「写真というか、綺麗なものが好きなんですよね。
中学の頃にクラスで集合写真を撮ったんですけど・・・。あ、ほら、あった。」

彼は財布の中から一枚の写真を取り出した。
桜の下に彼を含めたクラスメイトが写っている写真。映っている人達は、皆笑っていた。

「これを見たとき、本当に綺麗だなって思ったんです。桜も、笑顔も。綺麗な一瞬を切り取って、一枚の写真にする・・・そういうのが素敵で、それからずっと写真を撮ってます。」

「確かに・・・綺麗だね。」

でも、そこに、私は・・・

「あの、もし良ければ、またこの街のことを教えてくれませんか?詳しそうですし、それと・・・。」

「それと?」

「そのお面、近くでお祭りでもあったんですか?ずっと気になってて・・・。」

「・・・あぁ〜。」

そうだ。あまりにもナチュラルに接してくるし、普通避けられるから忘れてた。そりゃあ気になるな。


「ま、いいよ。私は多分毎日この時間は神社にいるし。来てくれたら教えてあげる。」

私がこの時快諾したのは、この少年の眩しさが自分と真反対で、だから私が彼と一定以上の距離感より近づくことがないと思ったから。
別に彼になら忘れられてもいいし、良い暇つぶしになるかな、という程度だ。

「ありがとうございます!えっと・・・」

「あぁ、お面は・・・なんて言えばいいかな・・・。ファッションみたいなものって思ってくれたらいいよ。」

「ファッション・・・?」

「私の街では普通だよ?他の国でも挨拶でキスしたりする国があるでしょ?そういうものだよ。(⑭)」

「そ、そうなんですか?」

「まぁ勿論冗談だけどね。ま、ファッションなのはホントだよ?」

そ。ファッションだからさ、服みたいに身につけないと。あらわになったら、まずいからね?

_________

_________

それから1週間が経った。あの後少年は欠かさず毎日神社にやって来た。正直、来ないかなぁと思っていた私は驚きながらも、街の色んな場所へと連れて行った。川だったり、山に登ったり。あえてビルが並ぶ都市の方に行ったり。その度に少年はすごく目を輝かせてシャッターを切るんだ。


そして、今日はと言うと、
「あの・・・これ、入って良かったんですか・・・?」

「んー?知らない。あ、そのお茶もらっていい?」

「えぇ・・・?あ、どうぞ・・・」

少年が持っていたペットボトルを受け取り、そこからお茶を飲む。
私は彼と街の隅にある廃ビルにやって来た。廃ビルは何となく、除け者って感じが自分と似ていて居心地がいい場所だ。

「〜♪」

鼻歌を歌いながら歩いていく。(⑦)

「あ、それ。子供の頃で聞いたことある曲・・・。何でしたっけ?」

「スマイルレンジャーのテーマソング。」

「あぁー!よく見てました!『えがおがこのよにあるかぎり〜♪』ってやつ。スマイルレンジャー、好きなんですか?」

「んー、嫌いだよ?」

「え・・・。嫌いな曲を歌うんですね。」

「嫌いなのにさ、やけに胸に残るんだよね、この歌。
ほらほら、そんなことより、もうすぐ屋上だよ?」

お面越しでもわかる、上の方から指してきた光を指差して言う。
そこから何段か登って、ビル屋上にたどり着いた。吹いてくる風が心地いい。

自分が「綺麗な場所」と聞いて真っ先に思いついた場所は、ここだった。神社でもいいけれど、ここが1番見晴らしが良くて、街中を見渡せる。まぁ、そんなに人に勧められる場所ではないけどね。

「綺麗だなぁ・・・。」

君が呟き、カメラのシャッターを押した。

けれど、彼が見ていたのは外の景色じゃなくて、屋上のタイルの隙間の土から生えていた、タンポポの花だった。

「こんなとこにも、咲いてるんだ・・・!」

目を光らせて、色んな角度から写真を撮る彼。

「へぇ。君はそれを撮るんだ。」

「あ、えっと・・・僕はこれがすごく綺麗だと思ったんです。なんていうか、生きてるって感じがして。」

「生きてるのが、綺麗?」

「はい。人のエネルギッシュな笑顔とか、力強く立つ木、あと、こうやって咲いている、小さな花だったりとか。『生きてる』って感触が、本当に美しいと思うんです。
それに、そういうエネルギーが、僕に元気をくれるんです。」

「ふーん・・・。じゃあ、このタンポポが、いま君に元気をくれた訳だ。」

「・・・この世界ってそういうものだと思うんですよね。他人が嬉しいと自分も嬉しいし、他人が悲しいと悲しいって風に気持ちが伝わりあって。それは多分、『生きてる』っていう部分で繋がり合うからなんです。人同士が、人じゃなくても互いに影響され合って生きてる世界って、自分は本当に綺麗だなって。僕はそう思うんですよね。」

気持ちが伝わり合って、互いに影響を及ぼす世界。でもやっぱり、そこに私は・・・。

「あなたは、どんな景色が綺麗だと思うんですか?」

彼に尋ねられる。まぁ、色んなとこに行って何となく分かってきたんだけど、彼の話を聞いて、確信に近づいたな。

「今目に映る世界は、全部羨ましいくらい綺麗に見えるよ。」

だって、そこには私が映らないから。
私が悲しもうと、仮面の内にある感情には誰も気づかない。
私が笑っても・・・いや、そもそも、笑えないな。
そこにいない私がきっと誰かに影響を及ぼすことも、及ぼされることもない。
でも、私がいない世界は、憎い程に綺麗なのだ。笑顔も生きるエネルギーも、それらは全部、私が持ってないものだから。


「さーて、綺麗な景色を満喫したところだし、そろそろ帰ろっか?」

まぁ、暇つぶしのつもりだったけど、それがちゃんと分かっただけでも収穫ありかな?この街のことも色々分かったし、これで終わりでも、いいかな。
そう思って階段の方に向かおうとして、

「それにしては、随分寂しそうですけど・・・。」

その足が止まった。

「・・・そう見えた?私は仮面をしてるのに、おかしな事を言うね?適当に言った?」

少年は少し微笑んで言った。

「楽しんだか楽しめなかったか、たとえ半分で当たるとしてもそんなこと適当に言わないですよ。(⑪)
ずっと写真を撮ってると、こういうのが分かるようになるんです。というか、多分そういうの関係なく、顔に出てます。
ずっと、綺麗なものを見る時は寂しそうな目で見てましたよね?近づきたいけど近づけない、みたいな目で・・・。」

「君、すごいね。本当に・・・そんなことまで分かっちゃうなら、お面の意味もないじゃん。」

手を挙げて、お手上げって感じのジェスチャーをして言う。

「なんか、ごめんね?笑顔が好きな君は嫌だったかな?」

「いえ、そんなことは・・・。ただ、気になっただけです。多分、僕と会ってから1回も笑ってないんじゃないですか?」

「それも当たり。よく見てるね。すごい。
気になる?私が笑わないわけ。」

「まぁ、そうですね・・・。別に話したくないならいいんですけど。」

そこまで分かられたのは、もしかしたら初めてかもしれない。
んー・・・そこまで分かってるなら、折角だし話した方がいいのかもしれないね?信じられなかったら、それでもいいし。

「これは誰かに話した事が無いんだけど・・・まぁいいや。毎日欠かさず来て、それに気づいた君への私なりのささやかなプレゼント、ということにしよう。(③)」

そう言って、私は自分の『呪い』のこと、ついでに、今まで失ってきたもののことを全部話した。

____________

____________

『笑顔で、記憶が・・・』

『そりゃあ信じますよ。本気で話してくれてますから。』

『でも・・・記憶は消えても、あなたがその人に残したものは消えないんじゃないでしょうか?』

『さっき言った通りです。人と人とが影響を及ぼし合う。あなただって、仲間はずれじゃないはずだから。あなたの事を忘れた人達だって、きっと。』

『僕だってそうですよ。あなたのお陰で色んなものを見ることが出来たし、あなたからいっぱい元気を得ています。』

その日の夜。布団の中で、彼に言われたことを思い返す。歩き疲れて眠くて仕方がないはずなのに、その事を考えていたら何故か眠れなかった。(⑫)
私も、この綺麗な世界の一部になれているのだろうか。 もし、そうなら、それが少しでも私がここにいていい理由にならないかな・・・なんていう思いと、でもそれは呪いが消えたことにならないしな・・・という思いが頭の中でぐるぐる回って、でも、少しでも自分が、そっちの世界に入っていけたらな、なんて夢物語を想像したりして______気づいたら窓の外から朝日が漏れてた。

・・・何をずっと考えてるんだろうね、私。柄じゃないよ。

結局、その日は一睡もしなかった。


____________

____________

街の綺麗な場所をだいたい見せ終わった後も、何故か彼が神社に通い続けるものだから、私と彼との交流は続いていた。
「怖くないの?」
と聞いた事はあるけれど、
「記憶が無くなるのは怖いですけど・・・ それだけですよ。あなたは怖くないですからね。」と、流された。そんな言葉も、彼らしいな、と今では思うようになった。

最初みたいに何処かに行ったりする訳でもなく、軽い世間話だったり、お互いのことについて話すのが大半だった。たまーに、一緒にどこかに行ったりもしたけど。

彼は、映像関係の専門学校に通うためにこの街にやってきたという。
「将来はカメラマンになりたいんです」と相変わらずの笑顔で話す彼を見たから、私は自分の将来について初めて考えることになった。考えたこともなかったのだ。私に未来なんて、ないと思ってたから。

私は将来何がしたいんだろう?
普通の職業には・・・まず就けないだろうな。こんなお面では働けないよ。
いつまでも園のお世話になっている訳にもいけないし、何か、いい道があったらいいんだけど。


そんなことをしている間に、いつの間にか春が過ぎ、夏が訪れた。

その日は、彼が昔撮った写真を見ていた。1番初めに見た学校の集合写真だったりとか、そこの通学路に咲いた花だったりとか・・・。

「これは・・・花火か。綺麗だねぇ。」

「はい。自分がもともといた街の花火大会が、結構大きいやつで。 こっちも花火大会とかやるんですか?」

「こっちは夏祭りで花火をやるね。この神社にも屋台が立ったりするよ。」

夏祭りは・・・自分は、嫌いかな。
普段静かな神社がうるさくなる上に、間近で楽しんでるのを見せつけられる感じがした。自分の世界とそれ以外を分けて考えていたから、なんだか自分の居場所まで奪われる気がして・・・。

「あの、もし良ければなんですけど・・・一緒に花火を見に行きませんか?」

・・・やっぱり君はそう言うよね。分かってた。
ちょっと怖いけど・・・

「うん、わかった。行こっか。」

君とこうやって行くことで、私も少しずつ変われたら良いね。

着物、あったかな。帰ったら探さないと。

・・・なんて、女の子らしく考えるようになれたのは、彼のおかげなんだろうな。

____________

____________


「お待たせ。待ったよね。」

夏祭りの日。待ち合わせの時間に遅れた私はちょっと息を切らして少年に言った。

「いえ・・・でも、珍しいですね。いつもは僕が後なのに」

「ちょっと着付けに手間取っちゃってね?こういうことするの、初めてだからさ。花火上がるまでまだ時間かかりそう?」

「そうですね。あともうちょっと・・・時間がありそうです。」

「じゃあ、屋台回ろっか?」

「・・・そうしましょう!」

屋台が立ち並ぶ神社はいつもの静かな様子とは打って変わって、人混みが激しく、騒がしい。遠くからは和太鼓を叩く音と、かけ声が聞こえる。多分、祭りでよくあるような盆踊りをやってるのだろう。(⑧)
周りを見れば、自分以外にもお面を付けている人もいっぱいいる。どこかに売っていたのだろう。人々のそういう姿を見ていると、いつもは感じないのに、なんだか自分が、夏祭りの風景に溶け込めているように感じた。

例えば、それは金魚すくいで。

「えっ、これどうやってとるの?紙で、無理じゃない・・・?あっ!金魚が跳ねてお面に水が!」(④)

「ははは。こう、ポイを水平にして取るんですよ」

射的で。

「当たったって!当たったのになんで倒れないの?」

「へへっ、お嬢ちゃん、悔しいならもっかいやるかい?」

「やる!」

他にも、綿菓子を買った時や焼きそばを買って食べた時に。きっと私は人並みに夏祭りを楽しんで、人並みに幸せを感じているのだと思った。

私は、今きっとこの世界にいる。

「ところで、花火はまだ始まらないの?」

お面を少しだけ上げてさっき買ったアメリカンドッグを食べながら、少年に尋ねる。

「もう開始予定時刻は過ぎたはずなんですけど・・・なかなか始まりませんね。」(⑮)

「ふーん。早く見たいね。 あっ、そのオレンジジュースちょーだい。」

「えっ、あっ、ちょっ!」

そう言っていつものノリで少年の持ってるペットボトルを取って、オレンジジュースを飲もうとする。さっきだってたこ焼きをシェアしたのに、なんで急に慌てて・・・・・・

「・・・あっ。」

これ、間接キスか。と気づき、ペットボトルを持つ手が止まった。(⑩)
身体が熱くなり、頬が赤らんだのがわかる。少し前までは、きっと気づいたとしても、どうでもいいってそのまま飲んでただろうな。意識して飲めなくなったのは、そういうことなのだろうな。
胸の鼓動が早まる。恥ずかしくて、彼の方をまともに見れない。体験したことは無いけれど、『これ』が何なのかくらいは、私にも分かる。


あぁ、私は、彼のことが好きなんだな。



『長らくお待たせしました。間もなく本日の夏祭りの目玉イベント、花火大会を開催致します!』
祭りの会場中のスピーカーからアナウンスが発された。突然の事で、びっくりして顔を上げる。

「始まるみたい、だね。」

「そうですね。」
彼がカメラを構えようとして、やめた。カメラを持つ手は、震えていた。

「・・・あの、今、こんなところで言うことではないかもしれませんが。」

「うん。」

「僕は、あなたと色んなとこに行けて、綺麗な景色を見れて、何だかんだ本当に楽しかったです。今までに無いくらい。」

「うん。」

彼にこの後何を言われるかも予想がついた。だって、私も今気づいたところだから。

「あなたと神社で話をできた時、一緒にいられた時、全てが幸せでした。だから、一緒に夏祭りに行けることになった時、とても嬉しくて。」

「うん。」

私は、彼のことが好きだ。

彼がいたから、私は今日という日を普通の女の子みたいに楽しむことが出来た。
彼が、私はここにいてもいいんだって教えてくれた。


でもね。


「僕は、あなたの事が・・・」


「・・・・・・・・・ごめん。」


やっぱり、ダメなんだ。私は。


溢れそうになる感情を抑えながら、私は逃げ出すように、その場から走り去った。

____________

____________


「ハァ・・・ハァ・・・・・・」

走り疲れた私は、人通りのない神社の裏側にたどり着いた。
花火の上がる音と人々の歓声が聞こえる。けれど、それ以上に自分の胸の鼓動の音が大きくて、止められなかった。

「これは・・・」

私が逃げた先には、1本だけ、大きな木があった。私はこの木を、覚えてる。

『すいません、あの・・・この辺りで、桜が綺麗な所って、ありませんか?』

そっか、ここは・・・最初に君と見た場所かぁ・・・。

あの頃の記憶を思い出す。今となっては懐かしいな。あの時は、君のことなんてどうでもいいって思ってたのに・・・。
君はいつの間にか、私にとって、失いたくない大事な人になっていた。

でも、そんな大事な人だからこそ、きっと私は失ってしまう。

人はどういう時に笑うのか?

__人は、楽しい時に笑う。

__人は、幸せな時に笑う。

夏祭り、普通の人として彼と過ごした時は楽しくて仕方がなくて・・・心から幸せだった。

彼から、告白された時・・・心の中では本当に嬉しくて、喜びの感情が抑えられなくて、思わず笑みが零れそうになって、怖くなって逃げ出した。

結局のところ、そういう呪いなんだ。幸せになればなるほど、私は1人になっていく。

好きな人のことを考えて心の平穏がかき乱される度に、抑えられない感情が溢れ出し、だから私はきっと笑顔を見せてしまう。
私が笑顔でい続ける限り、仮面をつけていても、いつかはきっとボロが出る。大事な人にそれを見られて、忘れられる。
その絶望感は、きっと幸せが続けば続くほど、重いものになってしまうだろう。

はぁ・・・ほんとに、私が君のことを好きにならなければ・・・最初の距離感のままずっといたのなら、きっと良かったのにな。なんて。叶わない想像をする。

けれど、今の幸せは君がいないと感じられなかっただろうな。


「はぁ・・・はぁ・・・見つけた・・・」

後ろから君の声がする。私を見つけるのに相当走ったらしく、息が切れている。

うん。もう心は決めた。

全部無かったことにするなら、今しかない。後に引き伸ばしても、辛いだけだから。
最後くらいは、ありのままの私で、清々しく終わらせた方がいい。

「ねぇ、ありがとね。こんな私と一緒にいてくれて。 ・・・幸せだったよ。」

「何を、言って・・・っ!?」

私は君の方に振り返ると、つけているお面を外して、心からの笑顔を彼に見せた。

笑っているはずなのに、涙が流れる。(⑥)

君の顔が強ばる。きっとあと数秒もしたら、私のことを忘れる。

「ごめんね・・・・・・。」

私は勝手な人間だ。勝手に君のことを好きになって、それでいて勝手に手放そうとするのだから。

私はきっと、一生君のことは忘れられないだろうな。
でも、君のおかげで、私はこの世界で前に進むことが出来ると思う。

君は、私を忘れて生きていく。
せめて、君が私といた記憶は消えても、私が君に残せていたものが、何1つでもあったのなら良いな・・・。

「大好きだよ。」

私が最後に心の底から絞り出した言葉は、花火の音にかき消されて、君には多分届かなかった。


[編集済]

No.48[ごがつあめ涼花]03月28日 15:0503月29日 00:25

【簡易解説】

「自分の笑顔を見た人は自分に関する記憶が全てなくなる」力を持って生まれた少女は、笑顔をひどく恐れ、仮面を被って自分の顔を誰にも見せないようにした。

そんな少女は、ある日、他の街から来た少年と出会い、交流を重ねるうちに少年に対する恋愛感情が生まれる。

しかし、少年と一緒に夏祭りに行った時、思わず込み上げてきそうになった笑顔に驚き、少年の元から逃げ出す。

胸の奥から溢れ出す感情を抑えられなくなった少女は、少年に忘れられれば、今感じている幸せを失って心の平穏が保たれると思い、仮面を外し、涙を流しながら心からの笑顔を少年に見せた。







____________

____________


「ん・・・・・・?ここは・・・?」

気がついたらそこは神社の裏だった。

確か、僕は、夏祭りに来て・・・・・・それで?
何か、足りないような・・・

その時、

どーん、と花火の上がる音がして僕は人のいる方に出た。

花火はクライマックスを迎えていて、色んな色や大きさの花火が一斉に打ち上げられていた。

それは本当に綺麗で、僕はカメラのシャッターを切った。

___だけど、僕はもっと綺麗なものを、どこかで見たことがある気がする。

それはこの花火のように本当に綺麗で、最後にようやく見れた、心から溢れ出た、笑顔のような・・・何かだった気がして、でも、思い出せなかった。
心の中に穴が空いたような感覚が残って・・・。

「泣いているのか、僕は・・・。」

色んな感情が何故か溢れ出て、涙が止まらなくなった。


その後、専門学校を卒業した僕は、もといた街に戻ってカメラマンとして活動し、色んな風景を写真に収めた。
けれど、記憶に残らない『それ』を超える綺麗なものは、見つからなかった。

ある時、自宅でアルバムを整理していると、専門学校に通っているときに街で撮った写真がいくつか見つかった。
神社の桜の写真、廃墟で撮ったタンポポの写真・・・夏祭りの、花火の写真。どれを見ても、やはり、何かが抜け落ちた感覚だけが頭に染み付いていて。だから僕は休みを利用して、再びあの街に行った。

けれど、そもそも何か分からないものを探すなんて無理な話で、何も得られないまま、せめて今後のインスピレーションの元になるかもと街の美術館に立ち寄って・・・そして、見つけた。

シンプルに『笑顔の世界』と名付けられ、公園で遊ぶ子供たちが描かれたそれは、初めて見る絵だった。

だけれど、何だか心の中の穴が埋まるような感覚がして。夏祭りの時のように涙が溢れ、でも、嬉しくてたまらなかった。

だって、『彼女』は、この世界の中で生きているのだと、確信できたのだから。








【了】 [編集済]

No.49[ハシバミ]03月28日 19:5403月29日 00:25

【題名】いくみち

エントリーNo.13 [良い質問]

No.50[ハシバミ]03月28日 19:5503月29日 00:25

【本文】

「そこで尋ねたのです。『どうして頭の上に赤い洗面器なんて乗せているのですか』、とね。すると男はこう答えた。『それは――」
 揺れている。ゆったりと、ゆっくりと。どこか心地の良い揺れ。でも座り心地はあまり良くない。……板? そうか、座布団もないから痛いのか。我慢できないほどではないけど。
 人。棒を持って、舟を操っている。いや、操ってはいないかな。別に何をしているわけでもない。話はしているけど。
 舟。舟? ああ、舟だ。小舟、私と船頭さんだけ。川。ずいぶんと川幅が広くて、左右どちらにも岸は見えない。
「とまあ、このような笑い話です」
 何か音がした。舟に当たる音? ……ペットボトルだ。(⑩)ゴミが流れてきたのか、でも蓋が空いていない。あれ、これ。新商品だ。コンビニの。飲みたかったやつ。
「飲んでも構いませんよ。まあ、あまりお勧めはしませんが」
 飲まないよ、川を流れてきた物なんか。でもほんと、飲みたいな。帰りにコンビニ寄らなくちゃ。……帰り?
 あれ、今度はなんだろう。これは……ん、水温が上がってる? まあいいや、これ、ポーチだ。中にいくつかポケットがあって、縫い目がちょっと変になっているところがあるけど。でもあの子の好きな桜の素敵な布があったから、どうしても作りたくて。
 そうだ、ミドリは花が好きだから。私はきれいなフラワーアレンジメントをもらって、それが嬉しかったから。(②)だから誕生日には絶対お返ししなきゃって。こんなものでも、すっごく喜んでくれたっけ。(③)
 ……えっと、あれ? 私なんでここにいるんだっけ。というか、ここ、どこ?
「考えても仕方のないことは、あまり考えないほうが宜しいかと。ああ、ほら。流れるのは川だけでは無いようですよ」
 何の話? ……歌? なんだっけ、あの、合唱曲。小学校の……いや中学校だっけ。あんまり好きじゃないんだよね、歌うの。
「おや、そうなのですか? それにしては楽しそうに口ずさんでいましたが(⑦)」
 歌うこと自体は好きなんだけど、上手くないから。人前で歌うのとか、そういうのは……って、今歌ってたの? 完全に無意識だった。
「確かにそうですねぇ」
 いや失礼だな、そういうことは思っても口にしないものでしょ。というか誰この人。さっきから……ああ、そうか、夢か。
「そういうつもりでは……ですが合唱とは、みなで力を合わせることを目的としているのでしょう。巧拙ばかりを気にするものでもありますまい」
 それでも気にするし、好きなものが上手くないというのはなかなか悲しいよ。そうそう、運動会でもなぜか全員で踊るのがあって。(⑧)ダンスも本当は嫌いじゃないけど、運動神経もリズム感も皆無だから……やっぱり、上手い方、が……。
「おや、始まるのですね。今回は些か時間がかかったようですが……どうぞ、お眠りなさい。(⑮)ですがお忘れなく。貴女が眠っている間にも、時計の針は進みつづけるのです(⑨)」
 なんの、話……ああでも本当に、眠くて仕方がない……(⑫)
「貴女は……成る程、五十パーセントですか(⑪)」



 ん……冷たい。水……雨?(④)雨。そうだ、あのときも雨が降っていた。小学校の修学旅行。華厳の滝で、すぐにバスに戻らなくちゃいけなかった。野外ライブのときも、二回くらい。降らなかったのは一回。ああそうだ、中学校だっけ、国会議事堂とか行ったとき。あの時も雨が降って、集合写真が撮れなかったんだ。それはどうでもいいけど。
「それはまた、運のないことですねぇ」
 まったくだ。って、あれ、船頭さん、なんで後ろにいるの? さっきまで前にいたのに。
「お気になさらず」
 変なの。まあ夢だからね。って夢の中で寝てたのか、私は。
 ……あれ、また何か流れて……仮面?(①) そういえば昔こんな仮面をつけたアニメの……いや、漫画? 好きだったような……そう、怪盗の女の子が……あれ、それは男だな。あれ、ドラマ?
 駄目だ、覚えていない。覚えて……覚えて? 覚えていない。そう、私は、ずっと、覚えていなくて、思い出さなきゃいけなくて、探して、だって、私が――……写真? そういえばさっきから、水に流れてきているのに濡れていない。変なの。
 写真。写真だ。桜、お花見かな。家族だろうな、両親と、子供が三人、知らない……はず、だよ、ね。(⑤)
 なんでだろう。知ってる。見たことがある。だって、私は、ずっと、探して――そうだ。

『僕にはね、君と同じくらいの歳の子供がいるんだ』

 知っている。私はこの人を、知っている。


「お嬢ちゃん、こんな時間に一人でどうしたの。お家は? お母さんは?」
 小二のとき。確か友達と公園……じゃない、秘密基地で遊んでいて。友達が住んでいる団地の、建物の隙間の。遊んでいるうちに、いつの間にか暗くなっていて。慌てて帰っていたら、住宅街の細い道で迷ってしまって。
 泣きながら歩いていたら、男の人に声をかけられた。(⑥)
「し、らない人、に、はなし、ちゃ、だめ」
 失礼極まりない話だけど、男の人は気を悪くした様子もなく笑っていた。
「はは、そうだよね。ううんと、ああ、ほら、僕にはね、君と同じくらいの歳の子供がいるんだ。これで、どうかな。信じてもらえないかな」
 そう言って手帳から出して見せてくれたのが、花見の写真だ。男の人が示したのは、一番小さな女の子。確かに同い年くらいに見える。
 本当はそれでも気を許しちゃいけなかったのかもしれないけど、「まずは大きな通りに行こう」と手を引いてくれたその人に、私は従うことにした。
 その間もその人は子供の話をしてくれた。名前とか、学校とか……それは思い出せないけど。
 歩いていたのは、多分ほんのちょっとだったんだと思う。走る足音が聞こえて。なんだろう、と思って……聞こえたのは、その人の「次の角を右に曲がって走って」という声。背中を押されて、よくわからないまま走って、角で振り返って、目が、合った。
 知らない男の人が、ゆっくりと抜いて、まばらな電灯に、赤い、こっちに。とっさに走って、だけど追ってきて、明かりが見えて、足音が近付いてきて、走って、人がいなくて、そのまま、道路に、音、クラクション、ブレーキ、ぶつかる、音、音、音、


「あまり」
 声。
「考えても仕方のないことは、あまり考えないほうが宜しいかと」
 親も、あまり話したがらない。それはそうだろう。通り魔に襲われて、逃げた先で事故にあって、事故のショックか事件のショックか、その前後の記憶はほとんどなくなっていた。
 ずっと、そう、ずっと。でも、ずっと覚えていた。私は人を殺してしまったんだって。あの人は死んだ。私を逃がすために。犯人は死んだ。私を追いかけて。私が殺した。お母さんもお父さんも私のせいじゃないって、忘れなさいって、言うけど。忘れられるはずもない。ずっとずっと、誰にも言えない、親にも、だから言えない、悲しい顔をするから、だからずっと、私は人を殺したんだって、ずっと、ずっと。
 ……多分、私が言うそれを、みんな犯人のことだと思ってたんだと思う。今思えば、そんなことを言われた気がする。あなたのせいじゃないから、悪い人なんだから、って。だから誰も知らない。あの人が、私を助けてくれたこと。私があの人を、殺したこと。(⑬)
 そうか、だから探していたんだ。本当のことを伝えたくて。ごめんなさいって、言いたくて。
 写真。そう、この子。私は、探して――……い、た。小学生、同い年。知っている。パッチリとした二重。見ている。しっかりとした眉毛。会っている。口元の、黒子。
「着きましたね」
 え。岸。いつの間に、舟を降りている。でも、どこ。船頭さん。舟に乗ったまま。顔が見えない。近くにいるはずなのに。
「どうぞ願わくば、もう一度だけ、お会いできますように」
 もう一度だけ? 変な言い方。二度は会いたくないとでも言うような。
「お気になさらず。私どもにはこれが挨拶のようなものなのです(⑭)」
 ああ、そうだ。夢だ。夢だから、細かいことは考えてはいけないんだ。
「どうか貴女の生く道に、幸の多からんことを」




 天井。どこ。ベッドの上。家、じゃない。音。ピ、ピ、と聞いたことのある音。テレビで、ドラマで。……ああ、そうか。病院だ。
 学校帰りにコンビニに行って、ジュースを買って。新商品の。その後で、……あ、はは、本当に運がない。人生で二度も通り魔にあう人なんて、そうそういないだろう。
 そうだ。あの時。いつもはミドリと一緒に帰るけど、コンビニは遠回りになるからって、別れたんだった。
「ミドリ……」
 ……あれ。寝てる。ミドリが。……来てくれたんだ。待っていてくれたのかな。何時なんだろう。閉じられた目。少し寄せられた眉。この時期はいつもマスクをしている。花粉症だから。体が起こせない。腕だけでいけるかな。あと少し。……口元の、黒子。
 ああ。ずっと、ずっと。私はあなたを、探していたんだね。
  [編集済]

No.51[ハシバミ]03月28日 19:5503月29日 00:25

【簡易解説】

誰かを殺してしまった、誰かを探さなければいけない、という思いを抱えていた少女。
全てを思い出し、目の前にいる人物が探し人であることを確かめるため、相手のマスクを外した。

(完) [編集済]

No.52[すを]03月28日 20:1803月29日 00:25

十三番目の魔女の独白

エントリーNo.14 [良い質問]

No.53[すを]03月28日 20:1803月29日 00:25

【簡易解説】

 ヒトと魔族が絶えず争う物騒な時代。人間の勇者と友達になった魔族の少女は歌を知り、笑顔を知って幸せな日々を送った。しかし、平穏な日常は一本のペットボトルによって失われ、勇者はあまりに長い眠りに落ちた。

 やがて十年の時が流れた。マスク式の生命維持装置に繋がれて昏睡する勇者の傍ら、桜下で撮った想い出の集合写真に過去を回想した少女は、勇者を目覚めさせる最後の大儀式に挑む。愛した人を救い、平穏なりし日常を取り戻すため、勇者のマスクに手をかけるのだった。

No.54[すを]03月28日 20:1903月29日 00:25

「眠り姫。そんな御伽話を聞かせてくれたのはきみだったろう」

 きみに向けた独り言が暗闇に融けて消えた。悪いのは私なのに、言葉尻に恨みがましさが滲んで嫌になる。そもそも私は王子様ではなくて、十三番目の魔女に過ぎないのに。

 ──私は今日、10年越しのキスをする。

 きみは半透明の棺のなかで、死んだように眠っている。私はきみに縋りついていて、水銀と天然ガラスで描かれた魔法陣と七芒星がふたりを取り囲む。床全体を覆うほどの陣の中には幾何学模様と古代文字がびっしりと連なり、この一年間注ぎ続けた魔力がそこに充たされている。これを循環することで術式を持続展開しようという仕掛けだった。この儀を成し遂げた暁に、ようやくきみは目を覚まし、私たちは日常を取り戻せる。きみの水晶みたいな頬から花蕾みたいな口元までを覆う味気ない仮面(①)を、どれほど疎ましく思ったことか。そんな気の遠くなる日々も、これでようやく終わりを迎える。そう信じて疑わなかった。

「ねぇ、どうか、目を覚ましておくれよ」
 ──お姫様が寝坊助じゃあ、なかなか物語が始まらないじゃないか。(⑮)



 これは、魔女崩れの馬鹿妖魔による、あまりに大逸れた独り相撲の物語だ。
 


 有史以来続く魔族とヒトの争いはここ数十年で激化の一途を辿った。いまや魔境の片隅に位置する常夜の森、その最奥のこのラボからですら、血と硝煙の臭いが感じ取れる。物騒なものだ。

 かといって、昔はどうだったか、と訊かれると答えに詰まることになる。それはそれでひどいものに違いないからだ。

 まどろっこしくて申し訳ないのだけど、ちょっと昔話をしようと思う。具体的には十年前のこと、ちょっと変わり者の人間の話だ。そいつは並外れた力を備える女勇者で、人一倍優しい心を持っていて、一騎討ちで倒した魔女と友達になろうとするような奴だった。そして、その優しさのために身を滅ぼすような。もう分かるだろうけど、つまりはきみのことだ。

 きみは私なんぞと関わったばかりに、同胞であるはずの人間から疑われ、蔑まれ、憎悪の果てに火を放たれた。私が駆け付けた時には遅く、体は爛れ、喉は焼け、生命の残り香すらも感じられなかった。私が優れた魔女だったとしても、これを癒す術など持ち合わせてはいなかったはずだ。それでも諦められなかった私は、ずっときみを救う方法を探し求めてきた。片時も心が休まらなかった。そして遂に念願叶い、ようやく今日を迎えることができた。

「本当に、遠かった。儀式を編むのに六年、陣の構築に三年、体の再生にきっかり一年。──それから、心の準備に一時間。……遅くなって、ごめんね」

 ヒトの体はあまりに脆く、魔族の常識では捉えきれなかった。体の傷を治すにも、私達の加減では却って崩壊を早める始末だ。結局最初の四年あまりは、きみの体内時計を極限まで遅らせて、その間にヒトの医学を学ぶところから始めなければならなかった。機械も魔術も混淆の雁字搦め、思いつく限りの術式を織り込んだマスク式の人工呼吸器で無理矢理死に体を繋ぎ止める暴挙。

 ごめんね。

 もう一度、掠れた声で呟く。返事はない。

 なんとなくばつが悪くて棺から顔をそむけたのち、傍らの写真立てを手に取った。(⑤)満開の桜の樹の下で笑うこども達の真ん中で、まだ少し幼かったきみと変わらない私が屈託なくはにかんでいる。
 あさましいとわかっていながら、私はきみが恋しくて、赦されたくて、ただもう一度笑ってほしくて、流れ落ちる涙(⑥)で何度も思い出を汚してきた。隕鉄製のフレーム、天然ガラスのカバーは、何百何千回とそうするうちに磨り減って、一度も埃をかぶらないままぼろぼろになってしまっていた。もの云えぬきみへの贖罪の念と、楽しげなきみの写真だけが、今日までの私を支えてくれた。見返すたびに何度でも、平穏なりしあの頃、あの日の思い出を呼び起こしてくれた。



       ○

 

 ああ、忘れもしない。その日は街を挙げたお祭りだった。澄んだ空気に朗らかな喧騒がからからと響き、街中がどこか浮かれたようだった。綺麗に舗装された石畳の路上で風船を持った子供たちが駆け、ぶつかられた大人が笑って窘める。男たちは昼間から酒を飲み、女たちがそれを叱る。この街では──ヒトの国では、そうした呑気なやりとりがいかにも日常じみていることに、形容しがたいやるせなさと苛立ちを覚えた。

 魔族と人間は争うことを宿命づけられている。会えば殺し合い、会わずとも憎み合う。私にとってはそれが常識だった。
 優れた魔力を持って生まれた私は幼くして魔女の称号を与えられ、臓腑を吐くような訓練を受け、衣食住の優遇と引き換えに軍役を負った。戦いは義務であり天命であり日常だと教えられていたから、魔軍の先陣を切ってヒトの兵たちを焼き払う日々に辟易こそすれ、そういうものだと諦めていられた。
 
 けれど。先の戦線で私を打ち破った少女は、どうしてか殺すことをしなかった。魔女と知りながら私を生かし、あまつさえ匿った。

「これは純粋な興味だが、きみは変態なのだろうか?」

 斬ったその場で傷を手当しようとする彼女に、そう訊いてみた。魔女とはただの強力な兵士であって、魔軍の中枢に迫るような情報は持ち得ない。こんなのは周知の事実だった。であれば私的に捕虜として囲うなど、凌辱趣味があるとしか思えなかったから。私はヒトでいう12歳くらいから外見が成長しない幼体成熟に類するので、そのあたりの覚悟はしているつもりだった。

「…………………………………………はい?」

 どうやら違うらしかった。どうにも心外という表情で首をかしげる彼女には、劣情はおろか、私の知る限り一切の邪悪というものが感じられなかった。

「違うようであれば尚更不可解だ。私には利用価値があるのか?」
「さあ?でも仲良くなれたら面白そうだろ」
「理解できない。私たちは敵だろう?殺し合う以外の関係性を知らない」
「みぃんなそう言うんだ面白いよね!こっちの人たちまで。……だけどさ、」

 だけど、何だ。

「もったいないと思うね!」
「何がだろうか」
「わっかんないや!でももったいない!!」

 戦場で育った私はものを知らなかったから、彼女の真意が当時全く測れなかった。あれから十年と少し経った今もなお、掴めたものは僅かばかり。ヒトは脆く、賢しく、決定的に私たちとは別種の生き物だった。それでも、

「わかりあうことはできると思うんだ」

 友達になろうよ、と手を差し伸べ、少しだけ恥ずかしそうにはにかむきみは、どうしようもなく綺麗だった。(②)


「悪いねー、探した?」
「いや、きみは目立つからな。それより、出会い頭に抱きしめるという今のきみの行為にはどのような含意があるのだろうか」
「あっはは!私の国では挨拶みたいなものさ!(⑭)これやるとモテるんだ、女の子限定だけど」
「そうか、勉強になる。しかし、きみは既に私からモテていると思うのだが」
「うーん天然って最強だと思うね」

 夕方、川沿い、とだけ聞いていた。きみとの待ち合わせはいつも曖昧な時間、曖昧な場所に偏在するくせに、すれ違ったことは一度たりとも無かったのが不思議だ。
 家のある路地から一ブロック先、明かりの弱い街燈と傾きかけた電柱を過ぎると、よく澄んだ小川にさしかかる。その下流に架かる橋の上、欄干に頬杖をついたきみは、眼下で水遊びをするこども達と楽しげに話していた。仕事帰りのラフな服装がのどかな風景によく馴染んでいた。

「ところで、今日はどこに連れて行ってくれるんだ」
「お?楽しみかい?その顔はわくわくしてる顔だね?」
「きみが言うならそうなのだろうな」
「……あーもう、今日も私の友達が素直かわいい」

 噛み合っているんだかいないんだか判然としない軽口を交わし、私たちは街を歩いた。昼下がりから夕にかかる石造りの町並みは柔らかな色に染まり、来る者拒まずの磊落さを湛えていた。

 しばらくして、広場に着いた。石畳から一転して芝生が横たわるその空間の中央では、樹齢千年を超える一本桜が満開にそびえて私たちを出迎えた。その神木を囲むようにして色とりどりの屋台やテントが並び立ち、辺りは賑やかな様相だった。入口脇の自動販売機できみは飲み物を買い、その足でいくつかの食べ物を買って、私に半分ずつ分け与えた。ヒトの食べ物にも慣れてきた頃だったが、あれは常にも増して美味しかった。

「お、そろそろかね」
「なにが始まるんだ」
「始まってのお楽しみさ!見た目よろしくソワソワしやがれ」

 心なし弾んだ声のきみにつられ、食べる手を止めて顔を上げた。気付けば辺りの人はみな同じ方を向いており、視線の先ではめかしこんだこども達が手をつないで、大きな輪を形作っていた。中には見覚えのある顔がちらほら。いつの間に移動したのか、さっき話していた子たちの姿も見受けられた。
 彼ら彼女らはめいめい口を大きく開き、背後から響く音色に合わせて何か叫んでいるようだった。声の束は不揃いながらも徐々に一つの線形へと収斂し、広場を軽やかにうねり始める。その旋律は輪の外側の大人たちをも巻き込み、幾重にも層を増して辺りを埋め尽くしていた。

『────────────────────』

 身体の奥底でなにかが震えた。それは稲妻じみた烈しさで私の肌をびりびりと伝い、津波さながら流れ込んで、溶岩のごとくカタチをもって滞留した。それは何度も繰り返し興り、そのたびに言い知れぬやさしさで胸の一部分をあたためた。その潜熱が最高潮へと達したとき、私は辺りに満ちた声の波と同化していた。あたかも氷が融けるようであり、また同時に沸き立つようでもあった。
 声が、私から噴き出した。

 私は、うたっていた。(⑦)

 詞も、節も、何も知らない身でありながら、衝き動かされるように今を唄っていた。

 唄、歌、詩。それはヒトを人たらしめる何かの一端であったのではないか。魔族にはそれが無く、ヒトにはあった。のちにこの日を想起する私は、いつもそんなことを思った。尤も、その旋律の只中にいた当時の私には思案の余裕など欠片もなく、きみに手を引かれるまま、こども達の輪の中心へと飛び込むばかりだったのだが。

 それから、四方から照らされた桜の巨木の下で、こども達と写真を撮ってもらった。先ほど輪になって祭の開幕を飾った、文字通りこの日の主役と呼べる子らだ。それだけに、私たちは隅のほうでいいとも思っていたのだが、最前列には既に二人分の隙間が用意されていたので、落ち着かない思いでそこに座った。そこには出自など関係なく、人々はただ、私というひとりの生き物を受け入れて微笑んでいた。たぶん皆、私の隣で燦然と笑うきみにつられて笑ったのだとも思う。


 気付けば、宴もたけなわというところだった。

 やがて歌は踊りへと転じ、幾重もの声の調べ、人の輪は雑多に散り始めていた。
 こどもも大人も老人も、男も女も誰もかも、街中の皆で踊っていた。(⑧)それぞれが好き好きに滅茶苦茶な振りで、しかし一様に楽しげに。

 魔族に体力の限界などは縁遠いが、味わったことのない興奮と感動の波にうたれ、私には歌い疲れや踊り疲れといった現象が降りかかっていた。戦場で幾度となく見舞われた心と魔力の疲弊とは違う、眩むほどに幸福な疲労感。

「さて、と!どうだった!?」

 きみに伴われるまま、まばゆい夜に浮かされたように踊り狂う人の波をするする泳いで抜けていく。広場のすみはなだらかな丘陵になっていて、夜露に少し濡れた芝生に寝そべると、名残りを惜しむような祭の全容が一望できた。

「祭とか、歌とか、踊りとか、あと写真とかさ。魔族にはそういう楽しみがないって聞いたから、教えてやりたいと思って。だからこれは、あたしなりのプレゼントのつもり」(③)

 ささやかだけどな、と付け加え、きみははにかんだ。その表情が、私はとても好きだった。

「ああ。とても楽しかった。ソワソワしたぞ。きみの言う通りだった」

 頭の下で両手を組み、腕を枕に起き上がるきみに、言葉を返した。

「そっか──そっか。よかった!」
「?どうした」

 楽しかった、そう答える私の顔を覗き込むきみは、少し面食らったように見えた。それが何となく気になって尋ねると、きみは、

「だって、笑ってた。おまえ、初めて笑ってくれたから」

 心底嬉しそうに、楽しそうに、そう言った。その顔を見ていると、不意にぽつりと呟きがこぼれた。

「……わかった気がする。きみたちは、楽しいとき笑うんだな」

 聞き受けたきみは、空に浮かぶ三日月の形に笑みを深めた。

「違うだろ?わたしたちは、って言っとけ!そこは!」

 二人分の笑い声は、喧騒に呑まれずしばらく響いた。この時間がずっと続いてくれたらいいのに、と、私は強く思ったのだった。













 けれど、無情にも、時計の針は進み続ける。(⑨)淡々と、刻々と、故にその音が狂いゆくのを、誰に気取らせることもなく。












 ヒトの街は信じがたいほど心地よかった。
 きみと出会うまで暮らした魔族の村落と比べれば、両者の有様は苦しいほどに対照的だった。時折かつてのことを思い出しては、自分だけが、とか他の同胞に申し訳が、とか考えたものだが、それでも出ていこうとは思えないほどに、私はこの街を気に入っていた。人々はあたたかく、環境も静穏そのものだった。
 なにより、この街にはきみがいた。他のすべてと秤にかけても小揺るぎひとつしないほどに、きみの存在は私の世界だった。

 だから、私はきみの重荷になっていないかと不安になることが増えていた。きみに与えられるばかりの身を悔しくも思った。それでも身軽には動き回れない現状が歯がゆかった。

 魔族の寿命はヒトより永く、百年や千年を生き続けるのが普通だとされる。この街で暮らした三年間でさえ、種族の壁はひどく顕に立ちふさがった。日に日に背が伸び、大人になっていくきみの隣で、ほとんど姿の変わらない子供のままの私はあまりにも異質だった。人々の私を見る目は慈愛から奇異へ、そして猜疑へと次第に色を変えていった。私はきみの家に籠って、なるべく外に出ないように努めた。

 三度目の春、三度目の祭を目前に控えたある日のこと。街に出られないなりに、庭の花壇の手入れでもしようと外に出た折、私にとって恐ろしい言葉が囁かれているのを聞いた。聞いてしまった。

「あの女勇者が怪しいだろうよ。見た目の変わらねぇ不気味なガキを連れ帰ってきたのもアイツ、引き取って養ってんのもアイツだ。裏で魔族と繋がりでもしてんじゃねぇか?」
「違いねぇや。噂じゃあの女、戦場で魔族に情けをかけることもあるらしいぜ」
「おいおい本当かよ!裏切り者確定じゃんよ」

 裏切り者。裏切り者。その一言が脳裏にこびりついて離れない。

 体が震え、そのまま凍り付いて動けなくなった。
 私を連れて凱旋した日、きみは街の英雄だった。それが今や、裏切り者だと謗る声すら聞こえるようになってしまった。

 私のせいだ。私が君と暮らしたせいだ。認め、絆され、甘えたせいだ。毒だった。私はきみを蝕みやがて死へと至らしめる一滴の毒に過ぎなかった。一緒にいてはいけなかった。望んではいけなかった。


 愛しては────いけなかったんだ。


 結局その日は何も手につかず、垣の下にうずくまったまま呆然としていた。日が暮れて、きみの帰る音で我に返り、慌てて花壇に目をやった。水もないまま晴天に晒され続けた花たちは、ひどく萎れてしまっていた。


「最近、何かあったのか?」
「……いや、特には。まぁ、あまり外に出られないせいで、少し気は滅入ったかもしれないね」

 きみは申し訳なさそうな顔をして、口をつけていたカップを離した。

「ごめんな。やっぱ見た目が変わんないのって結構目立つらしくてさ……」

 違う。違うんだよ。きみにそんな顔をさせたかった訳じゃない。きみが疑われている、なんて話を伝えたくなくて、咄嗟に別の理由を探しただけだ。……それでさえ、きみに気を遣わせてしまうのだから私は馬鹿だ。

「それでさ、おまえがよかったら、なんだけど。今度、外に出てみないか?遠くの街なら平気だと思うんだよ。あたしは顔が知れてるから付いて行ってやれないけどさ」

 私の塞いだ様子を察したのか、きみはすぐに明るい表情に戻り話題を変えた。その申し出はとてもありがたく、あたたかかった。だから、私は精一杯微笑んで返事をした。

「────うん、それがいいと思うよ」
「そっか。じゃ週末かな。……気を付けてな」

 そう言うときみは再びティーカップを持ち上げて、ふうふうと冷ますようにしながらゆっくりと呷った。男勝りな性格に似合わず猫舌なきみをからかうのが常だったが、今日はそんな気分にはなれなくて、結局同じように口に運んだ。お茶はとっくに冷めてしまっていた。


 翌日、無理を効かせて休暇を取ったきみは、一日私と過ごしてくれた。あまり外には出ないで、昼までベッドでごろごろした。寝ているきみの布団に潜り込むと、普段は寝返りを打ってしまうきみが、珍しく私を追い出さなかった。首に回された手が心地よかった。私はそのまま二度寝してしまって、腕が痺れたときみが音を上げるまで、ずっと離れなかったらしい。それから二人で昼食をとった。一緒に作ったのは久しぶりだった。きみに教わったはずの料理はいつの間にかきみよりずっとうまくなっていて、染まったねぇときみが笑った。染めたねぇと私も笑った。ふたりは笑い合って、それからずっと黙々と食べ続けた。口を開くとなにかが零れ落ちそうで、隙間を埋めるようにただただスプーンを口に運んだ。夕方は庭に出て、木洩れ日の注ぐベンチに並んで腰掛けて、延々とこれまでの話をした。きみと過ごした三年間はあまりにも色鮮やかで、目に映るすべてが宝物になっていた。それら全てがきみのおかげだと信じていた。そうしたことを私が拙い言葉でぽつぽつと語るたび、きみは嬉しそうにはにかんだ。私はやっぱりきみのその表情が一番好きで、目に焼き付けておきたくて、同じようなことばかり話した。話し続けようとしていた。

 どれくらい時間が経っただろうか。こんなにゆっくりと過ごせたのはきみにとって久々のことだったから、溜まった疲れが出たのかもしれない。私の話にうんうんと相槌を打っているうち、きみはそのままの姿勢で舟を漕いでいた。出会ってから三年、少女から大人になってしまったと思われたきみが、この時ばかりは出会った頃そのままのあどけない寝顔だった。私はなぜだか、そのことにすごく安心したように思う。
 
 変わりゆくきみと、変われない私。あまりに違う物差しで生きていた。決して同じにはなれなかった。出会ったこと、愛したことさえ罪であると知った。

 それでも、覚えていることくらいは。前に進んでいくきみのなかにも同じものがあるはずだと、信じ続けることくらいは。どうか、どうか赦してほしかった。

 私は眠るきみの頬に手を触れた。起こしてしまわないように、そっと。それから数拍の逡巡の末、柔くつぐまれた花唇に顔を寄せて──結局、キスはできずじまいだった。それはひとつの契りであって、また翻れば呪いになると思ったから。きみは笑っていてほしい。

 この想いは、私だけが抱えていよう。

 きみにはこんなもの、背負わせたくない。私でさえ持て余すこの感情は、私以外誰一人として知り得ない秘密の果実に他ならない。(⑬)そしてきっと、口にしてしまえば二度と戻ることはできないのだから。

 だから、さようなら。愛しいきみよ。どうか私を憶えていて。そして二度と思い出さないでほしい。ただ、底抜けに馬鹿な友達がいたということだけ、きみのこころの片隅に留めておいてほしい。

 ……さようなら。

 不意に、ひどくあたたかい液体が顔にかかった。(④)頬を伝い、未練がましく流れ落ちるそれを涙と呼ぶことを、当時の私はまだ知らなかった。





 魔女にはたいていのことができる。台風を生み、噴火を起こし、大地を揺らし、津波を喚ぶこともできる。膨大な魔力と、それを制御し具象化する術式を備えてさえいれば。街を離れ、空を飛んでいた私は、そんな言葉を思い出していた。

 それなのに。制御できない感情はそのまま魔力の奔流として体中を駆け巡って、紫電となって全身から迸った。結果、私は空中で体勢を崩して、成す術なく地面に叩きつけられた。

 痛い。痛い。焼けるように痛い。痺れるように痛い。裂けるように、凍てつくように、罅割れるように、潰されるように、真綿で首を絞めるように。なのに、痛いだけだ。死ぬことはできず、放っておいても勝手に傷は塞がっていく。ヒトとは違うんだ、と突き付けられた気分だった。

 やがて全ての傷が癒えて、私は飛び上がろうとした。今度こそ飛んで、どこか遠くへ。きみの知らない遠くの森で、誰とも会わずに、想い出の中で死ねるように。

 ──飛べなかった。魔力の充ちる感覚はある。操作の要領も体が覚えている。現に、不格好でもさっきまではできていた筈なのに。できない自分が、ひどく恐ろしかった。

 私は途方に暮れてしまった。人に染まり、されどヒトに成ることができず。あたたかい陽に近付きすぎて、気付けば魔女ですらなくなっていた。今や何者でもない私に、行き場などないのだと思い知った。

 ああ、馬鹿だ。やっぱり私は馬鹿だった。私では駄目だったんだよ。

 自己嫌悪の渦に呑まれて視界がかすみ、夜闇に溺れるような思いがした。このまま消えてしまうんじゃないかなんて馬鹿げた妄想に取りつかれた。魔族はそんなことで死なないとか、消えてしまえたらどんなに楽かとか、変に冷静で意地悪な声がどこかから聞こえて歯を食い縛った。とめどなく溢れる涙を断ち切りたくて目を閉じたはずが、深まる暗闇に却って心を挫かれるようだ。真っ暗闇の無間地獄には見知ったなにかの影形だけがぼんやりと残っていて、触れようとすると崩れて消える。消えずに残るのは大嫌いな自分ばかりだ。

 もういいんじゃないかな。どうせ謗るのも自分だけなんだ。忘れてしまえ。諦めてしまえ。何者でもない私が消えたところで、悲しむ人などいないじゃないか。どこまでも堕ちていけばいいじゃないか。

 何もかも遠ざかって、次第に真っ暗が拡がって、染み込んで、何も考えられなくなっていく。もういいんじゃないかな。だって、ほら、こんなに眠くて仕方がない──(⑫)

 薄れゆく意識の中、ただ一つだけ、まだ光るものを見つけた。

 見間違えるはずもない。それがきみだった。

 きみと、きみに関わるものだけが私の世界だった。離れても、捨てたつもりでも、それだけは変わることがなかった。きみだった。いつだって私にとって、きみだけが無謬の光だった。

 暗闇はなおも拡がって、きみの光さえ侵食しようとしている。


 いやだ、それだけは、絶対にいやだ。


 無我夢中で体に鞭打ち、やっとの思いで体を起こした。目を開けても光は消えず、目蓋の裏側に焼き付いている。鈍い幻痛も残っていたが、そんなものに構ってはいられない。ただ、ただきみだけを心に描いて足を進める。行き先なんて決まっていた。 

 ごめん。ごめんなさい。知っての通り私は馬鹿なんだ。私では駄目なんだ。私だけでは。きみがいてくれないと駄目だったんだ。わがままを許してほしい。馬鹿な私を許してほしい。それが罪だと分かっていて、なおもきみを愛することを、どうか。私と一緒に間違えてほしい。



 どれくらい経っただろうか。辺りは赤みを帯びた薄明りに照らされていて、地平線のすぐ向こうにはいつもの太陽が待っているように思えた。どこをどう歩いたかも定かではないけれど、きみの待つあの家に帰る道は体が憶えていたらしい。見知った景色が遠くにあった。石畳、街燈、傾いた電柱。こども達が群れ遊んだ小川を過ぎれば、もうすぐきみの家が見える。


 明るかった。不思議なことに夜闇は晴れず、家の周りだけが不自然に明るい。その様は幻想的というよりもいっそ不気味で、私は汗が背を伝うのを感じた。そういえばさっきからむやみに暑い。何か弾けるような音もする。いやいや、まさかね。縁起でもない。だけどおかしいな、いやな臭いがする。饐えたような、噎せ返るような臭い。戦場で散々嗅いできた、なにもかもが燃え尽きる臭い。

 眼が、肌が、耳が、鼻が。感覚と本能のすべてが拾う情報を、その都度理性が破棄しようと足掻いて、それでも矢継ぎ早に押し込められて沈黙していく。認めたくなかった。認めざるを得なかった。気付けば、私は走り出していた。

 


 家が、燃えていた。

 私たちの日常が、想い出が焼けていた。あれはもう、戻らない。無慈悲なまで冷静にそれがわかると、次の瞬間には中に飛び込んでいた。きみさえ無事でいてくれたら。髪や肌が焦げ始めても、委細気にならなかった。
 きみの姿を探した。玄関もキッチンもリビングも空だ。きみは気付いているだろうか。勘のいいきみのことだ、飛び起きて逃げたに違いない。または悪運に助けられて、夜の散歩にでも出ているだろうか。そうであったらいい。
 まだ探していないのは寝室だけだった。一瞬だけ躊躇ってから、すぐに意を決してドアを押し開け、踏み込む。きみの姿を探す。大丈夫、きみはいないに決まっている────

 燃え盛る部屋には、死の臭いが充満していた。ベッドの上にはきみがいて、かろうじてきみとわかる顔をしていた。部屋の隅には一本のペットボトル(⑩)が燃え滓になって転がっていて、これが火元のようだった。反射的に窓に視線を向ければ、やはり割れていた。間違いない、誰かが火薬入りのペットボトルに火をつけて、この部屋に投げ込んだんだ。
 火傷は酷く、火元に向いていた右腕を中心に全身に及んでいた。肩から首にかけて引き攣った皮膚が呼吸を妨げて、ひどく苦しげに喘ぐような調子だった。あるいは悪いガスを吸ったのかもしれない。きみの命は、今に尽きようとしていた。
 死に物狂いできみの身体を抱え、割れた窓ごと吹き飛ばすようにして身を躍らせた。そのまま浅い小川に飛び込んで、転がるようにして纏わりつく火を払う。

 絶え絶えに荒い呼吸を整えながら、焼け爛れたきみの顔を呆然と見つめた。
 心臓の音がうるさい。思考がまとまらない。今にも慟哭したかった。私のせいなんだ。私がきみと関わったからきみはこんな目に遭ったんだ。頭のどこかではわかっていて、それでもきみに甘えたんだ。あまりに浅はかで、あまりに愚かだった。

 どうか私を憎んでほしい。そんな思いが胸をよぎった。
 同時に激しい憤りが沸いた。虫のいい話だ。さっきまで許してほしいだのと散々願ったくせに。

 せめて私も死ぬべきだろうか、心からそう思った。それしかないのだと。何の償いにもならない。それでも罰にはなるかもしれない──


 不意に、胸の前で組まれて硬直していたきみの腕から、何かが落ちて水音を立てた。

 それは一枚の写真立てだった。頑丈そうな鉄枠とガラス板に守られて、中のフィルムは無事だった。あの桜の大樹の下、大勢のこども達に囲まれたきみと私が楽しげにはにかんでいる、在りし日を切り抜いた一枚の写真。

 
 そうだ、きみは多くを私にくれた。歌も、踊りも、想い出も。笑顔さえ、きみに出会うまで私は持ち合わせていなかった。私は与えられてばかりだった。何も──なにも、きみに返せないままだった。このままきみを見送って、そのまま私も死のうだなんて。一体どれだけ恩知らずなんだ、私は!

 助けたい、そう思った。いいや、これは願いなんかじゃない、誓いだ。私の全身全霊をかけて、きみの命を救ってみせると。他の誰にでもなく、私は、私ときみの二人だけに誓い立てた。

 そう決めてからは迷うことなどなかった。事態は一分一秒を争っていて、恐ろしい速さで死の淵へと沈み込んでゆくきみを繋ぎ止める必要があった。だから真っ先に、きみの時間を止めた。きみの肉体と現世との境目に介入し、そのごく限られた空間内においてのみ世界の摂理を書き換えて、数百万分の一という程度にまできみの時間を停滞させた。その周囲を棺桶の結界で覆い、あらゆる齟齬を緩衝・分散することで術者と対象への負担を軽減した。空を飛べなかったのが嘘のように、体も、魔力も、思うがままに扱えた。無感情に力を振るえるのが魔女だとするなら、今の私はなんだろうか。

 ──なんでもいい。ただ、きみのための誰かであれば。

 感情のままに大魔術を乱発した代償は大きかった。足りない分の魔力は未来から前借りするほかなくて、相当命を削ってしまった。生きられたとして、あと百年保たないというところだろうか。寿命の八割は捧げたかもしれない。けれど、それさえ今はどうでもよかった。重要なことはただ、私の命が尽きる前に、きみを救う術を見つけられるかどうか。私の一世一代をかけた、時間との戦いが始まった。



        ○


 
 仔細は省こう。簡潔に言おう。私は、この勝負に王手をかけた。今はこの手記を書きながら、きみにおはようを言うための最後の準備をしている。

 きみを喪ってからの十年間、私がしてきたことは大きく三つに分けられる。
 ひとつ、治療術式の方針を立て、全体の算段を組み上げること。正直な話、これが三番目に大変だった。概要は後述するとしよう。
 ふたつ、魔法陣を構築すること。目的から逆算してどんな陣が必要かを求め、必要な素材を調達し、実際に描き出す。時間はそれなりにかかったが、これはまだ楽な工程だった。
 みっつ、きみの身体の再生──というよりも、再構成。脚や背中といった、まだ火傷の程度が軽い部分なら治癒が追いつくものの、火元に近かった首や顔ではそうはいかない。熱変性した蛋白質は再生のしようがないからだ。結果、培養したきみの体組織を、これまで一年にわたって少しずつ移植することで元の状態に戻してきた。その際、きみの時間が動き始めないよう、空間ごと切り取って作業を進める必要があったから、これも大工事になった。細心の注意は当然として、そもそも膨大な魔力が必要不可欠だ。また少し寿命を削ったかもしれない。これは二番目に難しかった。成功率は二分の一(⑪)、下手をすればそれ以下かもしれなかった。それでも、ここまでやり遂げた。

 そして今日に至り、これから最後の段階に入る。もちろん難易度は桁違いだ。

 前段階の時点で、きみの肉体はきみとは別物に作り替えられた。幸運にも脳への影響は小さく、救出時点で軽い酸欠程度で済んでいたものの、その他の体組織のおよそ五割が以前のきみとは入れ替わっている状態だ。つまり、十年前の本来のきみと、私が今年複製したきみが混在したちぐはぐな状態ということになる。脳に宿る魂は年月を経て肉体にも浸透していくものであるのに、体の半分にそれが宿っていないのだから、いくらきみから生じた細胞とはいえ、これでは拒絶反応を免れない。

 そこで最終段階では、ちぐはぐなきみの肉体と魂を馴染ませることに主眼を置く。具体的には、肉体──とくに脳──の壊死を防ぐために止めていた時間を再び動かし、絶えず齟齬を起こすきみの肉体が壊れないよう修復し続けて、魂が体に染み込むのを待つというもの。言ってみればそれだけの、仕上げとしては単純な過程。この空間に敷いた魔法陣もそれを強力に補助するものだ。
 とはいえ、言うほど簡単なわけはない。馴染むまでにどれだけの時間がかかるか、治すそばから崩れ続ける拷問じみた荒療治がきみにどれほどの苦痛を強いるか、全く見当はつかないのだから。

 それでも、やるしかない。正しいものかと悩み続け、考え続けた方法がこれだ。もう一度きみに会いたい、その一心で進み続けた十年が、報われるのだと信じるしかない。

 
「────展開」

 詠唱はいらない。改良を重ねた魔法陣は起動にただ二言しか要しない。あらゆる準備、あらゆる覚悟をここに重ねた。
 きみの顔へと手を伸ばす。代謝と呼吸と循環を代替し、時間停滞を複合させた生命維持装置を外せば、いよいよ後戻りはできない。このマスクはある意味、決戦の火蓋そのものだ。きみと見る明日を、私たちの平穏を取り戻すため、今鉄火場に飛び込むんだ。

「────起動」

 短く、ただ一言。足元を莫大な魔力が循環し、碧い炎のように立ち上がる。

 震える手に力を込めて、きみの口元を覆うマスクを外す。

 視界が、極光に包まれた。



 一瞬の後、眩い光が晴れるのを待たず、きみの身体に手を当てると、おかしな現象が起こっているのがわかった。
 暴れている。そう形容するのが正しいだろうか。触れた指先から伝わる体温は、燃えるような熱さと凍てつく冷たさを行き来していた。予想通り、尋常ならざる拒絶反応が起こっていたんだ。それを抑え込むように、部屋全体を覆う魔法陣の結界が治癒を促し、同時に熱を奪うことで炎症を抑えている。どうにか拮抗し、崩壊や剥離は防げているようだった。それでも、時折身体のあちこちに綻びができる。術式による自然治癒が追い付かない部分があるようだった。その度に私が外部から治癒を施す。それを繰り返して、なんとか保たせるといった危うい均衡が続いていた。

 君の顔を覗き込む。うなされるような、ひどく苦しげな表情だ。口からは聞いている私でさえ胸の詰まるような呻きが漏れる。無理もない、何度も死に、その度に生き返らせるような無茶をしているのだから。それでも、きみは折れないと確信していた。

 気の遠くなるような時間だった。薄碧い光の立ち込めるなか、絶えず自壊するきみの身体をただ無心で治し続けるうち、自他の境界すらもあやふやになるような不思議な感覚にとらわれた。

 今にも倒れこみそうなほど苦しい。吐きそうだ。細胞のひとつひとつがばらばらに弾けて、どろどろに溶けて、全身から流れ出してきそうだった。自分なのに、自分じゃない。自己矛盾に陥った現在形の症状を、質を伴って追体験していた。

 望むところだ、と思った。この痛みでさえ、きみが今も生きている証、戦っている証なんだ。

 痛い。熱い。冷たい。痛い。蛹のようにどろどろした苦痛に抗わず、さらに一段入り込む。すると、見えた。感じられた。閃いた。やっぱりそうだ、この痛みこそが、膠着した状況を収拾する切っ掛けになると確信した。

 きみの苦しみが、この手を通じて私に流れ込んでくる。頭が爆発するように熱くて、腕や足先は千切れそうに冷たい。体の中に温度差があって、それを埋めようと何かを送り合っている。それは熱であり、もっと密度の大きいなにかであるようにも思えた。たとえば、そう、記憶のような。
 肉体には、時間とともに魂が宿る。元々のきみに宿る魂の重さが、後から移植された組織には足りていないんだ。そして、その重さに類するものが記憶だとしたら。元の身体が憶えていて、作り物の身体が知らない記憶をここで再演することができたら。


 ──やるしかない。私には、それができる。


 もとより、私のすべてはきみにもらった。きみと過ごした日々のすべてが、私の身体を作っている。思い出すことは容易だった。忘れたことなんてなかった。この身の内から湧き出す声を、ただ解き放つだけでいい────!!


 私は、



『────────────────────』


 もう一度、うたっていた。

 
 ──思い出して、思い出して、思い出して。

 全身をひとつの楽器のように。声の限り歌い、命の限り笑う。きみがくれた歌で、きみがくれた笑顔で、きみがくれた想い出のすべてで以てきみの魂に呼びかける。私を、もう一度、視て。

 虚ろな瞳に、私の姿が映るように。真正面から呼びかける。


 果たして、変化は起きた。


 きみの目から、一筋の涙がこぼれた。

 同時に、きみの身体が爆発的に熱を持った。これはきっと、魂の咆哮だ。私の声が聴こえた、私の顔が見えた、それに応えようとしているんだ。脳に刻まれた私との記憶を、私を憶えていない全身に向けてありったけ送り込んでいる。魔法陣の冷却と治癒をはるかに上回るすさまじい熱量が、きみと私の肌を焼いた。

「構う、ものか──────!!!」

 全身全霊を魔力へと変換し、意識すら手放す勢いで治癒に回す。

 生きようとするきみと、生かそうとする私。絶対に負けられない最終戦争の幕を引くように、再びの極光が空間を塗りつぶしていった。




      ○

 

 次に目が覚めたのはいつだったろうか。何十分、何時間、あるいは何日か眠っていたかもしれない。鼻腔をくすぐるやさしい匂いに惹かれるように、ゆるゆると意識が浮上した。

 ────ぅ、

 ────ょぅ、

「おはよう!!」

 声に引っ叩かれるようにして覚醒した。そうだ、私はきみを救えただろうか。まだ視界と意識は霞がかっていた。あれだけ無茶をしたのだから当然だろうとは思う。思うのだけど。はやくこの目を開きたい。だって、この声は───

「……おはよう。ごめんな、心配かけちゃって」

 きみだ。きみがいた。暗闇の先、霞の向こう、真っ白にやさしい朝日のもとに、片時も絶えず想い続けたきみの姿があった。私は嬉しくて、うれしくて、声も出せないままきみに飛びついた。きみはそれを大事に抱き留めてから、申し訳なさそうな笑顔でもう一度おはようを言った。

 違う、違うんだよ。そんな顔をしてほしいわけじゃないんだ。けれどもそれを上手に伝えられるほど、私は頭がよくはない。だから、もう一度きみを強く抱き締めて言った。

「……別に、心配なんてしてないからね。これは、ほら、私の国では挨拶みたいなものだから」

 きみは目を白黒させて、それから吹き出した。これは一杯食わされたって面白そうに笑った。曇り一つないその笑顔がまぶしくて、それなのに少し悔しくもあった。確かに心配していたけど。笑ってほしいと願ったけど。私の知るきみはいつも余裕しゃくしゃくで、その顔を崩してみたいとか思って。

 私は、きみにキスをした。

 ──やっぱり、王子様なんて柄じゃない。

 歯と歯のぶつかる不格好なキスはあんまりにも風情がなくて、いろいろと台無しになってしまった。結局、どちらかというと私のほうが照れている。寝坊助なお姫様以外にも配役上の問題は山積みなようで、そんな私たちの物語は、なかなか始まってはくれないみたいだった。




          了
 
[編集済]

No.55[シチテンバットー]03月28日 23:1903月29日 00:25

【タイトル】
本日のLTWはお休みです

エントリーNo.15 [良い質問]

No.56[シチテンバットー]03月28日 23:2203月29日 00:25

【簡易解説】
「時代-JiDai-」というタッグが諍いを起こし始めたので、二人の注意や関心がこちらに向き本格的に喧嘩が起こらないようにするために、仲間のマスクウーマンがマスクを脱いだ。

【以下簡易じゃない解説】
「はい皆さんこんにちは。本日のLTWは予定を変更してYouTubeのLTW公式チャンネルから生放送でお送りします。実況は私、海見戸蘭、解説は元丸々井レスリングの世界王者である78バテオさんにお越しいただいています。バテオさん、よろしくお願いします」
『よろしくされていいんでしょうか』
「はい本日はですね、ご覧の通りリングの上にクイズでよく見かけるテーブルとボタン、そして観客の皆様が誰もいない、という状態になっています。バテオさん、これは一体どういうことなのでしょうか?」
『はい、簡潔に言いますと、ここ最近のLTWにおいて怪我人が多発していることを重く見た会長が、怪我をしないことへの意識の徹底を目的として講習会の実施に加え一ヶ月の興業自粛を決定しました。それが大体三週間くらい前ですね』
「その通りでございます。それを受けての今回の企画というわけです!」
『怪我を理由とした自粛と今回の企画の因果関係が全く見えてこないのですが』
「要するにですね、単に興業を自粛するだけでは退屈するということと、これを期に普段は確認できないレスラーの知識力を測ってしまおうというわけです」
『前者は理解できますが、後者は意味あるのでしょうか?』
「プロレスは単に暴れるだけでは勝ちを掴むことが出来ません。時と場合に応じて素早く戦法を変えたり対応する必要があるのです。プロレスにおいて知識力もまた重要な能力の一つです」
『それはたしかにそうなんですが、それってクイズで使う能力とはまた別種な気が』
「さあリングには今回のチャレンジャーの皆様とリングアナウンサーの菱形刃さんがいます。菱形さーん!」
「話無理やり切りませんでしたか?」

〔はい!こちらはリング上となっています。そして今回のクイズ企画に我こそはと名乗りを上げたレスラーの皆様を紹介します!まずは先日見事LTW世界王座を獲得したチャンピオン!朝原義人選手です!朝原選手、意気込みをどうぞ!〕
〔はいそうですね。これを見ている皆さんが楽しんでいただけたらと思います〕
〔いつも通り真面目一筋なコメントありがとうございました!1月中旬に鋼拳骨選手から王座を奪還してから、LTW王座オープンチャレンジマッチ、ようするにその場で誰からの挑戦も受け付ける試合を行い続けその度に防衛に成功、LTW王座の価値の上昇に大きく貢献しました。今回の措置でも大会が開いた講習に積極的に参加するだけでなく、仲の良いレスラーを集めて自主的に勉強会を開くなど非常に真面目な人柄で知られています〕
「ファンサービスも旺盛と観客の皆さんからも評判ですからねえ」
〔その通りです。はい、続いてはLTW女子王者にして団体の台風の目と言っても過言ではない存在!ビッグインシデント香織選手です!最早わざわざ説明するまでもありませんが、香織選手は19年聖夜での一戦で王座を獲得して以来、王座戦であるか無いかに関わらず悪を成敗し続け、観客を魅了してきました。その豪快ながら華麗なファイトスタイルから、香織選手のファンと公言しているレスラーが団体内外に大勢います。それでは本日の意気込みをどうぞ!〕
〔よろしくお願いします。正直クイズだと善も悪もないのでどうすればいいかよく分かりませんが、とりあえず全力は尽くしたいと思います〕
〔ありがとうございます!そしてリングサイドでは親友のブレイカー七海選手とキイナ選手が応援に駆けつけました。では香織選手、お二方に何か一言!〕
〔応援するなら恥ずかしいから音量控えめで〕
<ガンバッテー!
〔ありがとう〕
<アイシテルヨー!
〔うるさい〕
〔親友に対する温かいクレームありがとうございました!続いては今リングを席巻し続けているデーモンコア・ブラザーズの片割れであり恐るべき兄、カーラー・カタストロ選手!〕
〔We transcend everything.〕
「なんて?」
〔ああお二方はゴリゴリのアメリカ人なので、通訳を用意しております・・・俺たちは全てを超越する、だそうです〕
「なるほど、デーモンコア・ブラザーズにピッタリな力強いフレーズですね!」
『いや力強いのは同意ですけど、いつも試合に勝ったあとパフォーマンスで叫んでますよね?ちゃんと観てます?』
〔デーモンコア・ブラザーズは3年前にアメリカでデビュー。アメリカのタッグ戦線を暴れ散らした後今年の1月上旬に電撃来日、アンフォーチュン・タッグチームを相手にした鮮烈なデビュー戦を皮切りにタッグ戦線を蹂躙。タッグ王座挑戦が今か今かと期待されています。リング内を『国』『テリトリー』と呼び、『俺たちの国では挨拶みたいなもの⑭』と本人が述べている強烈なラリアットを始め、パワースラムやコーナーへのランニングスプラッシュなど荒々しくパワフルなファイトスタイルで相手を蹴散らし、必殺技である『シャドーメーカー』、これは相手を担ぎ上げたメル選手をカーラー選手が肩車してからパワーボムで叩きつける合体技なんですが、これを返した人は現時点のキャリアで一人も存在しません〕
『両者2m越えてますからね。そんな高所から叩きつけられたら返せないでしょう』
〔なお弟のメル・カタストロ選手は控え室で爆睡してたので置いてきたとのことです。ところでその仮面ですが入場時に着けてても試合では外してますが、着けたままで大丈夫でしょうか?画像を見るクイズもあるのですが、視界が確保できないかもしれませんが〕
〔No Problem〕
〔むしろ仮面を被ることで神経が刺激されてありとあらゆる能力が急激に上昇できる。普段はその必要はないほど強いので外してるが知識面では自信がないので着けてる①、とのことです〕
『明らかに脚色が付けられてますよね?』
「カーラー選手が内気だからという噂もありましたが」
〔チガウワ〕
〔違うとのことです〕
『今日本語喋りませんでしたか?』
〔さあ最後は時代-JiDai-プロデュース第二段!先日LTWにてプロレスデビューを発表し界隈を盛り上げたこの男!玖丈ケン選手です!〕
〔あ・・・どうも〕
〔いやあそれにしてもデビュー戦を行う前から集まる期待の視線!どのようにお考えですか?〕
〔まあ・・・まずは動いてみないことには何とも言えない感じです〕
〔ええ、しかしながら2月末に時代-JiDai-プロデュース第一段としてデビューした海老原佳奈子選手が着々とスターダムの階段を駆け上がる姿を見て〕
〔それにしても・・・初めてリングに上がるのが初心演説でも試合でも無くてクイズ企画だとは思いませんでした〕
〔LTWじゃよくあることです〕
『よくあっていいことなんですか?』
〔さて、リングサイドには神宮寺球児選手と蒼代翔選手の時代-JiDai-のお二方、そして海老原佳奈子選手が応援に駆けつけました。キャリアも後期に差し掛かった神宮寺選手と蒼代選手が『新しい時代を作る』をテーマに結成したのが時代-JiDai-、そしてタッグ戦線で活動する傍ら『新しい世代の花を咲かせる』として期待の選手のスカウト、バックアップも行っております。そして海老原選手は先ほどお伝えした通りそのプロデュース企画の第一段としてデビュー。海老を型どったコスチュームやマスクや新人とは思えないほどの盤石な試合運びが話題となっています。それでは代表して海老原選手、玖丈選手に一言どうぞ!〕
〔優勝してエビたくさん食べようね!〕
〔ありがとうございます。では玖丈さんも一言どうぞ〕
〔はい・・・自分甲殻類ダメなんです〕
〔あっ〕
「あっ」
『あっ』
〔・・・えーと、以上の四名がこの後から始まるクイズ企画に参加します。応援よろしくお願いします!〕
「ありがとうございました。菱形さんにはこのあと問題文の読み上げもしていただきます」
『軽く放送事故起きた気がするんですが大丈夫ですか?』
「そして私たちはクイズ企画の実況解説を担当します。よろしくお願いします」
『司会はともかく、クイズの実況解説ってどういう意味ですか?』
「せっかくやるのですから、優勝者には勿論報酬が用意されています。賞金10万円と、それから私なりのささやかなプレゼント③として私のサイン入りTシャツが副賞として付いてまいります」
『誰得なんですか、というか視聴者の皆さんへのプレゼントならともかく、所属選手が所属アナウンサーのサイン貰っても貴重さとか感じないでしょ。ちょっと控え室によって頼めば貰えそうだし』
「さあLTW特別企画のクイズ企画、まもなくゴングです!」
『スルーしましたか?』

「さて残っている問題もわずかとなってまいりました。現在の順位を見て参りましょう。1位は820ポイントで本日デビューの玖丈選手です!」
『今日をデビューとしてカウントしていいんですか?しかし思いの外プロレスに関する知識に長けていて驚きましたね。ファン歴20年の人でもあれだけ答えられる人はそうはいませんよ』
「そして2位は610ポイントでビッグインシデント香織選手です。バテオさん、香織選手も悪くはないんですけどね」
『ええ、フリップで答えたりする問題はほぼ完璧なのですが、如何せん早押しで押し負けてるところが目立ちますね』
「普段は自分の犠牲を厭わないファイトスタイルですが、今回は少し慎重さが見られますね」
『まあクイズのスタイルとファイトスタイルが一致するとは思えませんからね』
「しかし先ほども言った通り、早押し以外ではほぼパーフェクトと言える成績ですね」
『ええ、特に先ほどの・・・えっと・・・爆弾回すやつ』
「ああ、『電流爆破デスクイズ』ですね?」
『何でそんな名前にしたんですかね。ともかく、予め時間が設定された時計を渡され、一つの問題文を出す、それに対して答えを出したら次の回答者に解答権と時計を移す・・・を繰り返して、時計の針が一周してアラームが鳴ったときに解答権を持ってた人がマイナス50ポイント、でしたっけ?』
「その通りです。まあ時計というよりアナログのタイマーと言った方が正確なのでしょうが。そしてその時の問題文が『LTW管轄王座の戴冠歴がある身長180cm未満のレスラー』でした」
『わりと問題文はシンプルですが、こういった場面だと案外出てこないんですよね』
「はい、朝原→香織→カーラー→玖丈→朝原・・・という感じで回ってきたのですが、およそ4巡目でしょうか、朝原選手が詰まってしまいました」
『朝原選手は今日に備えて色々と勉強してきたらしいですが、それが仇となって睡眠不足だったとのことです。我々も一度は体験したことがあるかと思われますが、眠くて眠くて仕方がない⑫状態だと思考回路が全く機能しなくなる感覚を覚えるんですよね』
「『こういう状況だし、やはり王者である俺が勝って皆さんを喜ばせたかった』と話す朝原選手、王者としての誇りと真面目さとファンを愛する心が今回は裏目に出てしまいました。その朝原選手、中々思い出せないまま時計の針は進み続けていきます⑨。これはもうダメかと思われたのですが、残り数秒で正解!これにより突如時計が香織選手の手に渡ることとなりました」
『あのときはもうダメかと思いましたがね』
「流石の香織選手も驚きを隠せませんでしたが、動揺は一切見せず即座に解答。これによりカーラー選手の番でアラームが鳴るということになりました」
『香織選手、女子選手との交流が広いそうなので、それが活きたのでしょうね』
「はい、そして3位が320ポイントで朝原選手。先ほども述べた通り、不調が祟っているようです」
『はい。よく見てると分かるのですが、先ほどからたくさんあくびをしているようです』
「ええ、あくびをしすぎて涙が頬を伝う⑥場面もありました。しかしながら強みが見られた場面もありましたね」
『はい、何でも趣味の一つが音楽を聴くことだそうで、プロレスラー入場曲イントロクイズではほぼ無敵状態でした』
「中でも凄かったのが、往年の大スーパースターであるブレット・ハートさんの問題でした」
『はい、何というか『え、音鳴った?』と思うほど一瞬でしたね』
「ええ、そして最下位はカーラー・カタストロ選手。50ポイント。やはり日本語が苦手なのが響いているのでしょうか」
『いやそもそも日本人じゃない人が混じってるのに問題文が日本語でしか読み上げられないのがおかしいでしょ』
「翻訳の人もいたので大丈夫かと思われたんですけどね」
『いや、早押しクイズで問題文が読み上げられるのと並行して翻訳するとか酔狂以外の何者でもないですよ。大体始まる前もそうでしたけど、カーラー選手が何か長々と喋った後、翻訳の人が『ご飯ですよですか?』て言ったりしましたよね?明らかに言ったフレーズの長さ違いましたよね?』
「しかしそんなカーラー選手にも見せ場がありました。超難問として出題されたスペシャル問題、基本正解したら10~3?ポイントのところ50ポイント獲得できるチャンスを見事二回物にしました」
『あれ取れたのも問題文が英語で読み上げられたからですよね?カーラー選手もっと怒ってもいいんじゃないんでしょうか』
「めっちゃ楽しんでるように見えますね」
『お人好しかよ』
「さて、ここからはラストスパートとして、難易度に関わらず正解したら一律50ポイント獲得となります!しかし不正解の場合は逆に50ポイントマイナスとなります!」
『一発逆転のチャンスがあるというわけですね』
「ええ、朝原選手が一気にポイントを減らし、カーラー選手が一気にポイントを獲得する可能性もあり得るわけです」
『前者はともかく後者は絶望的では?』
「はいそれではラストスパート参りましょう!クイズ、リンギング・ア・ベル!」
カーン
〔早押しクイズです。これから以前行われた特別興行の画像が次々表示されます。その興行の名称をお答えください〕
「はいまず一枚目。これはスタッフの方が準備をしている写真ですね。屋外のようですね。かなりアップで撮られてるのでそれ以外はよく分からないですね。そして二枚目・・・これはチャンピオンベルトを肩にかけているプロレスラー・・・三枚目は」
ピンポーン
「おっとここで香織選手がボタンを押した!答えをどうぞ」
〔えー、『桜人の乱』〕
カンカンカーン
「お見事正解!香織選手追い上げを開始!それにしても三枚目、映ってすぐにボタンが押されたのでよく見えませんでした。三枚目は・・・ああスタッフが数十名で集合写真撮ってますね。これはどこで気が付きましたか?」
〔あまり屋外で試合をした記憶がなくて、それに後ろに桜が写ってますよね?外でやるときに桜が咲いてたのって本当にこれくらいしか思い付かなかったので〕
「はいまさにその通りです。屋外で興行を開いた回数は37回。そのうち特別興業はわずか6回でその中で桜が咲く季節、すなわち春に行われたのは、まさしく2018年3月の『桜人の乱』のみです。通常興行を含めると何回かあるのですがね。それでは画像を振り返っていきましょう。まず一枚目ですが、これで気付ける人は気付けるのでしょうか?」
『はい、よく見ると分かるのですが、スタッフがリストバンドを付けてるのですが、これはこの興行限定のデザインとなっています。まあこれで気付くのはかなりむずかしいでしょう』
「そして二枚目。こちらはどうでしょう」
『はい、この写ってるレスラーはマッド・マイセルフ選手なのですが、彼が王座を所持してる状態で迎えた特別興業はこれだけなんですよね』
「そして三枚目は先ほど申した通り。四枚目はマッド・マイセルフ選手の入場シーンですね。マイセルフ選手恒例のダンサーの皆で歌って踊る⑦⑧賑やかな入場です」
『ダンサーがその時期や土地などに合わせた衣装を着用すること、会場の電工掲示板に特別興行の英名と年代が表示されることが恒例となっています。この画像では英名は載ってませんが、年代はちゃんと表示されてること、ダンサーが桜をモチーフとした衣装を着てることからある程度予測できます』
「なるほど。そして五枚目ですが・・・ああこれはストレートに興行名が書かれた看板ですね。名前はモザイクで隠されてますが、サブタイトルはそのまま表示されてますね」
『『桜ひらひら、人はふらふら』ですね。わりと興行のサブタイトルって印象に残るんですよね』
「はい、桜の写った集合写真によって香織選手が貴重な50ポイントを獲得しました⑤。さあ二問目に参りましょう。クイズ、リンギング・ア・ベル」
カーン
〔フリップで答えてください。これから三枚の画像が表示されます。この選手の名前を三名とも答えてください〕
「なるほど。それでは画像をどうぞ」
『・・・これはなんでしょう、毒霧ですかね』
「ええ、毒霧を知らない方に説明すると、着色された液体を口に含み、相手の顔に吹きかけて視界を封じる④技です。まあぶっちゃけ反則なんですが、見た目や使い所など、インパクトという意味では非常に強力です」
『その毒霧をレスラーがしている画像が三枚表示されてて、その人の名前を答えろということですね。一人はマスクマン、女性もいますね』
「あくまで個人的な観点ですが、女性が毒霧するイメージはそんなに無いですね・・・さて答え出揃ったようです。一斉にどうぞ!」
『・・・なるほど、大体同じ感じですね』
「それでは正解を発表します。正解は・・・左から『TAJIRI』選手、『BUSHI』選手、『アスカ』選手です。カタカナや平仮名でもおまけで正解としますが、漢字やスペルが間違ってる場合は不正解とします。さて、おや全員正解ですね。素晴らしい!全員50ポイント獲得です」
カンカンカーン
『カーラー選手、全員英語で書かれてますが』
「二名はもともとリングネームがアルファベット表記でしたし、明日華選手は今アメリカの団体で活動してるのでアルファベット表記でも問題ないです」
『いやそれは分かるんですけど、めちゃくちゃ字が上手くないですか?』
「あ、本当ですね。物凄く達筆です」
『今現地の人でも筆記体書けない人多いのですがね・・・なんか向こうざわついてるじゃないですか。あんなゴツい人が物凄く達筆だったらそりゃざわつくでしょ。50ポイント取ったこと誰も気にしてないでしょ』
「はい皆さん落ち着いてください・・・さて、続いての問題行ってみましょう。クイズ、リンギング・ア・ベル!」
カーン
〔早押しクイズです。入場で水が入ったペットボトルを〕
ピンポーン
「おお早い!現在トップの玖丈選手!かなり早い段階で押した!さらに相手を突き放すことになるのでしょうか!答えをどうぞ!」
〔トリプルH選手〕
カンカンカーン
「正解です!!これは凄い!!相手の三名も驚くこと以外出来ない!それではどんな問題文だったか確認しましょう」
〔入場で水が入ったペットボトルを持ち、水吹きのパフォーマンスを行うことで知られている、本名をポール・レヴェックというWWE所属のスーパースターは誰でしょう?〕
「たしかに正解はトリプルHでした。玖丈選手よく分かりましたね」
〔まあ・・・水が入ったペットボトル持って入場するのトリプルH選手しか知らなかったしちょっと勝負に出ました〕
「なるほど、ペットボトルが重要だったのですか⑩。勝負に出た玖丈選手、突き放しにかかります!さて続いての問題です!クイズ、リンギング・ア・ベル!」
カーン
〔マルバツクイズです。キイナ選手は高校生時代に陸上部に所属していた。マルかバツか〕
「おっとここでキイナ選手に関連するクイズが出ました」
『ええ、わりと幼馴染みと一緒にレスラーになることも少なくはないのですが、キイナ選手はそういうのが無かったとのことです』
「さて香織選手少し悩んでるようですね。キイナ選手はとても素早いので高校時代は陸上やっててもおかしくないとは思いますが。まあ最悪勘で選んでも1/2の確率で正解しますからね⑪」
『しかし正解するとしないとで100ポイント差がついてしまいますからね。慎重になるのは当然かと』
「カーラー選手くらいに即決してもいいのですがね」
『あれは即決というより開き直ってるだけでは?』
「さて答え出揃ったようです・・・それでは解答オープン!・・・カーラー選手はマル、それ以外の三名はバツと。正解は・・・バツです!カーラー選手以外のお三方正解!」
カンカンカーン
『カーラー選手、とうとう0ポイントになってしまいましたね』
「えー正しくは『部活動には所属してなかった』とのことです。当時はとにかく筋トレしてたとか」
『あ、当時の写真があるとのことです』
<エ"ッ
「おージムでトレーニング中の写真ですね。ダンベル持ちながらピースサインしてます」
『笑顔でダンベル持ち上げてますけど、あれ50kgて書いてありますからね』
「今はわりと細めの体型で素早い動きで相手を翻弄するスタイルなので、こんな感じで筋肉質な体だったのは少し意外でしたね。キイナさんこれはどういうことでしょうか?」
〔えーと、実を言うとけっこう筋肉質な体に憧れてて、というか今も憧れてるんですよ。だから昔はあんな綺麗な肉体美②!て感じだったのに、気が付いたらこんなに細くなって、ちょっと残念です〕
『まあ得意とするファイトスタイルは人それぞれですから、自分の理想と違うというのもあるかもしれませんね』
「さてもう少しお付き合い願います。クイズ、リンギング・ア・ベル!」
カーン
〔早押し入場曲イントロクイズです。今から選手の入場曲が流れます。分かった時点でボタンを押して選手の名前を答えてください〕
♪~♪~♪~
「さてイントロが流れ始めました。まだボタンを押す気配はありません」
♪~♪~♪~
♪~♪~♪~
♪~♪~♪~
『・・・イントロ長いですね』
♪~♪~♪~
♪~♪~♪~
バシッバシッバシッ
♪~♪~♪~
ピンポーン
「おっと玖丈選手が押した!答えをどうぞ!」
〔タンバリン松本さん〕
カンカンカーン
「正解です!玖丈選手さらに突き放しにかかります!」
『あーなるほど』
「えー解説をしますと、かつてLTWに所属していたタンバリン松本さん、残念ながら結果を残すことが出来ませんでしたが、入場曲の『支離滅裂』がやたらとイントロが長く歌い出しが中々始まらない⑮ことが話題になりました」
『ちょっと待ってください』
「おや朝原選手が手を挙げてますね。どうなさいましたか?」
〔あのーこれ押してるんですけど〕
バシッバシッ
〔反応しないんです〕
『あー本当ですね・・・』
〔たしか玖丈選手より早く押したと思うんですが・・・〕
「おっとそうですか、リプレイで確認しましょう・・・あーたしかに玖丈選手が押すより数秒早く朝原選手が押してますね。しかし押す力が強すぎたのか壊れてしまったようです。これはどうしましょうか?」
『とりあえずボタンを修理しましょう』
「朝原選手は今の問題を無効にしてほしいようですね」
『玖丈さんもそれでいいようですが・・・』
「おっとリングサイドから抗議が来ました。どうなさいましたか?」
〔いちいち物言いつけてんじゃねえよ!男らしくねえぞ!〕
「青代選手がリングサイドから抗議をしてますね。少しヒートアップしてるようです。玖丈選手がリングから降りて宥めてますが聞き入れていないようです」
〔おい止めろ止めろ!落ち着けや!〕
「あ、神宮司さんが止めに入りました」
『あー止まりませんね、それどころか時代-JiDai-の二人がちょっと不穏な雰囲気になってしまってますね』
「おっとこれはいけません、胸ぐらを掴み始めました」
『スタッフが宥めようとしてますね』
「流石にこのシーンを中継するわけにはいかないので映像を切り替えましょう・・・はい、えー思わぬハプニングがありましたがとりあえず香織選手にインタビューを・・・ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?????」
『マズイよ!!これはヤバい!!!』
「なんと海老原選手!!!突如自らのマスクを脱ぎ捨てた!!!丁度カメラが別のものを撮ってたからよかったもの、映されたら・・・あ、七海選手が自慢の体格を活かしてカメラに立ちはだかり映らないようにしています!!!これは思わぬファインプレイ!!!」
『いきなりどうしたの!!!??』
「少し前までいがみ合ってた時代-JiDai-の二人も慌てふためいて海老原選手に覆い被さっています!!!外から見えないようにガード!!!えっと・・・あっ無事にマスクが再装着されました!!海老のマスクに隠された海老原選手の素顔という彼女本人以外誰も知らない知るべきではない秘密⑬が全世界に公開される最悪の事態は免れました!!!」
『いやーびっくりしました・・・』
〔海見さん!海見さーん!!〕
「どうしました菱形さん!!」
〔えーと海老原選手によりますと、『二人が喧嘩を始めかけたので殻を剥いて注意を反らそうとした』【問題文】とのことです〕
『殻を剥くて』
「喧嘩の解決法としてはあまりにも斬新というかなんというか・・・おっと皆さんがリングサイドに降り始めました」
『皆さん海老原さんを気にしてますね』
「おっと青代選手、朝原選手に食ってかかります。皆さん止めてますね」
『あーしかし青代選手、朝原選手を突き飛ばしました。よくありませんね』
「あっ突き飛ばされた朝原選手がカーラー選手に激突しました。これは痛い・・・あーっといけません!!いけません!!」
『マズイマズイ!!!』
「カーラー選手、今ので激昂したのか青代選手に襲い掛かった!!!神宮司選手が救助しようとしますが返り討ち!!」
『ダメダメダメダメ!!!』
「あっと玖丈選手がカーラー選手に飛びかかった!!!朝原選手も青代選手に殴りかかる!!!いつの間にか海老原選手も女性陣に襲いかかってる!!!寝てたはずのメル選手もいつの間にか乱入してる!!!何ということだ!!!男女関係なく入り乱れた大乱闘!!!」
『ヤバいヤバい!!!』
「菱形さん危ないので下がってください!!!えーとLTWクイズ規定第7条『クイズ中の乱闘を禁ずる』に則り、全員失格となります!!!つきましては今回の副賞であります私のサイン入りTシャツを視聴者の皆様に1名限定でプレゼント!!それでは次回の放送でまたお会いしましょうさようなら!!!」
『こんなオチあり!!!??』

【終】

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No.57[Hugo]03月28日 23:5803月29日 00:29

不可視の斬撃

エントリーNo.16 [良い質問]

No.58[Hugo]03月28日 23:5803月29日 00:29

■簡易解説■
 物理的に暴行を加えてくる空気を吸い込んで退治するために、口元を覆うマスクを取り払った。あるいは、奇々怪々な事件の多発する過去からもとの時代へもどるために、自分の能力を使う覚悟をしたということ。

■本文■
 金融と貿易によって栄華を極めた都市、ドロンドン。その中心街を通る目抜通りである「主教の道」はしかし、かつての活気を失っていた。人々は煉瓦の壁の向こうに息を潜め、仕方なく外を行く者はみなうつむき足早に立ち去る。強い湿気に混ざり運ばれる嫌な臭いがずっと停滞していた。
 そう、あの事件があってから。
 始まりは一匹の野良猫の怪死であった。
 紳士服が忙しなく動き回る真っ昼間の通りに、悲惨な叫び声が響き渡ったのだ。不振がった幾人かがその声のした方を振り向くと、薄暗い路地裏の奥の方に何かが横たわっているのが見えた。しばらく目を凝らし、そして誰からともなく小さな悲鳴をあげた。
 そこには、首の切られた猫の死体があったのである。
 後に警察が事情聴取したところ、猫の悲鳴を聞いてから死体が発見されるまで誰も、路地裏からは出現しなかったそうだ。勿論事件が発覚してからはずっと警察が封鎖していたため、そこに人間がいないことは分かっている。
 誰が、いつ、どのようにやったのか。結局この不審死には説明がつかず、騒ぎはあったものの所詮は「猫が死んだだけ」と見なす風潮も強かった。中心街の人々の間では誰かの悪戯だろうということになった。
 結論から言えばこれは犯行予告であり、彼らへの最後通告だった。
 猫の死体が見つかってから数日後、平日の昼であった。主教の道は平常運行で、上流階級の人々で混みあっている。駐在所の警官は今日もその人混みを眺めやりながら犯罪に目を光らせていた。
 しかし凶行はその警官や大勢の人々の目の前で始まり、にも関わらず悲鳴が上がるまでには数秒の間があった。脈絡もなく上がる血飛沫、一拍遅れでごろりと男性の首が落ちた。
「は......?」
 理解の及ばない光景に誰かが声を漏らした。殺人は続く。ざくざくと一度に複数人の首が跳ねられ路上に倒れ伏す。逃げろ、と警官が叫ぶ頃には死体の川ができていた。僅かな生きている者をのこして、見回せば通りの奥の方でまだ首切りが行われている。
 目を凝らせば凝らすほど、警官は混乱に陥った。
 誰も、人々を殺していない。
 不可視の斬撃がこの惨状を作り上げていたのだ。
 結局その日、主教の道にいた合計三百名余が命を落とした。大半は首を切られて即死、そのほかは欠損した部位から失血して死亡した。一時間もかからない犯行であった。
 この事件をきっかけに、ドロンドンは完全封鎖されることになった。人々の出入りは許されないのだ。気温はぐっと下がり、ドロンドンは冬の霧に覆われた。中心街はまさに陸の孤島と化してしまい、活気のあった主教の道は今やゴーストタウンの様相である。それからも警察の懸命な調査がしばらく続いた。しかしその努力も空しく、犯人の手がかりは全く得られていないという。

「それもそうだろうよ。ねぇ、ンワトソン君?」
 ドロンドンのはずれにある古アパートの一室。洒落たアンティークが乱雑に散らばる部屋の隅、口許を覆い隠す真白なマスクをつけた銀髪の少女が安楽椅子を揺らしている。愉快そうに目を細めている。
「自慢げに言わないでくださいよ......『当たり前』のことじゃないですか」
 対して僕は足の踏む場所を探しながらおかしな体勢で踏ん張っている。本当なら肩をすくめたいところだが、それもままならない。まったくうんざりする気分だ。
「それよりもシャシャーロック先生、また余計なものを買って部屋を散らかしましたね」
「余計だと?」
 彼女の眉がぴくりと動く。
「このポンコツンワトソンめ。この、この素晴らしい芸術品の価値が君には分からないというのか!」
「価値があると言うなら」
「歴史はおろか、それは全人類に対する冒涜だと言えるね!ンワトソン君!いいかい、長い年月という振るいにかけられ今なお輝きを放つこの一級品のお宝たちを......」
 シャシャーロックはアンティークに目がない。気に入ったとなれば即購入だ。今日は事件の資料を持って彼女の部屋を訪れたのだが、また新しい骨董が床を埋め尽くしていた。この彼女の趣味を仮に馬鹿にしたりしてしまうと、今の状況のように全く人の話を聞かなくなってしまう。
 僕は仕方なく、彼女が落ち着くのを待ちながら部屋を片付けることにした。定期的に掃除しているはずなのだが、なぜか来る度に汚くなっている。
「......というわけだ。分かったかンワトソン君!」
「しかし先生、そんなに大切ならちゃんと片してくださいよ」
 するとシャシャーロックはふらりと視線を泳がせて。
「それは君の仕事だろ......?」
「てい」
「ぃだっ!」
 頭にチョップ。それなら全部捨てておきますね、と言うとその後は二人で部屋を片付ける運びとなった。

「それはそこじゃない!」「あれ?これなんですか、見たことないなぁ」「こら、勝手に触るな!」等々お互い怒号を交わしながら、数十分で一応座れるだけの面積を確保することができた。
「基本的に物が多すぎるのが問題ですね......」
「自慢のコレクションたちだからな」
 なぜ誇らしげにしているんだ。これは彼女に黙っていくつか売り払ってしまうべきか。
「いやぁやはりこの鈍い光沢と滑らかな手触りがたまらないねぇ」
「ちょっと」
 少し視線を外した隙に、よく分からない置物をいくつか引っ張り出してなで回すシャシャーロック。掃除したばかりだというのにまた散らかされては困る。
「いいじゃないか、これ全部わたしの金で買っているんだぞ。ここの家賃だって今じゃ実質......」
「だとしても散財し過ぎですよ、先生。それよりもほら、新しい事件について考えましょう」
「ふむ、ではそろそろ始めるか」
 シャシャーロックは胸の上あたりで両手の指を合わせた。
 彼女と僕の関係は、命の恩人と保護者といったところだ。僕は怪事件で命を救われている。代わりに、行くあてがないという彼女にアパートの一室を貸したのだった。
「事件の概要は先ほど伝えた通りです。被害者のリスト、犯行時刻などの資料はこちらの封筒に」
 鞄から取り出した資料をシャシャーロックに手渡す。彼女は上機嫌そうに笑んだ。少女然としない、どこか冷めた様子の酷薄な笑み。彼女がこんな表情を浮かべるときはだいたい決まっている。
 今回は当たりの事件なのだ。僕の命が狙われたあの怪事件、それから二人で解き明かしてきた不可解な事件の数々。普通の依頼と違って報酬は出ない。それでもずっと追い続けている。なぜなら。
「これは超能力者の起こした事件だねンワトソン君。ふふ、楽しくなるね」
「先生、不謹慎ですよ」
 超能力、一般には知られていない力。それを使いこなす犯罪者を追い詰めることがシャシャーロックの至上命題であり、彼女の専門分野であるからだ。
 そして僕は、そんな彼女を害意のある超能力から守るボディーガードの役割を請け負っている。

 一般人が超能力相手に太刀打ちできるのか?と思うかも知れないが、何を隠そう僕も超能力者である。正確にはもともとただの探偵だったが、シャシャーロックの教えから能力を発現させたのだ。彼女自身も祖父に教えてもらったらしい。
 能力の内容は人によって様々で、僕の場合は「硬化」だ。自分と自分の手に触れている物体に鋼鉄並みの耐久性を付与できる。刃は通らないし、金槌でも砕けない。
 ではシャシャーロックの能力はというと「なんでも食べられる」ことだ。毒だろうと鉱石だろうと胃袋に収まる。体調が悪くなったりもしない。今現在、探偵をしていて役に立ったことはない。それどころか本人が、変なものをいつの間にか食べてしまうことを嫌がって四六時中マスクをつけている始末だ。超能力にも悲しい格差が存在する。
「おいンワトソン君、今わたしを変な目で見ていなかったか?」
「いえいえ」
 彼女は安楽椅子にもたれ事件の資料を眺めている。今回は被害者の人数が多く、いつもより時間がかかっているようだ。コーヒーを淹れてきますね、とキッチンでしばらくポットを傾けていると、うなり声が聞こえてきた。カップを慎重に運んでいく。
「何か分かりましたか」
「まだ情報が必要だな。動機はいくつか考えられるが、肝心の犯人像が漠然としている」
「難しそうですね。しばらくは封鎖も解かれないでしょうし、最悪しらみ潰しにでも探し出せばいいのでは?」
「そういう訳にもいかないのだ。こうしている間にも時計の針は進んでしまう......(⑨)」
 余裕がないとは言いつつまだ笑みを崩してはいない。だが焦りを感じているのも事実だろう。超能力の話になるとシャシャーロックの感情が不安定になるのはなんとなく感じていた。超能力の専門家である以上に、彼女は超能力犯罪に関わろうとしている。
 そこから、彼女と超能力者の間に、僕には計り知れない因縁があることはだいたい察しがつく。自分から話したいことではないみたいだし敢えて尋ねようとはしなかったが。
 それに僕にも、超能力犯罪を調べる目的はあるのだ。
「先生、資料はほどほどに調査へ出かけませんか?現場の検証を済ませていませんし、大きなヒントが得られるかも」
「そうだな。ここで考えても煮詰まるだけだ」
「今日は冷えると警官が言っていました。厚手のコートを羽織っていきましょう」
 シャシャーロックはぐぐっと腕を伸ばし、わずかな焦燥を振り払うようだった。ぴったりを口を覆うマスクの奥から小さく、ため息が聞こえてきた。

 実際僕たちの障害となったのは、記録的な寒さよりも濃霧の方だった。事件の影響で屋内にこもる人が多く、耳にする機会は少ないものの新聞の配達や駐在所の警官は愚痴をこぼしていた。
「十数メートル先になると全く見えませんね。こんな濃く出るのを見たのは初めてですよ」
「わたしからすれば例年並みであっても異常だがな、ンワトソン君。この街はいろいろおかしい......」
「先生、手を離さないでくださいね。迷子になられても困りますし」
「なんだと!」
 僕が彼女を子供扱いするとめちゃくちゃ怒る。子供扱いもなにも、本当に子供だという指摘もご法度だ。それにしても仲良く手を繋いでいるこの様は、さながら親子である。
 真相は、単純にいざというとき僕の能力で彼女を守るためだが。探偵のコンビを組んだとき彼女の方から提案してきたはずなのに、僕が手を繋ごうとすると未だに嫌がられる。理不尽だ。
「そんなことよりも、だ」
 こほん、とシャシャーロックは咳払いをした。
「君の観点から、超能力以外にトリックを仕掛けられるように思うか?超能力者が犯人じゃないケースはあり得るか?」
「可能性は否定できませんが、ほとんど考えなくてもいいかと」
 ここは、彼女と出会う前から探偵だった僕の出番である。今までの事件の経験、解決のノウハウを活かす。
 ただ今回に限って言えば簡単に考えればいい。おそらく同じことを考えているだろうが、彼女は先を促した。
「ふむ。理由はなんだい」
「路地裏で起きた猫の殺害だけならともかく、主教の道全域に『不可視の斬撃』を用意するとなると。仕掛けの規模が大きすぎて準備段階で誰かに気づかれるでしょうね。犯人はそんなことをしないはずです」
「なるほどな。それならやはり、最初の見立てどおり超能力犯罪として考えるのが良さそうだな。だが問題は......」
「ええ、その超能力が『何をする能力』なのかですね」
 僕であれば「硬化」、シャシャーロックであれば「なんでも食べられる」という風に超能力には個人差がある。シャシャーロック曰く超能力が完全に他人と被ることはかなり珍しいそうだ。だから過去の超能力犯罪のデータだけでは、犯人を見つけ出す手がかりにはしにくい。具体的に能力を探らなければならないのだ。
 シャシャーロックが口元に指を当てて唸る。
「順当に考えれば『透化』系統の超能力か何かしら首を切り落とせる物を操る能力だろう。しかしこれだと範囲が広すぎるな」
 相手の超能力が分からないうちに接触するのは危険だ。操作を進めつつ見当をつけていく。
「猫や被害者たちの写真からは何か分かりますか?」
「そうだな、それについては少し不思議なところがある」
「と言うと」
 シャシャーロックはポケットから二枚、資料の写真を取り出した。一枚は猫で、もう一枚は被害者の一人だ。というかそんなところに大事な資料を入れていたのか......
「いいかいンワトソン君、まず見て欲しいのはこっちだ」
 そう言って彼女が持ち上げたのは被害者の方。
「首の切断面を見てほしい」
「特に変わったものでは。強いて言うなら整っていてとても綺麗ですね(②)。弱い力で斬りつけたり、凶器の切れ味が悪かったりしたらこうはなりません」
「うむ。そう、とても綺麗だ。見事なほど滑らかな断面だな。じゃあこっちはどうだ」
 僕を試すような目付きを向ける。十代半の少女と言えど、まれに僕を凌ぐほどの観察力を発揮する彼女のこと。侮ってはいけない。
「野良猫ですか。こっちも同じような......いや、ほんの少しだけ刃物がぶれたような痕がありますね」
「そうだ。人間の被害者の方は一人残らず乱れひとつない切断面だったが、猫だけは違った」
「つまり?」
 しかしシャシャーロックはそこで首を傾げた。
「え?」
「つまり、何が分かるんですか?」
「いや知らないが」
 手がかりを掴んだとか、超能力が分かったとか。どや顔で説明するからそういうのがあるのかと思った。高いところから突き落とされた気分である。
「はあ、もういいです」
「なぁっ?!最初から不審点を説明するだけだって言ったのに!理不尽だぞンワトソン君」
「いえいいです。失礼しました。さあ調査を続けましょうか」
「ま、待て。今から推理をだな」
 ここからなかなか推理が始まらないことを経験上よく知っている(⑮)。彼女の推理もとい終わらない前振りを適当に聞き流しつつ探索を続行していくが、証拠らしい証拠は資料にまとめてある分で網羅しているように思えた。
 静かな街に二人きり。ゴーストタウンのようだと言ったが、本当に幽霊が出てくるんじゃないかというほど不気味だ。それは主教の道の普段の賑わいを知っているから余計に強調されているというだけだろうか。
 閉めきられた窓は冬の寒気を遮断するためのものだろうが、濃霧と相まって尋常ならざる閉塞感を印象づける。シャシャーロックのわめく声が硬質な煉瓦の壁に反響して、次第に霧の中へ飲み込まれていく。今更ながら僕は足がすくむのを感じた。
「というわけでだな、犯人はたぶん失敗したのさ。使っている得物が大きすぎたのか、あるいは能力の使用に都合が悪かったのか」
 一通り喋り終えて、満足そうにシャシャーロックが胸を張る。この雰囲気が平気なのだろうか。そういえば、記憶の限りでは彼女が何かに怯えているところは見たことがない。
「先生はお化けとかそう言うの気にしないんですか?」
「おいおい、君はわたしのことをお子様かなにかだと勘違いしていないかね。迷信なんて正しい知識があれば力を持たないものさ」
 超能力なんてものがありながら、頼もしいことこの上ない。だがシャシャーロックの表情は固く、いつものような自信は感じられなかった。彼女はつぶやく。
「それにわたしはね、本当に怖いものを知っているのだ」
「なんですかそれ」
「ンワトソン君、先ほどから無駄話が多いな。君はわたしの助手として自覚を持ったほうがいいね」
 シャシャーロックだって無駄推理を披露してたような気がするが、それを言ってどうにかなる問題とも違うだろう。有耶無耶にしておきたいことなら、立ち入らない方が吉だ。
 すみません先生と僕は彼女の手を少し強く握って、主教の道を進んでいく。

 それからは二人ともあまり言葉を交わさず黙々と捜査をしていった。この通りで首切り死体のあった箇所は全て回りきったが結局なんの成果もなかった。
 事前に得ていた情報以上のものは望めないと判断し、くるりと背を向けて帰路に就こうとする。しかしその時、僕はわずかな異変を感じ取った。
「あれ、先生」
「どうしたンワトソン君」
 片耳を塞ぐなどして、これは幻ではないと確信を得た。ただ事件にどう関係するのかは分からないが。
「どこからか歌声のような音が聴こえませんか?」
「歌だと」
 二人で耳を澄ませる。まだ遠くから微かに鳴っている程度だが、やはりおかしな調子のハミングが流れてきている。シャシャーロックも気がついたようで、はっと目を開いた。
「たしかに聞こえるぞ。歌のような、唸り声のような」
「ですがこれは何なのでしょうか。事件、いや犯人とどんな関わりが......?」
「いくつか仮説は立てられる。そうだな、まず一つ目は」
 この短い間にシャシャーロックは考えを巡らせていた。超能力に関係しそうなデータは存在する。彼女は人差し指を立てて説明をはじめた。
「セイレーン、というやつだ。超能力は個人の思い込みや知識から形成される。この場合は説話が元となっているということになるな。内容なら君も知っているだろう?」
「なるほど、それなら当てはまりそうではありますね。彼女は歌い、それに魅了されたを海へ沈める(⑦)。超能力として発現した場合は沈めるという行為が置き換えられていたりしてもおかしくはありません」
 だとすればあまりにも恐ろしい話だが。こんな雰囲気のなか、霧に飲まれ二度と帰ってこられないなんて想像したくもない。
 そして二つ目、とシャシャーロックは手で示した。
「エコーロケーション、音の反響で物体の位置を把握する能力だ。コウモリなんかが視覚の代わりに使っているな。音の届く範囲であれば、直接目に見えなくてもいい。例えば」
 嫌な予感に顔を青ざめさせて、彼女は続けた。
「こんな霧の中でも使える」
 その言い方は卑怯ではないか。ぶるりと身が震えた。この仮説が正しければ、犯人は僕たちの位置を現在進行形で探っていることになる。いやすでに見つかっている可能性だってあるのだ。
 だが頭の隅に残った冷静さが、それはあり得ないと否定する。今回の超能力は「透化」に絡んだもののはずだ。エコーロケーションでは誰にも気づかれずに大量殺人を犯すなんて。音では人を殺せないだろう。
 そう僕が伝えようとしたとき、シャシャーロックが小さく叫んだ。
「ンワトソン君。気を付けたまえ、音が近づいている」
 注意を受けて意識を耳に向けると、明らかに歌声は先程より大きくなっている。そして今もどんどん近づいてくる!
「先生、こっちです!」
 本能が身体を動かした。シャシャーロックの手を強く引き、立ち位置を大きく変える。そして一瞬前まで僕の首があったところを、何かが物凄い勢いで通りすぎていく。
 そう、見えない何かが。
「これは......!」
「奴だ、犯人の仕業だ!犯人は今、私たちを狙っているのだよ」
 急いで周囲を見回す。するとどうだろうか。二人を取り囲むように旋回する幾筋もの「不可視の斬撃」が見えるのだ。僕はシャシャーロックの手を握り直した。
 目の前の光景に驚愕する僕とは対称的に、どうやら彼女は落ち着いているようだ。
「これが、『不可視の斬撃』でしょうか」
「そうだろうね。今見えているのは、『不可視の斬撃』が切り裂いた霧の痕さ」
「そうか。見えなくても存在するなら、通り道に必ず痕跡を残すんですね」
 悠長にお喋りをしている時間はない。斬撃の一つが速度を上げて迫ってきている。
「わたしたちはついてるぞ。『目に見えない』なんて能力者が、よく嵌まる天然の罠だよ。よく観察すれば絶対に避けられる。さぁ、行くぞ!」

 手を繋いだまま出せる最高速で、僕たちは霧の通りを走り抜けた。あらゆる方向から飛んでくる斬撃を、霧の揺らぎを見て寸前で避けなければならない。石畳に足を取られそうになりつつ、僕は周囲を見回した。
「また来ます、左上から!」
「後ろもダメだ。一度回避に専念しよう」
 避けながらも見落としがないように神経を張り続ける。最悪「硬化」がすぐ発動できるように準備をしておく。斬撃が次々に飛んできて、身体の近くをびゅんと掠めていった。
 シャシャーロックも器用に胴体を捻りながら斬撃をかわしている。動きに合わせてひらりと膨らむスカートが斬撃に引っ掛かったりしないだろうか。
「はは!優雅に手を繋いで、まるで踊っているみたいだな!(⑧)」
「頭おかしいんですか?!」
 斬撃の切れ目を狙って再び走り出す。意識が薄くなりがちな上下方向にも気を配り、透明な刃を探していく。最初は単に見えにくいだけかと思っていたが、どうやら斬撃は何もない空間からも生まれてくるようだ。
 何度か不意打ちを食らってしまい、腕や腹がざっくりと裂けた。致命傷には程遠いが「硬化」を貫通してこの威力だ。避けずに受けきれるとは限らない。
「ンワトソン君、大丈夫か!」
「ええ、とりあえずは平気です。急所を守っているので。それより先生は?」
「わたしは無傷だ。君がかばってくれているからな」
 ほっと胸を撫で下ろす。僕でこそ浅い傷で済んでいるが、全体的にほっそりとしたシャシャーロックが切られてしまったら無事ではないだろう。最低でも失血、当たりどころが悪ければ動けなくなることだってあり得る。
 今はそうならないように、全力で走るしかない。これはただの直感だが、主教の道から距離をとれば斬撃から逃れられるのではないだろうか。
 ふと、冷たい何かが顔面をぴしゃりと打ち付けた。雨だ(④)。一度降りはじめると、その勢いは瞬く間に強くなっていった。
「まずいですね、雨で霧が薄まってきています」
「早いうちに主教の道を出なければな。斬撃が見えなくなってしまう......」
「先生、ちょっと失礼しますね」
 なにをと言うが先か、僕はシャシャーロックを抱きあげた。手を繋いだまま走るより、こっちの方が機敏に動けるだろう。その分僕の身体は酷使することになるが。
「やめたまえ、君そんな体力あるほうじゃないだろ!」
「うるさいですよ先生。あなたの方が運動オンチじゃないですか。とりあえずアパートまで走るんで、上の方見といてください」
「この、覚えてろよ......」
 なにやら恐ろしいことを言うシャシャーロック。僕のことをちらりと睨み付けたが、すぐに斬撃に注意を向けた。
 実際は彼女がかなり軽かったので体力の消耗をそこまで気にすることはないだろう。それよりも、抱えた彼女によって足元の視界が遮られているのが辛い。
 あと少しで通りから出られるというときだった。
「超能力の正体が分かったかもしれない」
「え?」
 シャシャーロックが僕の死角の方を見つめながら、突然呟いた。ほんのわずかな間だが、彼女の発言に意識が引きずられた。
 そして濡れた石畳に足を滑らせ、僕は思い切り転んでしまった。「硬化」を使っているので怪我はしていないが、この失敗は致命的だ。何本かの斬撃は頭上を通りすぎていったが、低空を飛翔して近づく一筋がしっかりとシャシャーロックを捉えていた。
「先生!」
 彼女の身体は転んだときに放り出されてしまっていた。くしくも猫が殺された路地の正面だった。触れることさえできれば能力が発動できる。いや刃の進路に立ちふさがる方が早いか?
 逡巡が反応を若干遅くした。斬撃が僕に先行して、今にもシャシャーロックを切り殺そうと迫り。
 彼女の身体に触れる前に消滅した。
「は?」
「ンワトソン君、今は逃げるぞ!」
 呆然として固まりかけたところを彼女に呼び戻された。主教の道を抜けるまであと少しだ。シャシャーロックが僕の手を引っ張りあげ、それからはがむしゃらに走って逃げた。

 アパートにつく頃には二人ともびしょ濡れになっていた。超能力のことについては後で話すと、先にシャシャーロックがシャワーを浴びた。その間に熱々のコーヒーを淹れておくことにした。
 豆を蒸らしている間にだんだん落ち着きが戻ってくる。
 今までこんなことは無かった。どんな殺人犯や超能力者が相手であっても、僕が「硬化」を発動している限りシャシャーロックの安全は保証されていた。そもそも超能力が振るわれる前に犯人が分かっていた。
 超能力犯罪のやり口が変わったのだ。超能力犯罪の王、アティモリが本気で僕たちを殺そうとしている。
 最初に僕が殺されそうになったあの事件から、超能力犯罪すべての裏にその存在を匂わせる人物。にも関わらずその尻尾を掴めないでいるのは、犯人が自供をしようとすると必ず殺されているからだ。
 超能力を使用でき、他人に教えられる人物など限られている。超能力の源流が魔女の使う妖術だとシャシャーロックは言っていた。そこでこの国の魔女の末裔を徹底的に調べあげたが何も出てこなかった。奴は自分の証拠を残さない。
 だから超能力絡みの事件があるたび、何らかの情報を期待して捜査に当たっている。奴はそんな僕たちを嘲笑うかのように、犯人をけしかけて殺しにきた。
 そしてそれを「硬化」の能力とシャシャーロックの知識で返り討ちにしてきた。これまではそうだった。
 アティモリは気づいたのだ。超能力があるならば密室やトリックで証拠を隠そうとするよりも、衆人環境で大胆に殺人を行う方がかえって捜査しにくくなる。理詰めや超能力の知識だけで事件を解決してきた僕たちは捜査に出なければいけなくなる。いうならばキルゾーンへ誘い込まれたのだ。
 今回も大丈夫だろうと完全に高を括っていた。結果、シャシャーロックが死にかけた。ただ能力を使うだけで彼女を守れるだなんて都合のいい思い込みだ。
「空いたぞ」
 シャシャーロックがタオルを巻いて出てきた。服は着ていないのにマスクだけはしっかりとつけている。肩のあたりにある擦り傷が目についた。
「キッチンにコーヒーを淹れてありますよ」
「ん、気が利くではないかンワトソン君」
 すぐには取りにいかず、まず彼女はストーブの前に屈んだ。しばらく暖まったところで立ち上がり、不思議そうに僕を見て。
「濡れたままでいいのか?風邪引くぞ」
「もう引いちゃったかもしれません。なんだか頭が留守になってまして」
「はやく出てこいよ」
 普段通りのシャシャーロックの様子に、少し安心させられた。これからは解決篇なのだ。超能力を暴いたならば怖いものはない。そう言い聞かせて僕は、濡れて重たくなった外套を放り洗面所のドアを閉じた。

 斬撃に手傷を負わされていたのをすっかり忘れていた。おもいっきり蛇口を捻った瞬間、熱々のシャワーが傷口に注ぎ込み大変痛かった。傷は見た目ほど深くはなかったが、何かで縛っておかないと血が流れ続けてしまうだろう。
 部屋へ戻るとシャシャーロックはいつもの安楽椅子でコーヒーを啜っていた。マスクを少しだけずらしているが、飲みにくそうだ。
「さっきから時化た顔をしているな。君のおかげで確信が持てた部分もあると言うのに」
「お前の本心は分かってるぞ、みたいに言わないでください。ずっと走ってたから疲れているだけですよ」
「は、年を取ると大変だな」
 実を言えば図星だったが、素直に認めるのは癪だった。シャシャーロックは大袈裟に肩を竦めてコーヒーカップを床に置いた。テーブルの上はアンティークだらけでスペースが無い。
 それよりも、と彼女は手を打った。
「超能力が分かった。そしておそらく、犯人の居場所もな」
「聞かせてください」
「まず超能力についてだ。あれは風を操る能力さ」
「風、ですか?」
 そう言われてもいまひとつピンと来ない。人間を斬殺する威力を持つ刃と風に何の関係があるというのか。それに、現場で起こった不可解な現象に説明がつくとは予想しにくい。
 けれどシャシャーロックの語気には確信が滲んでいた。
「まず、なぜ風だと気がつくことができたのか。これには大きく三つあるな。きっかけは歌声だ」
「『不可視の斬撃』に襲われる前に聴こえていたやつですよね。僕には、音で人を殺したり何かを操ったりすることは不可能なように思われるのですが」
「それは違うよンワトソン君。少し勘違いをしていないか」
「では音による殺人はありうると?」
「そうじゃない。いや厳密には音で殺人をすることはできるけれどね。わたしが言いたいのは、原因と結果が逆ってことさ」
 それでも分からないという顔をしていると、彼女は呆れた様子でこう続けた。
「ちゃんと考えてくれよ、まったく。いいかい、あそこで聴こえてきた歌声はあくまでも副産物。超能力で引き起こしたことではなく単なる自然現象さ。強い風が吹いたとき、君は唸るような音を聴いたことがあるだろう?」
 あまりの単純さに思わず口が開いた。考えてみれば当たり前のこと、歌声でも何でもなく風が通り抜けていく音だったのだ。司教の道の地形が偶然、その音を歌声のように響かせていたということか。
 しかしそこでふと疑問が浮かぶ。
「......先生、それはやはりおかしいですよ。音が鳴るほどの強風が吹いていたのであれば絶対に気がつくはずです。あの時あなたはスカートを履いていたし、僕もコートを羽織っていましたから。霧についても刃が通っていないところは、ほぼ静止していましたよ」
「それについては、風を操る能力だということが関係してくると思う。遠くから吹かせた風を、人間を切り裂くことができるまで薄く圧縮したのだよ。わたしたちの近くではごく小さな風になっていたから、吹いているとは気づきにくかったんだろうね」
「刃が接近するまで全く見えなかったのもそういうことだったわけですね」
 シャシャーロックはコーヒーカップを持ち上げ、満足げに頷いた。そのまま口をつけると思ったがそうせずに話を再開する。
「そして二つ目。これは君に担がれているときに見えたものだ。冬の寒いなか雨すら降っているというのに窓を開けている建物を発見した。最初はおかしいことをする奴がいるものだなと無視していたが、とある超能力を思い出した」
 そして彼女はおもむろに自分の人差し指をコーヒーに浸した。ちゃんと全部飲んでくれよ。
「液体の温度を自在に変化させるという能力を持っている奴がいた。超能力の使用にはトリガーが存在する。そいつの場合は、影響を及ぼしたい液体に指が触れていることだった。こんな風にな」
 なるほど。シャシャーロックの場合は口を、僕の場合は手を使うことで能力が発動する。でもそれ言葉で説明すればよいのでは。彼女は面白そうに眉を吊り上げる。
「ここまでは予想がつく話だろう。だがもうひとつ、能力の発動に欠かせない要素があるのさ。どこまでの範囲で能力が発動できるのかに関わってくる。それは、超能力者の心理さ」
「自分で好きなように発動範囲を決められるということですか?」
「というよりは無意識に決まっているという感じだな。さっきの能力者の場合だと『手に触れたものでなければ温度を変えられない』という無意識がまずあるわけだ。そして能力について実験を繰り返したところ、また興味深いことがわかった。いまやっているみたいにコーヒーカップに指をつけていれば、そこに注がれているコーヒーの温度を操れる。ならば、そのカップごと水を張った水槽につけたらどうなるか」
 彼女は勿体つけて一息置いた。
「能力で変化したのは、コーヒーカップの中身だけだったんだよ。つまり彼女の無意識は容れ物によって境界を引いていた」
 話すべきことを話終えたという様子のシャシャーロック。しばらく僕にも要点が見えなかったが、なんとなく理解できた。風を操る能力と関係があるならば、つまりそれは。
「主教の道に風の斬撃を飛ばすために、窓を開けていたと?」
「その通りだよンワトソン君。厳密には窓や扉が完全に外と内の空気を分けているとは言えないだろう。それでも無意識の境界があったから窓を開けて能力を使っていたのさ」
「この予想が正しければ、そこに犯人もいるわけですね」
「うむ。そして、風の能力だと判断した最後の理由だが」
 ちらりと僕の顔を見る。
「いやぁ、まさに君のお手柄だな。わたしの命を餌にして事件の手がかりを掴もうだなんて。探偵の鑑だね!」
「本当にすみません......」
 頭を下げる僕に、彼女は適当な骨董品を投げつけてきた。痛い。というか、それはあなたの宝物だろう。
 とりあえず怒りを鎮めたらしい彼女はフンと鼻を鳴らした。
「これについては全部終わってから話そうか。ひとまず最後の手がかりだ。君が転んだとき、わたしは死を覚悟した。しかしそこに斬撃はやってこなかったね。ちょうど路地の目の前あたりだった」
「猫が殺されていたところですね」
「そうだ。その猫について思い出せることはあるかい?」
 なにかあっただろうか、と首を捻ったが特筆すべきことはなかったような気がする。......いや、彼女のした無駄話があった。
「あれですね。他と比べて切断面が汚い」
「そう。あれの原因を考えていたんだが、身をもって知ることになろうとはね。実はね、あの路地にはたまに強い風が吹くみたいなんだ。わたしが殺されかけたときも、路地から風がやってきた」
「風ですか。犯人の操っているものとは別物ですよね」
「おそらくはね。でだ、その風に見えない刃がぶつかった瞬間、刃が消失した。猫のときもきっと、刃が貫通する瞬間に同じように風に邪魔されたんだろう。人を殺せるほどの斬撃なのに、ただの風によって阻まれた。風によって制御の効かなくなる能力となれば、それは風を操る能力だろうと考えたわけだ。自分の操っていた当のものが予想と違う動きをしたら、操るのをやめるしかないだろうからね」
 全てを説明したらしい彼女は、自分の指が浸かったコーヒーをマスクの隙間から啜った。探偵として正直に言えば、彼女の推理は論理性を欠いていたし普通なら当てにしないところだ。だが超能力に関する知識、勘というものを僕は信じている。
 ここから反撃開始だ。タネが割れてしまえばこれまで通りに処理をするだけ。
 しかし僕は最後に、ただ一つの気がかりを彼女に告げるべきか迷っていた。

「犯人を追い詰めるのは明日にしよう。例に漏れずわたしたちを殺そうとしてきているし、逃げるなんてことはないはずだ」
 強気の姿勢を見せるシャシャーロックに対して、どうしても僕は不安を抱かざるを得なかった。昼に死にかけているはずなのに、怖くないのだろうか。
 言いあぐねて自室へ向かおうとすると、彼女の方から声をかけてきた。
「なにか話があるんだろう?」
 ここまでさせておいて黙っているのは失礼だ。僕は重たい口を開いた。
「大量虐殺までなら、今の説明でも納得できるんです。主教の道のマップを把握しておいて能力を使えばいい。しかし僕たちが狙われたときは、正確に先生や僕のいる位置に刃が飛んできました」
「そうだね」
「能力者が建物の中からずっと狙いをつけているなんて考えにくいですよね。ならば」
「協力者がいる、そう言いたいんだね」
 無言で肯定する。彼女もとっくに分かっていたことだろう。
「まあ今回もアティモリだろうね」
「奴はやり方を変えてきました。これまでよりずっと危険な存在です。もしかしたら先生が殺されてしまうかもしれない」
「相手が本気を出そうが、いつもと変わらないだろう?万が一のときは君が守ってくれればいいだけの話さ」
 基本楽観的なシャシャーロックはそう言って笑む。気休めでも何でもなく、本当に平気だと思っているようだ。しかし少なくとも僕は、アティモリの恐ろしいやり方を決して忘れたことはない。
 誤魔化していては、シャシャーロックにまたはぐらかされるだけだ。僕は心に決めた。
「奴は、どうやってかは知りませんが、洗脳できるんですよ。その気になれば僕を操って先生を殺すことだって可能なんです」
「君の元相棒みたいにかい、ンワトソン君」
「......そりゃあ覚えていますよね」
 最初に僕が巻き込まれた超能力の事件。シャシャーロックが現れる前、僕には別の相棒がいた。ドロンドンで高名な探偵たちがとある屋敷に集められ、そこで次々と殺人が起きた。懸命な捜査の末、とうとう追い詰めた相手は彼だった。
 初めて目にする超能力に為す術なく僕は殺されかけた。そこにシャシャーロックが突然現れて相棒を倒したのだ。
 相棒は死ぬ間際に「アティモリ、すまない」と言い残した。何があったのかは分からない。どうして彼は殺人鬼になったのか。それはアティモリだけが知っている。
 シャシャーロックは目を伏せる。
「なんだ、君とわたしは似た者同士だったわけだね。わたしは君がアティモリに唆されるとは思っていないさ」
「僕には確信が無いんです。先生を裏切るかもしれない」
「ンワトソン君。君は自分を恐れすぎだよ」
 そして彼女は笑った。底の知れぬ暗さを感じさせる声で。
「大丈夫さ、わたしは死なない。ましてや超能力の師匠であるわたしが君に殺されるなんてあり得ないさ」
「先生はなぜそこまで自信を持っていられるんですか?」
「わたしは自分の狡猾さを知っている。自分の恐ろしさを知っているのさ。君が君自身に感じるよりもはるかに具体的にね。それに比べたら殺人鬼なんて可愛いものだよ」
 そう言って彼女は僕に背を向けた。これがきっとシャシャーロックの答えなのだろう。現状で伝えられる精一杯の。そう飲み下して僕は自室に入った。背後で彼女が小さく呟いた。
「そろそろ乗り越えなくてはな......」

 ホテル・ドロンドン。窓の開いた建物、犯人が潜伏しているだろう拠点だ。
「いこう」
「はい」
 短く覚悟を決めて、エントランスに入る。落ち着いた装飾が暖色の光を受けて高級な印象を演出している。
「ようこそ、ホテル・ドロンドンへ」
 僕たちに気がついたキャッシャーの男性が、カウンターに両手をついて頭を下げた。外国人のようだ。なんだか不思議な姿勢に出鼻を挫かれたような気分だ。
「う、うむ。そのポーズはなんだい?」
「あ、これは失礼しました。わたしの国では挨拶のようなもので(⑭)。癖が抜けずついついやってしまうんですよね」
 そう言って苦笑する彼。ネームプレートから、タチババナという名前らしい。ふと彼の後ろを見ると、デスクに集合写真が置かれていた。桜を背景に撮られている(⑤)。彼自身は写っていないが、親戚のものだろうか。
「へえ、変わった風習があるものなんですね。言葉が上手ですが、ここで働いて結構経つんですか?」
「いやあそうでもなくて。恥ずかしながら、まだ五年しか働いていません。して、お二人は宿泊でしょうか?」
「実はな、宿泊ではなくて......」
 事情を説明するシャシャーロック。タチババナさんは捜査に少し渋い顔をしたが、警察から協力の要請を受けているとハッタリをかけると通してくれた。
 埋まっている部屋はすべて三階にあるという。案内しますよと彼が先行し、それにシャシャーロックと僕が続いた。
「そういえば、どうやって犯人を当てる気ですか?」
 窓が開いていることは確認したが、視界が悪くてどの部屋かまでは分からなかったと彼女は言っていたはずだ。これから宿泊客の話を聞いて推理する必要があるのではないか。
 しかし彼女は得意げに人差し指を立てて言った。
「簡単さ。雨の振った日に窓を開けていたんだ、カーテンや敷物に染みやよれができているだろう?それを見つければ一発さ」
「なるほど」
 納得してみせはしたものの、そんな簡単にいくだろうか。長年ふつうの探偵をしてきた僕としては、もっと慎重に聞き込みなどをする方がいいと思うのだが。
 そうこうしている内に三階に到着。タチババナさんが部屋をノックしていき、それぞれの客に短く確認を取っていった。幾つか部屋を覗いたが、まだ染みやよれなどが見つかっていない。
 シャシャーロックに目をやると、そっぽを向かれた。完全に見当違いなことをしていないだろうか。
「お客様のおられる部屋はこれで全てですが」
 タチババナさんが尋ねる。それにシャシャーロックは首を振った。
「あともう一部屋、見ていないところがあっただろう?念のため見せてくれないか」
「先生、確認した部屋をもう一度見て回ったらどうですか?きっと見逃しがあるんですよ」
「いい。とりあえず空き部屋を確認してからにしよう」
「承知しました。こちらです」
 これ以上ホテルに迷惑をかけるのもどうかと思ったが、タチババナさんがいいと言うならばいいのだろう。部屋の前まで来たところで不意にシャシャーロックが声をあげる。
「そう言えばここのドア変わっているな。内側の方も鍵を回して閉じるようになっているのか」
「本当ですね、どの客も鍵を持ってドアを開けていました」
「左様です。安全性がうちの長所のひとつですから」
「少し試してみたいことがあるんだが、この部屋はわたしが鍵を開けてもいいか?」
 どうぞ、と鍵を渡すタチババナさん。シャシャーロックは鍵穴にそれを挿し込み、ぐるりと回した。小気味のいい金属音がしてドアが開く。
「タチババナ、部屋の明かりはどこだ?」
「ただいま点けます」
 開いたドアからタチババナさんが部屋に入り、シャシャーロックが続く。そして僕も入ろうとしたそのとき。
 バタン。ガチャリ。
「は?」
 ドアは閉じられ、内側から鍵がかかった。

「あー、あー、聞こえるかンワトソン君。大丈夫だからしばらくそこにいてくれ!」
「なんのつもりですか、シャシャーロックさん」
 怪訝そうな顔で問うタチババナに、わたしは笑いながらマスクを外した。緊張と恐怖で手が震えて少し手間取った。大丈夫だ。
「とぼけるなよ。わたしを殺すチャンスをくれてやったんだ、喜んでみたらどうだ?」
 それを聞いた彼は不安そうに俯いたり感情を失ったように目を開いて見せたりして、顔面をめちゃくちゃに歪ませた。そして結局最後には狂ったように笑いだした。
 わたしはその光景に虫酸の走るような感覚をおぼえた。
「あははははっ、あーはっはっは!すごいねぇ、犯人が分かったんだねぇ!」
「うるさい。本当にお前が犯人ってことでいいんだな」
「勿論だとも。さあなんで分かったんだ。教えてくれよ、次に活かすためにさぁ!」
 キャッシャーとしての仮面は完全をタチババナは完全に外した(①)。どうやらここでお縄になるつもりは毛頭ないようだ。子供相手だと思って油断しているのだろうか。まあいい。積もる話なんてお互いないだろう。
「初対面でいきなり嘘をつかれたら誰だって怪しむだろう。さっきのハッタリの効果が無かったら別のやつで試せばいい」
 ちょっと遠回しに言ってやった。タチババナがわたしを睨み付けている。まだ手を出すには早いって感じかな。
「お前、この国の人間じゃないみたいなこと言ってただろう。それがおかしいんだ。お前も知っていたとは思うが、外国の人間がこの国で働くのであれば滞在期間に制限がかかる。特別な技能職ならまだしもただのキャッシャーが五年も働けないのさ。それならお前の見た目や仕草にどう説明をつけるか」
 分かるだろうな、とタチババナを見やる。彼はまだ大きな反応を起こさない。
「お前は、この国の人間の血縁だということだ。いわゆるハーフというやつだな。そのハーフのお前がなんで外国人だと、すぐにバレるような嘘をついたんだ。大かた動機に関係するんだろう?」
 お見事、という風に小さく拍手を送るタチババナ。あと数分は欲しいところだ。彼はもうたくさんだと言うように右手を掲げた。
「いやあ面白い話だったよ。次からは安直な嘘は避けなければな、それじゃあごきげんよう」
「おっと待ってくれたまえ。わたしはまだお前の動機を聞いていないぞ。これから死ぬんだ、先立つものを貰ってもいいじゃないか」
「へえ、じゃあ教えてあげようかな。ぼくの身に振りかかった悲劇の話を!」
 タチババナは大袈裟に両手をあげて嘆いて見せた。
「まずねえぼくの母親は外国人なんだ。だからぼくはきみの言う通りハーフなんだよ。ほら、カウンターに置いていた写真を見ただろう?」
「あの桜のやつだな」
「そう!あれは母親の昔の写真なんだ。で、ここからが面白いんだけどさあ、彼女はこの国の人間に惚れたみたいなんだよね。付き合って子供までできた。それがぼく!」
 いちいちうるさいタチババナだが、徐々にその声は小さくなってきている。まだ気がつかれていない。
「でも相手の男は、子供ができたと知って彼女を捨てたんだ。そのままだとこの国にいられなくなるから、彼女は娼婦をはじめた。ぼくはね、この話をずっと母親から聞かされていたよ!そして二年前、彼女は惨めに人生を終えた。まったくかわいそうだよね。もちろんぼくも娼婦の子供だとか外国人だとかで苛められたよ。心底嫌いになったね、この国の人間が。だから、ぼくはたくさん殺してやろうと思ったんだ!外面だけ気取った金集めと保身に必死なこの国の豚どもを処刑してやろうってね!」
「だがお前はその手段を持っていなかっただろう」
「そう!いいね、鋭いね。つい最近さ、アティモリって親切な人がぼくに超能力を授けてくれたんだよ。すごいよこの力、この力があればなんでもできる。すぐにきみだって」
 と、そこでタチババナが膝をつく。かなり息苦しそうだ。そしてわたしも目眩と頭痛をずっと堪えている。ようやく効いてきたか。
「な、なんだ......?」
「お前の能力、封じさせて貰ったぞ」
「何?!」
 彼は急いで右手を構えるが、何も起きない。混乱する彼にわたしは、起こっていることを丁寧に教えてやる。
「わたしの能力はね、なんでも食べることができるというものなんだ。アティモリが言ってなかったか?」
 自分自身、ちゃんと喋れているか不安になるほど声が小さく聞こえる。相手が完全に倒れるまでは、続けなければ。
「この能力には隠された力があってね。わたしはあらゆるものを際限なく食べ続けることができる。どんなに食べてもお腹が膨れないと考えてくれよ。これを利用してね、この部屋の空気をほとんど食べ尽くした。あとはお前がぶっ倒れるまで待つだけだ」
 すでに息も絶え絶えになっているが、タチババナは食い下がろうとしてくる。わたしも限界が近い。
「はは、馬鹿だねえ。それじゃあきみが先に倒れる、二分の一の確率でぼくが脱出できるじゃないか(⑪)。その手に握っている鍵を奪ってさあ!」
「ああこれか?」
 わたしは手に持っていた鍵を見た。なるほどたしかに彼が耐え抜いた場合、このままにしておくのは危ないな。ならばこれも食べてしまおう。
 ごくり。
「き、きき、きさまぁあああああああ!」
 絶叫ももう蚊の鳴くような声だ。急いで窓枠に近づこうとするが、タチババナの身体はもう自由には動かない。わたしも最後の力を振り絞り、じりじりと彼に近づいていく。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」
「最後にひとつ、お前に伝えたいことがあるんだ」
 わたしはポーチに隠してあった布を、彼の口許に押し当てた。
「お前と心中するつもりはないのでね。これでも吸って気絶してろ」
「っくぁ......」
 直後に、ぱたりとタチババナが倒れた。平気な感じがしたが、いつの間にかわたしも床に横たわっている。あとは異変に気がついたンワトソン君を待つだけだ。
 薄れ行く意識のなかで、ドアを叩き割る音が響いた。

「んぁ......」
「意識が戻りましたか、先生!」
「ンワトソン君か、そんな騒がないでくれたまえ。ただの酸欠だよ」
 シャシャーロックをおぶったままホテルを出ようというとき、ちょうど彼女は目を覚ました。部屋のなかが妙に静かだと思い、ドアを破って中を見たところ彼女が倒れていたので非常に焦った。
「君、ちゃんと能力を使えたみたいだね」
「『硬化』がこんな風に使えるなんて自分でも驚いています」
 ドアを破ろうと言うとき、手近に鈍器として使えるようなものが見当たらなかった。そこで咄嗟に、自分の手や頭を「硬化」してハンマーの代わりとしたのだった。
 超能力のことで誉められて少し嬉しくなったところで、シャシャーロックがあっと声をあげた。
「なんですか?」
「やつはどうした?!タチババナ!」
「それについてなのですが......」
 シャシャーロックが彼と二人きりになった時点で、犯人についてはある程度察していた。部屋に入ったあと、捕縛するために彼の腕をつかんで引きずろうとした。しかし次に彼を視界に入れようとしたときには、彼の身体が跡形もなく消えていたのである。
「やはりか。アティモリのやり方だな」
「防ぐ手段はあるんでしょうか?」
「まだなんともな。超能力がなんなのか、見当もつかない」
 意識を取り戻したあともしばらく手足が痺れているということなので、そのままシャシャーロックを背負ってアパートへ向かった。昨日のように走るような状況でもないので安全だ。
 そしてアパートの部屋の前にたどり着くと、奇妙な包みが扉の前に置かれていた。
「なんでしょうか、これ」
「さあな。部屋に入ったら開けてみよう」
 数時間前に出たばかりだというのに、何日も部屋を空けていたみたいに感じる。いまは平気そうな顔をしている彼女が、犯人と二人きりになり再び命を危険にさらした。少しでも助けるのが遅れていたらと思うと心底ぞっとする。
 そう言えば彼女は、どうやってタチババナを追い詰めたのだろうか。最終的には薬を使ったと言っていたが、まさかそんな隙をわざわざ作るような人間はいないだろう。
 などと疑問に思いつつ、包みの中身を確認してみる。
「これは手紙と、よくわからない置物?でしょうか」
 隣にいるシャシャーロックに聞いてみようとして背筋が凍った。彼女の顔が驚くほど青ざめている。よく見ると全身が細かく震えているのも分かる。
「先生?!やはり体調が」
「違う。わたしは大丈夫だから、気にせず手紙を読んでみてくれ」
 体調のせいでないというのなら、尋常でない怯え方だ。ここに一体なにが書かれているというのだろう。
 手紙はいくつかに折り畳まれていて、広げると簡潔な文章がいくつか綴られていた。先生にも伝わるように音読する。

「親愛なるシャシャーロックへ。人殺しのシャシャーロック、祖父を食べたシャシャーロック。きみの歩みがあまりにも遅いものだから私の方から手紙を書くことにしたよ。正直きみを待っているだけの時間にはもう飽きたんだ。眠たくて仕方がないからヒントを上げようと思ってね(⑫)。そう、同じ包みに入っているそれだ。私からのささやかなプレゼントだと思って大切にしてくれたまえよ(③)。それではまた、今度はきみの住むアパートで会えることを願って。アティモリ」

「シャシャーロック先生、これは」
 なんだこれは。アティモリから直接送られたものなのか。それとも誰かのイタズラか。いや何よりも。
「先生が、人殺しだって、どういうことですか」
「ああ」
 呆然と手紙の内容を聞いていた彼女は僕の声に少しだけ反応をした。必死で口を押さえて、声を震わせている。気持ちが悪いのだろうか。そういえば、ホテルから出てから彼女はマスクをしていなかった。
「先生、しっかりしてください。吐き気がするのであればトイレに連れていきましょうか?」
「いや、構わん。それよりも、同封されているそれをよく見せてくれ」
 よくわからない。混乱したまま言われた通りにすると、彼女はそれを半ば奪い取るようにして食い入るように眺めた。そしてこう呟いた。
「間違いない、ペットボトルだ」
「ペット、なんですか」
 初めて聞く言葉だが、なにか彼女と関係しているのだろうか。それとも超能力に関わっている何かだろうか。
 先ほどからずっと震えて、浅く呼吸を繰り返すだけのシャシャーロック。僕は何も理解できていないが、彼女を落ち着かせるのを優先しよう。
「先生、今はとりあえず寝てください。気分がよくなるまで。それから、知っていることを説明してもらっていいですか?」
「ああ」
 肯定とも否定とも取れない返事をしながら、彼女は自室へと消えていった。

(続きます) [編集済]

――[編集済]
No.59[Hugo]03月29日 00:2003月29日 00:29

(続き)

 シャシャーロックが出てきたのは翌日の晩だった。いつものようにマスクで口を隠している。
「心に決めた。ゆくゆくは話そうと思っていたことだ、ンワトソン君。頼むから最後まで聞いてくれ」
 そう言う彼女の目には涙が滲んでいた(⑥)。

 こうして君と関わるまでは、誰にも言わずに秘密にしていようと思っていたんだ(⑬)。しかしそれはもうできないし、アティモリを捕まえるという点で目的が共通する君には打ち明けなければいけないことだった。
 わたしはね未来から来たんだ。
 遠い未来さ。超常現象や魔法が超能力という技術として確立するほどのね。もちろん、わたしがいまここにいることからも分かる通り、タイムマシンなんてのも存在しているよ。
 アティモリから送られてきたあの容器、ペットボトルと言うものだがあれも未来のものだ。つまりやつのメッセージは「自分も未来から来ている」「お前が未来でやったことは知っている」という意味になる。
 そうだな、なんで未来からこの時代にやってきたのか。結局はここに集結するね。
 端的に言うとね、わたしは未来で犯罪をしてしまったんだ。しかも人殺し、わたしに超能力を教えてくれた祖父を殺したという罪に問われてしまった。
 わたしはそんなことをしていないと主張したんだがね、誰も聞き入れてくれなかった。証拠があったし、わたしの能力ならそれが可能だからだ。「なんでも食べることができる」という能力に例外はない。それが人間だってね。加えて、この能力によってどんな大きさのものもどんな量であっても食べてしまうことができるんだ。
 だから、見つからない祖父の遺体を食べたのだろうと疑われた。
 そして有罪判決を受けて、まあ未成年だったから過去へ「島流し」されることになったんだ。そして、この時代のドロンドンで起きた超能力犯罪を解決するという義務が与えられた。全部クリアすれば未来に戻れるけれど、この義務に背けば遠隔操作でわたしは殺されてしまう。
 君と出会ったのは、ちょうどその一回目だったんだよ。

「待ってください。では結局、先生は人殺しをしていないんですよね?」
 話を聞いていて真っ先に浮かんだ疑問はそれだった。だがシャシャーロックは首を横に振った。
「わからないんだ、わたしが本当にやったかどうか」
 涙を流しながら彼女は続ける。
「自分ではやっていないと思っていた。でもたくさんの人に、お前しか犯人はいないと言われて。本当にわたしが祖父を殺したのかも知れないと考えるようになったんだ。実際、わたしは『それをたべよう』と強く念じるだけでどんなものも飲み込めてしまうんだ」
「だから、マスクを外さないんですか」
 涙でぐしょぐしょになった顔を彼女は手でぬぐい続けている。その間も涙が止まらない。
「ああ。わたしの能力のトリガーを封じるためにやっているんだ。君や、他の人たちを間違えて食べてしまわないように」
 本当に恐ろしいもの。彼女がそう呼んでいたのは自分自身だった。意識しただけでなんでも食べてしまう能力は彼女を外の脅威から守ると同時に、内側から恐怖を与え続けていた。
 似た者同士という言葉を思い出す。僕はなにかの間違いで彼女を裏切るんじゃないかと思っていた。だが彼女は、自分にすでに身に付いてしまった超能力を恐れていたのだ。
 僕は何も言葉にできなかった。
 しばらく泣きじゃくる彼女を見つめて、そしてそっと近づいた。
「ンワトソン君?!なにを」
 彼女のマスクを取り外す。悲しみで歪められた口元が露になる。
「先生、僕はあなたが人を食べようだなんて思わないことをよく知っています。現実に、タチババナのことを食べてはいなかったでしょう?」
 指でそっと彼女の涙を拭き取った。彼女は叫んだ。
「でも!これから誰かを食べちゃうかもしれないんだぞ!」
「そのときは僕が止めますから」
 僕は彼女を諭すように告げる。
「アティモリの正体も掴めました。これからたくさんの事件を解決して、奴を捕まえる必要があります。そのために先生の力が必要なんです。だから、先生が誰かを食べそうになったら、僕が口をふさいで止めて見せます。すべての事件を解決するまで、一緒にいてくれませんか?」

 その日から彼女はマスクを外した。

おわり [編集済]

はいっ!そこまで!!!
投稿フェーズ締め切りです!
シェフの皆様本当にお疲れ様でした(*´꒳`*)

参加者一覧 20人(クリックすると質問が絞れます)

全員
OUTIS(6良:3)
ごがつあめ涼花(4良:2)
さなめ。(3良:2)
シチテンバットー(5良:3)
かふぇ・もかろに(1良:1)
きの子(1良:1)
リンギ(3良:2)
きっとくりす(1良:1)
「マクガフィン」(6良:2)
とろたく(記憶喪失)(1良:1)
M(1良:1)
ハシバミ(4良:2)
イナーシャ(3良:2)
弥七(4良:2)
ぎんがけい(1良:1)
葛原(2良:1)
フェルンヴェー(4良:1)
くろだ(3良:1)
すを(3良:1)
Hugo(3良:1)
相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
すを>>あ、すみません、遅まきながら投稿報告です。魔女のおはなしを投げさせていただきました。楽しかったです。企画を設けてくださった皆様に心から感謝します![29日01時22分]
もっぷさん>>Hugoさん、よかったです!ちょっと焦りましたね(>_<)お疲れ様でした![編集済] [29日00時28分]
Hugo>>編集終わりました。もっぷさんどうもありがとうございます[29日00時23分]
1
Hugo>>本当にご迷惑をおかけします、、[29日00時15分]
もっぷさん>>もちろんです! どうしても無理そうでしたら、追加質問いただいてもかまいません![29日00時14分]
Hugo>>申し訳ないのですが、しばらくコピペチャレンジを続けてもよろしいですか?[29日00時11分]
もっぷさん>>あ!ホントだ、Hugoさん途切れていますね…![29日00時10分]
もっぷさん>>今日の午前中には投票会場を設置したいと思います。素敵な解説の数々を堪能しつつ、しばしお待ちください![29日00時09分]
Hugo>>ところで、コピペが上手くいかないのですが、字数制限とかあったりしますか、、?[29日00時07分]
Hugo>>参加します(事後)[29日00時06分]
もっぷさん>>今回も怒涛の滑り込みがありました…!Hugoさん、投稿ありがとうございます!ギリギリまで粘って創り出していただいた作品、後ほどしっかり読ませていただきますね![29日00時06分]
シチテンバットー[1問正解]>>今回も最後尾じゃなかった()[29日00時00分]
1
もっぷさん>>シチテンバットーさん、二作目投稿ありがとうございます!残り10分!シチテンバットーさんに始まり、シチテンバットーさんに終わる回となりそうですね…![28日23時50分]
もっぷさん>>ハシバミさん、前回主催でお疲れのところ投稿ありがとうございます!毎回様々なテイストの作品創り出されているの凄すぎます…! すをさん、投稿ありがとうございます!ひゃー大作!ご参加いただけて大変嬉しいです(^^)[28日21時30分]
ハシバミ>>投稿しました。だいぶ説明不足な気はしますが……とりあえず間に合って良かったです。[編集済] [28日20時03分]
1
もっぷさん>>ごがつあめ涼花さん、投稿ありがとうございました!新生活の準備でお忙しいなか、こんな力作を創りだしていただき感激です!涼花さんファンの皆さま必見!![28日16時31分]
ごがつあめ涼花>>投稿しました。今回引越しの準備とかでどたばたしてあんまり時間が作れなかったのですが、何とか出せて良かったです・・・![編集済] [28日15時07分]
4
さなめ。[ラテアート]>>すみません、入れ忘れたものがあったので少し編集しました。
もっぷさんご感想ありがとうございます![編集済] [28日11時33分]
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もっぷさん>>さなめ。さん、投稿ありがとうございました!香り豊かでほっこり温まる作品です(*´-`)「苦難の中の力」という花言葉、今の世の中になんとふさわしいことでしょうか。[28日00時13分]
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さなめ。[ラテアート]>>投稿失礼します。暖かい薫りをお楽しみあれ![27日16時20分]
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もっぷさん>>OUTISさん、二作目投稿ありがとうございます!投稿フェーズも残すところあと二日となってまいりました![27日00時05分]
もっぷさん>>「マクガフィン」さん、投稿ありがとうございます!読み終えてからタイトルを見ると沁みますね…![25日01時00分]
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「マクガフィン」>>投稿させていただきました!個人的には書きたいことが書けたなという感じで満足しております(^^) 細かいところはちょこちょこ直すかもですが、ひとまずご査収ください。[25日00時25分]
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もっぷさん>>くろださん、投稿ありがとうございます!楽しんで創りだしていただいたとのこと、主催者として嬉しいです♫ 締め切りまでは訂正も可能なのでご安心を〜![24日21時25分]
くろだ>>もうなんかみんなでアンソロジーを書いている気分ですね!楽しかったです。誤字有ったので一瞬で編集しました。[24日11時46分]
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もっぷさん>>リンギさん、フェルンヴェーさん、投稿ありがとうございます!力作揃いになってまいりました…!フェルンヴェーさんは初参加ですよね!ようこそです〜(*´꒳`*)[23日23時19分]
フェルンヴェー>>投稿しました。簡易解説が簡易じゃない気がして心配です。[23日17時57分]
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リンギ>>投稿させていただきました。ご査収ください。なっがくなったよぉ…![23日14時06分]
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もっぷさん>>葛原さん、投稿ありがとうございます!ご参加いただけるとは!葛原さんの美しい文章をまた読めて嬉しいです!![23日05時15分]
葛原>>参加します。毎回要素出しに参加できなくてすみません…[23日02時28分]
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もっぷさん>>OUTISさん、投稿ありがとうございます!わー大作だ!私の主催回で光栄すぎます。そして、私たちはこの壮大な夢物語をより楽しむために、過去を遡る旅に出かけた方がよさそうです…![21日23時58分]
もっぷさん>>弥七さん、投稿ありがとうございます!いつもと違うスタイルにチャレンジできるのも創りだすの醍醐味![21日07時10分]
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弥七>>投稿しました!なんだかいつもと違うスタイルですが、思いついちゃったんだもん、仕方ないよね...??[21日02時26分]
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もっぷさん>>くろださん、はじめまして!そうなんです!創りだすはとっても面白いのです!ぜひぜひ投稿お待ちしております〜(^^)[20日12時24分]
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イナーシャ[ラテアート]>>誤字があったので修正しました(それ以外は変えていません)[20日11時39分]
くろだ>>めちゃくちゃ面白そうな企画ですね・・・!投稿できるかわかりませんがとりあえずコメだけ。そしてお二方はやいぇ・・・[20日10時47分]
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もっぷさん>>シチテンバットーさん、イナーシャさん、投稿ありがとうございました!驚きの速さ!!ありがたいです(*´-`)[20日06時52分]
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イナーシャ[ラテアート]>>また被りそうになると恐いので今から投稿します!と宣言→完了!お邪魔しました[編集済] [20日01時10分]
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イナーシャ[ラテアート]>>うわ危ない、タイミング被る所だった…ギリギリセーフ⊂(・∀・)⊃[20日01時02分]
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ごがつあめ涼花>>???????????????(要素を見た感想)[19日23時26分]
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さなめ。[ラテアート]>>やっばいです。(シンプルな感想)[19日23時20分]
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とろたく(記憶喪失)>>やばない?(シンプルな感想)[19日23時17分]
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シチテンバットー[1問正解]>>無かった。失礼しました。[19日23時15分]
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イナーシャ[ラテアート]>>おおう、これは中々…頑張って作りましょうかー。余談ですが7と8見てフフッてなりました。仲良し…![19日23時14分]
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シチテンバットー[1問正解]>>今回一人何作までとかありましたっけ?[19日23時14分]
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「マクガフィン」>>各要素は程々に抑えられててありがたいですが、15個並ぶと壮観ですね!がんばらなきゃ〜^ ^[19日23時14分]
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弥七>>ひえっ...難易度高いですが...頑張ってみます...。[19日23時10分]
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弥七>>(すいません、アカウント間違えました..^ ^;)[19日23時10分]
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月刊らてらて放送室!>>編集済み[編集済] [19日23時08分]
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もっぷさん>>難易度が……大丈夫です……よね?[19日23時03分]
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もっぷさん>>お風呂離席してました(>_<) Mさん、ハシバミさん、イナーシャさん、ぎんがけいさん、ご参加ありがとうございます![19日22時36分]
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ぎんがけい>>滑り込みでまず要素参加します[19日22時22分]
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イナーシャ[ラテアート]>>参加させていただきます。ワクワク感大きいですね!でもどのくらいまでセーフなのかわからなくて恐くもある…[19日22時05分]
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ハシバミ>>参加します![19日22時04分]
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M[はらこめし]>>参加します[19日22時02分]
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弥七>>うーん、ほんとにどうしよう...他の方の要素が見えないのってこんなに怖いのですねー。[19日21時25分]
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もっぷさん>>「マクガフィン」さん、ご参加ありがとうございます!要素多いから問題文薄味にしようか迷ったのですが…きっとなんとかなります!![19日21時14分]
もっぷさん>>リンギさん、ご参加ありがとうございます!!皆さま駆けつけてくださってとても嬉しい![19日21時12分]
「マクガフィン」>>私も久々に参加します!過去最高難度の可能性…ブルブル[19日21時11分]
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もっぷさん>>全然普通じゃない要素が垣間見えた気が……[19日21時10分]
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さなめ。[ラテアート]>>他の方の質問が見えない、新鮮ですね…![19日21時09分]
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もっぷさん>>とろたくさん、かふぇ・もかろにさん、きっとくりすさん、ご参加ありがとうございます!楽しんでいってください![19日21時09分]
リンギ>>参加させていただきます。[19日21時09分]
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もっぷさん>>弥七さん、シチテンバットーさん、ご参加ありがとうございます!イベントの主催や準備で忙しいなかお越しいただいて嬉しいです![19日21時08分]
きっとくりす>>参加します。[19日21時08分]
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とろたく(記憶喪失)>>誤爆しちゃった★ 質問変えますのでご安心ください。[編集済] [19日21時08分]
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かふぇ・もかろに>>sankaします。[19日21時07分]
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とろたく(記憶喪失)>>参加します。私は普通の質問投げときます。[19日21時06分]
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もっぷさん>>ごがつあめ涼花さん、ご参加ありがとうございます!ぜひ久々に創り出しちゃってください![19日21時05分]
シチテンバットー[1問正解]>>参加しまする。[19日21時05分]
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弥七>>参加します!^ ^[19日21時05分]
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もっぷさん>>OUTISさん、ご参加ありがとうございます!質問一番乗りですね![19日21時04分]
ごがつあめ涼花>>久々に参加させて頂きます!!!!!![19日21時04分]
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OUTIS>>酸化させてもらうヨ[19日21時03分]
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もっぷさん>>さなめ。さん、きの子さん、早速のご参加ありがとうございます!![19日21時03分]
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きの子[15イイネ]>>参加させていただきます![19日21時02分]
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もっぷさん>>皆さま、お先に歓迎します!![19日21時02分]
さなめ。[ラテアート]>>参加します![19日21時02分]
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■■ 問題文 ■■

物騒な空気がただよう時代。
平穏を取り戻したかった少女は、マスクを外すことにした。
どういうこと?

■■ 要素一覧 ■■
①仮面
②綺麗だった
③私なりのささやかなプレゼント
④顔に液体がかかる
⑤桜の写った集合写真が重要
⑥涙が流れる
⑦うたう
⑧みんなで踊る
⑨時計の針は進み続ける
⑩ペットボトルが重要
⑪1/2の確率
⑫眠くて仕方がない
⑬少女は自分以外誰も知らない秘密を抱えている
⑭「私の国では挨拶みたいなもの」
⑮なかなか始まらない

■■ タイムテーブル ■■
☆投稿フェーズ
 要素選定後~3/28(土)23:59まで
☆投票フェーズ
 投票会場設置後~4/4(土)23:59まで ※予定
☆結果発表
 4/5(日)21:00 ※予定