最愛の罪人

彼には親がいなかった。厳密には存在しているのだが、父親はDVに浮気と暴帝のごとく振る舞った挙げ句、浮気相手の女と暮らすためとっとと家を出ていった。母は日頃の暴力による後遺症で体を悪くし、父が出ていったとほぼ同時期に衰弱して死んでしまた。
その当時中学に入るほんの直前だった彼は、祖母に引き取られながらも心の中に自分と母親の人生をメチャクチャにした毒父への復讐を固く心に誓っていた。

高校生になった彼は、奇妙な偶然ながら、同じ高校の同級生だった女の子が父親と共にデパートで買い物をしているのを目撃する。ちらりと見えた程度で向こうに気づかれているようすはなかったが、彼の心には鋭い電流が走った。

あの女の子の父は、母を殺した自分の父ではないか。あの女の子は、自分の異母兄妹なのだ。

彼は学校で彼女に積極的に近づいた。数ヶ月ほど友人の関係を続け、彼は彼女と交際した。全ては父を殺すため。人を復讐の道具にすることには心がいたんだが、憎悪の気持ちはその罪悪感を軽く凌駕した。
だが彼の方も、どこかで本当に彼女を愛し始めてしまったのだろう。中々復讐を決行するには至らなかった。チャンスをつかんでから早半年、彼女への気持ちが復讐の決行を遅らせていた。
そこで彼は賭けに出た。彼女への罪悪感が復讐心を鈍らせているのだと踏んだ彼は冬休みが始まる直前、食事と称して彼女を呼び出し、自分が今からしようとしていることを全て話した。

彼女は涙ながらに彼の生い立ちと、その怒りに耳を傾けた。彼女を溺愛していたため家では一見優しく見える父親だが、彼女に見えないところでは彼女の母親に暴力を振るっていたことを知っていた彼女は彼に深く共感し、結果として、彼と彼女は協力して父親を殺害したのだった。