短気な兵士長

ウミガメ王国で突然起きた内輪揉め。
事の発端は新人兵ウミオが兵士長に自分がスパイであることをバラし、それを見抜けない国王や兵士たちを馬鹿にしたことだった。
それを聞いた兵士長ラテオは激昂し新人兵に斬りかかろうとしたのだが、城内で突然兵士長が暴れ出したと他の兵や使用人たちに止められてしまう。

「離せ！そいつはカメオ国王を侮辱する敵国のスパイだ！」
「そんな！私はカメオ国王を尊敬してお守りしたくこの城の兵として志願したというのに！」

城内での騒ぎは当然国王の耳にも入り、事の経緯を国王に伝えたのはその場に居合わせた使用人や兵士たちであった。

「あの兵士長が新入りの兵士に城内で剣を向けたというのは本当か？」
「はい。私はその場に居合わせておりましたが、新人兵がとてもにこやかに話していたのに兵士長が突然剣を抜いて怒り出したのです」
「我々が止めに入った時、兵士長はそいつは国王を侮辱するスパイだと騒いでおりましたが……」
「国王陛下を尊敬して兵に志願したと言っていた新人兵が国王を侮辱するとは思えません」
「むしろ兵士長は最近歳のせいか怒りっぽいですし、何か気に入らなかっただけなのでは……」

他の兵士や使用人もその場を目撃していたが、誰も新人兵の話していた内容は聞いていない状況であり、そのため談笑していた新人兵に兵士長が突然斬りかかったようにしか見えていなかったのである。

目撃情報や新人兵の「突然兵士長が怒り出し剣まで向けてきた」という言い分と兵士長の言い分は当然食い違っており、国王は周囲の証言に従い兵士長のほうを一時的に牢へ入れることに決めたのだった。

ただし、元々の信用が高かった兵士長の言葉を信じた国王と一部の兵士達が、新人兵がスパイとして尻尾を出したところを捕らえる為、兵士長を安全な牢獄へ入れてひと芝居打つことにした……というのはまた別の話。


ちなみに「自分は笑顔のまま口撃で相手を怒らせ、周囲には自分が突然怒られた被害者のように見せる」というのは日本では忍術にもなるほど古典的に行われた作戦の１つだそうです。