葉月の目の前にはオシャレなお菓子が並んでいる。
岩塩のサブレ、ゴマのガレット、紅茶のクッキー…
それと同時に。
葉月の頭の中にはガラクタが並んでいる。
綺麗な石、珍しいミニカー、セミの抜け殻…
なぜ?
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《簡易解説》
洋菓子店で売っていたクッキー缶が小学生の頃に友達にもらった『宝物入れ』と同じだったので、中身を思い出しているから。
あ、私あのクッキー缶知ってる。
どんな味のクッキーが入っているかは分からない。名前も知らない。
でもあのクッキー缶は絶対に見たことがあるのだ。
小学生の夏休みにもらったから。
◇ ◇ ◇
「ちょっと来なさーい」
玄関から呼ぶ母の声に応じて向かうと、知らない男の子がいた。
「隣の吉田さん家の親戚の子で、東京から来たんだって。夏休みの間はこっちにいるそうだから、一緒に遊んであげて」
「はーい」
私はやる気のない声で答えつつ、その子のことをまじまじと見た。
皺ひとつないシャツに、さらさらの髪。白くて細い腕は、木登りなんてしたことないんだろうな。
大人になって振り返るとかなり失礼なことを思っていたが、それが彼との出会いだった。
◇ ◇ ◇
その後は毎日のように一緒に遊んだ。
近所の子も巻き込んで、虫取り、川遊び、花火に流しそうめん。
彼はいちいち目を輝かせて、「図鑑で見たやつだ!」とはしゃいでいた。
私が手持ち花火を見ながら「なんで花火っていろんな色なんだろう」とつぶやくと、彼は「入っている金属によって色が変わるんだよ」とさらりと答えてくれた。
同級生でそんなこと知っている子は誰もいなかった。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで夏休みも終盤。
もうすぐ彼が東京に帰る日も近づいていたある日。
「これ、あげる」
そういって彼が金属製の缶を差し出してきた。
「何?お菓子?」
水色の箱にオレンジの蓋がされている。なんだかおしゃれな模様もある。
「クッキーが入ってたけど、今は僕の宝物入れ。ここでの夏休みが楽しかったから、あげる」
「宝物なら自分で持ってなよ」
「いいの。あげる」
「うーん…… じゃあさ、私の宝物入れと交換しよう!」
当時の私の宝物入れの中には何が入っていただろうか。キラキラのシールやビーズ、おもちゃの指輪なんかが入っていたと思う。
「いいよ、うれしい。ずっと持っててくれたら、もっとうれしい」
そう言ってはにかんだ彼を、私は今の今まで忘れていた。
◇ ◇ ◇
地元で就職した私は仕事の出張で東京に来ていた。
せっかくの機会だから、おしゃれなお土産でも買いたいよね。
そう思って入った洋菓子店。
かわいらしい内装を眺めていると、焼き菓子コーナーで目が留まる。
水色の箱に、オレンジの蓋。細かい模様のひとつひとつに見覚えがあった。
あ、私あのクッキー缶知ってる。
どこで?なんで?
数瞬ののち、記憶がよみがえる。
──あの子が夏休みにくれたのと同じだ。たしか中身は……
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